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小説 義妹生活12巻 感想、解題、分析、考察①(ネタバレ)ピアカウンセリングとか

小説「義妹生活」最新12巻の感想、解題、考察です。
アニメドラマ「義妹生活」の放映が一区切りした後で発刊される最初の小説「義妹生活」ということで、注目されている方も多いかも知れません。
宣伝などで小出しにされる情報を見て、色々と考えてしまう方も多かったかと思います。かく言う私もそうで、一応何が起きてもいいように心の準備をして、電子版を発売日の0時過ぎに購入し、一気に読みました。

その結果、想像を越えて実在感のある、現実的な出来事に擬似遭遇することになりました。
沙季に起こった異変の原因を察知できたのはそれが明かされる直前でしたし、その後の悠太の行動は、私には予想もできませんでした。それでいて「あってもおかしくない展開」に感じさせられる事象が連続し、架空の生活描写でありながら実在感を失わない物語になっていたのでした。

そして、巻末。私にとっては非常に嬉しい情報が載っていました。
全く「にまにましい」こと限りないです。
「苦々しい」ではありません、「にまにましい」です。今でも思い出すだけで顔がニマニマします。待ってましたこういうの!
あーでも、ほろ苦い展開にならざるを得ない予感が……

ここからは思い切りネタバレしていきます。

以下ネタバレ

構成の変化

小説の本文を読もうとして目次を見ると、このシリーズを読んでいる方なら誰もが少し驚き、少し懐かしみ、そして疑問を持つでしょう。(私は目次を読み飛ばしたせいで、気付くのに時間がかかってしまいました)

本編の地の文が悠太だけのものになっており、沙季が主体にならない構成に戻っているのです。沙季の思いは、エピローグの日記から読み取っていくことしかできません。

もう一つ気付くのは、目次の「日付」です。10月、秋の出来事という情報だけではなく、この巻がわずか2週間ほど、13日間の物語(ストーリー&ドラマ)だということがわかります。このあたり、正に「生活小説」と呼べる物語になっていると思うのです。

13日間という短い期間の描写だけで一つの巻を構成するということは、それだけドラマが緻密である、ということを意味するでしょう。一方で、ストーリー(出来事の推移で綴られる時間経過とメインキャラクターの変化)が十分にあることもわかります。主人公たちにとってとても重要なステップが、ここにあることも予想できます。

沙季の「気がかり」

この巻での語り部は専ら悠太ですが、難題を抱えているのは沙季だということが最初に明かされます。しかし、その具体的なストレッサーの正体が明らかになるのは、中盤にさしかかる直前あたりです。

沙季の気掛かりとは、親が離婚した家庭には本来必ずついて回ることであり、子どもの成長・発達に大きく関わることとも言えること、「離れて暮らす親との面会」でした。

離婚を社会現象の一つとし、データを集めて分析して社会的背景を探るのが「ソーシャルデータ・サイエンス」ですね。それ以外の方法、例えば個別にインタビューをして事例を一つずつ吟味する方法を採用すれば、また別の研究方法として名前がついています。そういった「離婚についての研究」、特に「親の離婚が子に与える影響を探る研究」に関する論文がいくつもあることからも、この問題の広範さと根深さがわかります。

https://www.moj.go.jp/content/001354869.pdf

これらの研究では「離れて暮らす親」と「子」の「良好な関係」が、子のこころの状態を安定に導く力を持つことがわかっていますが、一つ一つの事例を丹念に調べるとその通りであったり、そうではなかったりします。

相談相手としての環境を同じくする「兄弟姉妹」

その中に、目を引く記述がありました。親の離婚を経験した子であった人に対する自由回答のアンケートで、「同じ境遇にいる人のグループで話すなら、自分の抱えている思いを打ち明けることができるかも知れない」という答えがあった、というのです。「自助グループ」あるいは「ピアカウンセリング」という方法ですね。

そして本作「義妹生活」では、「似たような境遇にいる人」が家族の中にいる、という環境になるだけでなく、最初に「すり合わせよう(何かあったらコミュニケーションをとろう)」と申し合わせた「義理の兄妹」として、悠太と沙季は出会い、関係を育んできたのでした。
そして悠太は「家族」である「(義理の)母」の力を借りて、沙季の「気掛かり」である「元父との面会」にたどり着き、沙季から直接そのことについての話を聞くことができたのでした。

そう考えると、悠太と沙季はかなり稀な出会いをしたのだな、そして稀な「再婚家庭」を作ってきたのだな、ということがわかってきます。
「再婚同士の連れ子で義理の兄弟姉妹になった」という作品は他にも沢山ありますし、境遇を慮りつつ悩みを打ち明けることで親密になっていくという物語も多いです。

「義妹生活」が印象的なのは、ここに至るまで1年以上の時間をかけていることにあります。そのような十分な時間経過を経て二人の関係が12巻で描かれるようになっていく、というじっくりとした描写と作り方であるため、現実感、実在感が特に感じられるのだと思います。

続きます。


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佐分利敏晴
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