ジブリの烙印(東小金井村塾編その11~引き裂かれるアニメ)
十二月に入った。この塾も残りひと月となった。
高畑さんがまた、ビデオテープを持参して現れた。
「もう年も押し迫り、この塾も終わりに近づいてきましたね。
今日はみなさんに特別なプレゼントを用意しました。
まだ劇場未公開の出来たてホヤホヤの新作アニメをみんなで観ることにしましょう」
そう言って高畑さんはテープをデッキに挿し込んだ。
「まだ評価の定まっていない作品に接して、自分に何が言えるか、そういう自分の鑑識眼を試すことも必要だと思うのです」
作品が始まった。
父を事故で亡くした中学生の少女が、母の郷里である瀬戸内の島に引っ越すことになる。
東京からのんびりした田舎に引っ越して戸惑いを隠せない少女。
それだけでなく周辺に不可解な出来事が頻発する。
実は天国にいる父が娘を心配してオバケの三人組を少女の許に遣わし、少女の不如意をなにかと助けようとするが、粗忽者のオバケたちは逆に失敗ばかりしてしまう。
こっそり手助けするはずが少女に正体をばれてしまう始末。
ラストは仕事をしていた母が持病の喘息を悪化することから始まる。
離島で医者のいない地の利の悪さのうえ、折悪しく台風が襲ってくる。
少女はオバケの助けを借りて本島の医者の助けを得ようと奮闘する。
オバケたちは自分たちの力を本領発揮して奇跡を起こす。
母も助かり、少女もこの島での生活に根を下ろしたのを確認して、オバケたちは父からの少女への手紙を手渡し天上へ去ってゆくのだった。
「さて、どうでしたか」
高畑さんがニヤニヤしながら言う。
こういうときの高畑さんが何か一物もって話しかけているのが分かるくらいには皆、この一年で高畑さんの癖を習熟していた。
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?