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ノルシュテイン『話の話』を記述する(1~したたる林檎)

 さてこれから「見えるもの」をすべて書き尽くすと宣言しながら、『話の話』を見始めるや、のっけからつまずく。
 画面は雨の降りしきる暗闇に置かれた青りんごの表面に、水滴がしたたり落ちる様から始まる。

 しかしこの水滴が落ちる様の見事なこと。
 あるいはこれは実写ではないかと疑わせる。
 水滴はりんごの表面をもつれるようにしたたり、ときに別の水滴とぶつかりひとつの流れとしてすべり落ちる。

 見事な動きだ。
 これから始まる三十分の画面に展開されるなかでも屈指の出来のよさである。
 この作品は全体で二、三箇所、ほかにも水滴が落ちる動きが確認できるが、この冒頭のりんごの水滴に比べればいかにも苦心して動きをつけたと思わせる出来だ。
 それに全編を見ればノルシュテインは動きの付け方に特異なセンスを持っているものの、技術としての完成度から見ると決して高くはない。
 むしろ故意にぎこちなさを残しているのではないかと疑わせる動きでよしとしている節がある。
 それを知る者にとってこの冒頭の水滴の表現は出来すぎている。

(その2につづく)


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