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(ネタバレ全開)小説 義妹生活12巻 感想・解題・考察 ②なつかしいもの

小説「義妹生活」第12巻の感想・解題・考察の続きです。
ネタバレ全開です、読むとき注意!!

渋谷区の「郷土資料館」、実在します。
少し名前が違っていますから、あくまで「参考にした施設」でしょう。

見学観覧時はルールとマナーを守りましょう。

渋谷界隈から近い温泉について
近所の温泉地として熱海が選ばれていますが、私は箱根や鶴巻温泉あたりを思い浮かべました。新宿から小田急線・箱根登山線で直接つながっている温泉地ですので、そちらの方が行きやすいかと。
熱海、伊東も確かに首都圏から行きやすい温泉地ですね。東京にいてJRの駅が最寄り駅ならなおさらです。

逃げなきゃ駄目だ
生活していれば時折、本当に逃げなければ生きていられないほどの状況に追い込まれることがあります。そのようなときは「逃げなきゃ駄目」です。「今逃げたら後悔する」なら、踏みとどまるのもよいでしょう。しかし、どうしようもなくなることは確かにあり、そのようなときは逃げましょう。
「逃げるは恥だが役に立つ」のです。

離婚家庭の子どもが往々にして抱く疑問

リンクが日本のものではないため英語のタイトルに見えますが、この論文は日本語で書かれています。
この論文に、このような記述があります。

離婚について子どもが最も大きなマイナスと考える傷や悩みは自己感の傷つきや喪失であり、それは他者との関係や社会との関係へ発展していく。

平松千枝子「親の離婚を経験した子どものこころ」駒沢女子大学研究紀要第12 pp.155~171, 2005

これをなぞるように、沙季には自分が生まれてきたことに対する自信が薄いことが、本人の言葉から語られます。
そしてそれは、悠太の方にも当てはまることでもありましょう。
なぜ自分がこの世に生まれてきたのか。両親の不仲は、そのような疑問を彼らの子に生じさせることがあるのです。

自分のルーツに疑問が生じると、それは自分の「存在感」「アイデンティティー(自己同一性)」そのものが傷ついてしまい、それが様々な問題へとつながっていくこともあります。

小説「義妹生活」12巻の主なテーマは、ここにあります。
悠太と沙季はたぶんこの先も「傷」を共有し、受け入れ、共に生き、互いを慈しみ合って生きていける、そんな関係になったのかも知れません。

「懐かしい」と「恋しい」は似ている、だけではない

自分の両親が不仲になってしまったことから、悠太も沙季も両親の「馴れ初め」が気になってしまいます。こと「ロマンティック・マリッジ・イデオロギー」が蔓延している日本では、「ある二人が結婚するとき、その二人は必ず恋人同士である/恋愛している」という幻想があり、沙季も悠太もそれにはまってしまっています。

すると、「かつては愛し合っていた二人」の間に自分が生まれたことになりますが、気がつけば両親は不仲になっており、どうして自分が生まれたのかという「存在の根拠」が希薄になってしまうわけです。それは前節で触れた通りです。

だからこそ、悠太も沙季も相手がいつどのように自分を好きになったのかを知りたがる、という話につながっていきます。それが明確でなければその「好き」の根拠がゆらいでしまうわけですから。

その「開示し合い」の中で、こう告白するのです。

「ーー俺は、綾瀬さんのああいうリラックスした姿を見たときに、すごく懐かしいような気持ちを感じたんだ」

小説「義妹生活」第12巻 文庫版pp.178~179 

この「懐かしい」という言葉、私が別の言葉の意味を辞書で漁っていたときに思い当たる記述があり、非常に面白く、興味深いことを知りました。

こい こひ 
(2)古くは,異性に限らず,植物・土地・古都・季節・過去の時など,目の前にない対象を慕う心にいう。「明日香川川淀去らず立つ霧の思ひ過ぐべき―にあらなくに」〈万葉集•325〉

スーパー大辞林より

これは「懐かしい」と非常によく似ている言葉なのかと思った私は、続いて「懐かし」を引いてみたところ、このようにありました。

なつかしい【懐かしい】
(4)心がひかれて手放したくない。かわいらしい。「あさましきにあきれたるさま,いと―・しうをかしげなり」〈源氏物語•花宴〉

スーパー大辞林より

「なつかし」が現代の「かわいい」につながりました。これは有望だと思い、さらに「こう(恋う)」を引いてみました。

こう こふ【恋う】
1,(動ワ五[ハ四])思い慕う。愛する。懐かしく思う。「母を―・う」「故郷を―・う気持ちがつのる」「妻―・ふ鹿の音」〈松の葉〉
2.③(ある場所や物を)懐かしく思う。「人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我は―・ひつつ居らむ」〈万葉集•862〉「月のおもしろかりける夜,こぞを―・ひて」〈古今和歌集•恋五詞〉

スーパー大辞林より

日本語では、誰かを慕う心とその動きについて「こふ」と呼び、一方で「なつく」をルーツとする「懐かし」もまた〈今、目の前にない・いない〉誰か/何かを慕う心とその動きを指すのでした。

「存在しない記憶を漁る」という言葉が飛び交うことがありますが、もしかしたら「恋」とか「推し」とか「ノスタルジック」とか「ふるさと納税」とかは、「存在しない記憶にアクセスする」ことなのかもしれません。あるいは「自分が異世界から転生する前の記憶」を思い出しているのかも知れません。

続きます。


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佐分利敏晴
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