「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」小説6巻のあることについての解題(ネタバレ)
小説「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」について
これからしばらく「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件」(略称「お隣の天使」)について色々と解題していこうと思います。
この感覚、久しぶりですね。「マリア様がみてる」以来の、解題シリーズになるでしょう。
この作品のあらすじを申せば、「ボーイミーツガール」「ガールミーツボーイ」
「恋する少年少女ののろけ話」です。
この作品はある意味マンネリズムに覆われているのですが、それでも読んでしまう魅力があります。それは、2人の主人公の人物描写の巧みさと、それに基づいた実在感の強さ、生活の中で好きな人とどのようにして関係を保っていけるか、といったある種の知恵について描かれているからです。
ふたりの主人公、男性側は「藤巻周(ふじさき・あまね)」、女性側は「椎名真昼(しいな・まひる)」です。2人とも高校生です。物語序盤、高校一年生では異なるクラスにいましたが、進級して高校二年生からは同じクラスに属しています。
周と真昼のなれそめと、その後の2人の関係を中心に話が展開しますが、その中で様々なカップルが登場し、描かれ、ある種の恋愛カタログのようになっています。
その一方で、それぞれが背負っている、あるいは背負わされた重荷についての描写があります。この、不気味な通奏低音があるが故に、2人の時間と幸せの生成の仕方は輝いて見えてくる、という仕掛けもあるかと思います。
で、この作品を最初から解題するよりも、まず緊急で扱わなければならない課題があるので、まずそこから解題していこうと思います。
ここからはネタバレになります。
「真昼」の父が持ち込んだ「爆弾」
椎名真昼は被虐待児です。彼女の両親は彼女に全くと言っていいほど関心を払っていません。母親などは直接暴言を吐く始末です。
真昼は経済面で言えば不自由したことはありません。食事に困ることもありません。むしろ住む場所に関しては恵まれているともいえます。しかし、親から全く無視されて育ちました。そのような意味ではネグレクトの被害者です。そのせいで、一定の歪みが生じています。おそらくこのことが物語を駆動するエンジンの一つになっています。
彼らが高校二年生の夏休みを過ごしていたある日、真昼の父に相当する男、椎名朝陽が何故か真昼ではなく、周に接触してきたのです。
このあたりも結構トリッキーですが、椎名朝陽の意向にかかわらず、いずれにせよ真昼のパートナーである周が彼に対峙していたことでしょう。それくらいにはこの話はもつれています。
そこでの会話で、椎名朝陽は周にこう伝えます。
周は自分の「身内」、真昼を傷つけ続けた彼女の両親に対する怒りから、ここで会話を打ち切ってしまいます。
彼らの倍以上生きてきた私がこの会話を聞いたなら、私は朝陽にこう問うていたでしょう。
「見当違いかと思いますが、あなたの余命はどれくらいなのですか」
ネグレクトしてきた娘の顔を見に来たこと。
「今のうちに会っておきたい」から顔を見に来たこと。
「将来的に会えなくなる」から。
「娘」のパートナーに、パートナーだからこそ呼び出したこと。
これらから類推されることは、朝陽が何らかの退っ引きならない事情を抱えたということ、それが何らかのカウントダウン、タイムリミットがあるということです。
この邪推が当たっているのだとすれば、とても
「あの子をこれ以上不幸にするつもりはないよ」
といえるような案件ではない、ということになります。
社会人として、また、仕事人として真昼の両親は金銭的に余裕がありますが、そのうち一方が死亡するとなれば、資金面においてはずいぶん大きなダメージを受けることになるでしょう。収入が半減するような事態に陥るためです。
さらに言えば、真昼の母親の方は今すぐにでも「娘」をどこかに追い出してしまいたいという感情を抱えているように見えますので、養育費を支払い続けるかどうか不明、というのも不安材料の一つです。まあ、外面をよく見せるのなら、「娘」への仕送りは続けて、マンション1フロアに暮らすような生活を止めて娘の扶養は続ける、という可能性もあるのですが、果たしてどうなるか分かりません。
では、もし1年以内に朝陽が死亡する場合、どのようなことになるのかを検討してみます。
半同棲から同棲へ
本作をずっと追いかけてきた方はご存じでしょうが、周と真昼は周の両親に非常に気に入られ、援助することも惜しまない状態にあります。このことは2人にとって非常に心強いものとなっています。
そこをさらに頼ることになってしまいますが、もしこの期に及んでネグレクトが再燃するようなことがあれば、「まだ子ども」である2人を彼らが守るということになるのではないか、と推測されます。
そうは言っても、マンション2部屋を維持するためにはかなりの資金が必要になり、ともすれば家計をかなり圧迫することになることも予想されます。
そうであるならば。
借り上げる部屋を周のものだけにし、真昼を同棲させて一部屋ケチる事で経済的負担を減らすのは合理的でしょう。
もちろん、ストーリー上も変化が起きるでしょう。第6巻の時点で周と真昼は半同棲状態にありますが、それが文字通り「一つ屋根の下で」暮らすようになる、ということです。
もう一つ大問題が起きそうなのですが、それらはまたの機会にいたしましょう。
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