動物倫理のブックガイド
1 倫理学の全体像
1-1 概説的なやつ
①ジェームズ・レイチェルズ『現実をみつめる道徳哲学 安楽死からフェミニズムまで』古牧徳生、次田憲和(訳)、晃洋書房、2003年
②ジェームズ・レイチェルズ、スチュアート・レイチェルズ『新版 現実をみつめる道徳哲学』次田憲和(訳)、晃洋書房、2017年
③伊勢田哲治『動物からの倫理学入門』名古屋大学出版会、2008年
④品川哲彦『倫理学の話』ナカニシヤ出版、2015年
①、③、④のいずれも、倫理学を初めて学ぶ人におすすめできるテキストです。②は①の新版ですが、誤訳が目立ちます。③は倫理学だけでなく政治哲学や厚生経済学にも触れており、また動物倫理も学ぶことができます。
1-2 正義論
①川本隆史『現代倫理学の冒険 社会理論のネットワーキングへ』創文社、1995年
②瀧川裕英、宇佐美誠、大屋雄裕『法哲学』有斐閣、2014年
③マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』鬼澤忍(訳)、早川書房
②の第Ⅰ部が正義論の外観を知るのに適しています。
1-3 各論の入門書
①児玉聡『功利主義入門 はじめての倫理学』ちくま書房、2012年
②ピーター・シンガー、カタジナ・デ・ラザリ=ラデク『功利主義とは何か』森村進、森村たまき(訳)岩波書店、2018年
③中島義道『悪について』岩波書店、2005年
④佐藤岳詩『メタ倫理学入門 道徳のそもそもを考える』勁草書房、2017年
①と②で、規範倫理学でもっとも影響力の強い理論である功利主義の大枠を知ることができます。さらに功利主義を知りたい人には、伊勢田哲治・樫則章『生命倫理学と功利主義』ナカニシヤ出版、2006年がおすすめ。③はカント倫理学のちょっと変わった角度からの入門書。純粋な人が読んだら苦しくなること請け負い。④は倫理学の3つの下位分野の1つであるメタ倫理学の全体像を掴めます。
2 動物倫理の案内書
①デヴィッド・ドゥグラツィア『動物の権利(1冊でわかるシリーズ)』戸田清(訳)、岩波書店、2003年
②マーク・ベコフ『動物の命は人間より軽いのか 世界最先端の動物保護思想』藤原英司、辺見栄(訳)、中央公論新社、2005年
③ローリー・グルーエン『動物倫理入門』川島基弘(訳)、大月書店、2015年
3 動物倫理の重要文献
①ピーター・シンガー『動物の解放 改訂版』戸田清(訳)、人文書院、2011年
②ジェームズ ・レイチェルズ 『ダーウィンと道徳的個体主義 人間はそんなにえらいのか』古牧徳生、次田憲和(訳)、晃洋書房、2010年
③キャス・R・サンスティン、マーサ・C・ヌスバウム(編)『動物の権利』安部圭介、山本龍彦、大林啓吾(監訳)、尚学社、2013年
④ゲイリー・フランシオン『動物の権利入門 わが子を救うか、犬を救うか』井上太一(訳)、緑風出版、2018年
⑤スー・ドナルドソン、ウィル・キムリッカ『人と動物の政治共同体』青木人志、成廣孝(監訳)、尚学社、2016年
①動物倫理の古典的著作。この著作によって英米での動物権利運動が本格化しました。原著の初版は1975年。
4 食と動物倫理
①ジョナサン・サフランフォア『イーティング・アニマル アメリカ工場式畜産の難題』黒川由美(訳)、東洋書林、2011年
②シェリー・F・コーブ『菜食への疑問に答える13章 生き方が変わる、生き方を変える』井上太一(訳)、新評論、2017年
③ロナルド・L・サンドラー『食物倫理(フード・エシックス)入門 食べることの倫理学』馬渕 浩二(訳)、ナカニシヤ出版、2019年
④キャロル・J・アダムズ『肉食という性の政治学 フェミニズム-ベジタリアニズム批評』鶴田静(訳)、新宿書房、1994年
⑤マーク・ホーソーン『ビーガンという生き方』井上太一(訳)、緑風出版、2019年
②ビーガンに対して、「植物の命はいいの?」「動物も動物を食べてるけど?」などの疑問を抱いたらこの1冊を。たいていの疑問はこれで解決します。④は動物食をジェンダー論の視点から考察した書籍。ジェンダーの観点と動物倫理を絡めた著作で日本語に翻訳されているものはこの1冊だけです。⑤は動物搾取とその背後にある膨大な人間搾取を取り上げ、ビーガニズムが単なる食事の問題でないことを説くものです。ビーガンという生き方をこの本で知って下さい。
5 研究・教育と動物倫理
①ハンス・リューシュ(編)『現代の蛮行』JAVA翻訳チーム(訳)、新泉社、2001年
②マイケル・A・スラッシャー『動物実験の闇 その裏側で怒っている不都合な真実』井上太一(訳)、合同出版、2017年
③森映子『犬が殺される 動物実験の闇を探る』同時代社、2019年
①やや古いですが、動物実験の内部を暴露した貴重な写真集です。②は元動物実験従事者の半生と反省の書。③は獣医大学や製薬会社などの動物実験従事者、国会議員らへの聞き取りから得た貴重な証言を元に著された、日本の動物実験の実情を追う渾身のルポルタージュです。
6 環境倫理と動物倫理
①アンゲリーカ・クレプス『自然倫理学 ひとつの見取図』加藤泰史、高畑祐人(訳)、みすず書房、2011年
②泉谷周三郎、大久保正健『地球環境と倫理学』木鐸社、1998年
③加藤尚武〔編〕『環境と倫理 自然と人間の共生を求めて 新版』有斐閣アルマ、2005年
④田上孝一『環境と動物の倫理』本の泉社、2017年
⑤ロデリック・F・ナッシュ『自然の権利 環境倫理の文明史』松野弘(訳)、ミネルヴァ書房、2011年
7 動物の認知と行動
①ドナルド・R・グリフィン『動物の心』長野敬、宮木陽子(訳)、青土社、1995年
②マリアン・S・ドーキンス『動物たちの心の世界』長野敬(訳)、青土社、2005年
③藤田和生『動物たちのゆたかな心』京都大学出版会、2007年
④ベリンダ・レシオ『数をかぞえるクマ サーフィンするヤギ 動物の知性と感情をめぐる驚くべき物語』中尾ゆかり(訳)、NHK出版、2017年
⑤ジョナサン・バルコム『動物たちの喜びの王国』土屋晶子(訳)、インターシフト、2007年
⑥S・マッカーシー、ジェフリー・M・マッソン『ゾウがすすり泣くとき 動物たちの豊かな感情世界』小梨直(訳)、河出書房新社、2010年
⑦テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン『動物感覚』中尾ゆかり(訳)、NHK出版、2006年
⑧マーク・べコフ『動物たちの心の科学 仲間に尽くすイヌ、喪に服すゾウ、フェアプレイ精神を貫くコヨーテ』高橋洋(訳)、青土社、2014年
⑨バーバラ・J・キング『死を悼む動物たち』秋山勝(訳)、草思社、2014年
⑩フランス・ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』松沢哲郎(監修)、柴田裕之(訳)、紀伊国屋書店、2017年
⑪ジョナサン・バルコム『魚たちの愛すべき知的生活 何を感じ、何を考え、どう行動するか 』桃井緑美子(訳)、白揚社、2018年
8 アニマルウェルフェア(動物福祉)
①ジェフリー・M・マッソン『豚は月夜に歌う』村田綾子(訳)、バジリコ、2005年
②佐藤衆介『アニマルウェルフェア 動物の幸せについての科学と倫理』東京大学出版会、2005年
③テンプル・グランディン、キャサリン・ジョンソン『動物が幸せを感じるとき』、中尾ゆかり(訳)、NHK出版、2011年
④ヴィクトリア・ブレイスウェイト『魚は痛みを感じるか?』高橋洋(訳)、紀伊国屋書店、2012年
⑤上野吉一、武田庄平(編著)『動物福祉の現在 動物とのより良い関係を築くために』農林統計出版、2015年
⑥ミカエル・C・アップルビー、ジョイ・A・メンチ、I.アンナ・S・オルソン、バリー・O・ヒューズ『動物福祉の科学 理念・評価・実践』佐藤衆介、加隈良枝(訳)、緑書房、2017年
⑦枝廣淳子『アニマルウェルフェアとは何か 倫理的消費と食の安全』岩波ブックレット、2018年
⑧松木洋一(編著)『21世紀の畜産革命 アニマルウェルフェア・フードシステムの開発(日本と世界のアニマルウェルフェア畜産 下巻)』養賢堂、2018年
⑦は薄いブックレットです。短く安価なのでまずは⑦から読んで下さい。
9 周辺の応用倫理
①小林亜津子『はじめて学ぶ生命倫理 「いのち」は誰が決めるのか』筑摩書房、2011年
②鬼頭葉子『技術の倫理 技術を通して社会がみえる』ナカニシヤ出版、2018年
③久木田水生、神崎宣次、佐々木拓『ロボットからの倫理学入門』名古屋大学出版会、2017年
④ピーター・シンガー『実践の倫理 新版』昭和堂、1999年
⑤ジェームズ ・レイチェルズ『倫理学に答えはあるか ポスト・ヒューマニズムの視点から』古牧徳生、次田憲和(訳)、世界思想社、2011年
2019年6月24日 更新
2019年7月20日 更新
2019年7月27日 最終更新