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『話の話』を記述する(No.16~不意の猫)

 それでは寝そべった嘘の猫のことに戻ろう。
 これは論者だけが騙されたのだろうか、カメラが左移動してズームして猫が現れたとき、その猫が動き出すとは予想していなかった。
 止め絵だと思ったら、動き出した。
 それもまた、アニメならではの表現である。
 アニメは基本的に止まっている瞬間をコマ撮りしながら、ひとコマひとコマ動きをつけていき、映写されたとき動きとして認識する。
 しかしアニメは画面に存在する人やモノにすべて動きをつけるわけではない。
 中央の人物が盛んに動いているときに、重要でなく・目立たなく存在するものが、静止したままであることは往々にしてある。

 もちろん静止していたモノが動き出すことは反則ではない。
 むしろ反則になりそうな瞬間を狙って、静止していたモノが動き出すと、見る者は不意を突かれる。
 実際、この猫へとカメラ移動しているとき、それは風景の説明であり、叙事だと思っていたので、論者はそれが動くとは思わなかった。
 この驚きは論者だけの迂闊だろうか。

 それでも騙される素地はある。
 つまり猫と猫が寝そべるテーブルは描かれるタッチが同質的で、絵として一体化している。
 背景とキャラクターとが同一なタッチで描かれているから、背景として処理されるものと予断する。
 止め絵かと思わせて動き出すアニメならではな魔法である。
 だから動き出すこと自体の原初的な驚きを味わわせるのは、なかなか困難だ。
 見る者の迂闊さを計算しないといけない。
 だから頻出できる技ではない。
 一般にテレビで観るようなアニメでそんな驚きに出くわすことはまずない。
 さて猫は背中を掻いていた左手をテーブルの縁へとぶらさげる。
 そのぶらぶらした動きが画面に一瞬だけとらえている。細かいところまで工夫している。贅沢な見せ方だ。


それでは「その17」へ行こう。

これらの記述の一覧はこちら。


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