ゼロティックホリックと現代性【国士舘アニ研ブログ】

(この文章は学祭や文学フリマにて頒布した部誌である「Cultures」にて掲載したものとなります。)


ゼロティックホリックと現代性
執筆者:とり天

皆さんはSHOW BY ROCK(以下ショバ)というコンテンツをご存知でしょうか。ショバはサンリオが製作した様々なバンドを描いたメディアミックス作品です。そのショバに登場する最新のオリジナルバンドがタイトルにもあるゼロティックホリック(以下ゼロティク)です。この記事ではそのゼロティクの表現するもののうちの現代性にスポットを当てていきます。
まず本題に入る前にゼロティクがどのようなバンドなのか理解するためにバンド結成までのあらすじとメンバーの紹介を記します。

工学系大学に在学しているギリリは天才である上に対ミューモン※1 スキルの低さから友達といえる存在がいなかった。ある日ギリリは友達を作るために行っているミディドォル※2 製造・起動実験でとあることをきっかけとしてミディドォルに天使の意識体を憑依させてしまう。そうして誕生したぎゃらこ・しまっく・れっぱにょ三人の意識体は不安定でボデェから抜け出してしまうことがあった。そうした事態を防ぐため、定着に必要な音楽エネルギーをバンド活動によって集めることを目的としてゼロティックホリックが結成された。

※1 ショバ世界における人間。
※2人造人間的なニュアンス。

・ぎゃらこ (Vo+Ba)cv ファイルーズあい
ミライ型ミディドォル1号ガラコタイプ。
ボデェに憑依した際に記憶を喪失してしまったためか「アホアホ」と形容されるほどの知力となっている。腕力が以上に強く、たびたびギリリの発明品を破壊してしまう。

・しまっく (Vo+Gt)cv 松岡美里
ミライ型ミディドォル2号シマテンレックタイプ。
メンバー唯一の堕天使。上位存在である自分たちを現世に顕現させた技術力や知に対する貪欲さからギリリを推し始めた厄介オタク。

・れっぱにょ (key) cv 前田佳織里
ミライ型ミディドォル3号レッサーパンダタイプ。
いつもニコニコしているみんなのママ的存在。膝枕や耳かきなどをはじめとした「おしおき」が趣味。食事をカップ麺で済ませがちなギリリを心配している。

・ギリリ (Dr) cv 田中美海
コウガクレキリン族。
天才ゆえの孤独を抱えるミディドォルらの生みの親。
再現性のあるものを求める根っからの科学者。大学ではマッドサイエンティストとうわさされているが、真っ当な研究をしている。

またバンド名のゼロティックホリックは数字の「zero」と「瞬間」の意味や性能が良いことを表すスラングとしても用いられる「tick」、そして熱中や依存の状態を表す「holic」を組み合わせたものです。つまり「今のほんの一瞬に熱中する」または「能力がなくても熱中する」的な意味だと考えられます(スラングを用いた歌詞や自己の能力の低さなどを示唆する歌詞が多いことから後者の意味が意識されている可能性は高い)。
前置きが長くなってしまいましたが、ここからはバンド結成までのあらすじと各メンバーのキャラクター性の二点から現代的表現を探っていきます。先に個人的な見解を述べますと、ゼロティクはオタクに寄り添ったキャラクター性を持っているという面が現代性につながりのある点となっているのではないでしょうか。「オタク」と呼ばれる層の一般化、範囲拡大の進んだ現代においてはオタク受けする要素を含むことは(一般化によってオタク化した層を考慮していない作品でない限り)現代性を帯びているといっても過言ではありません。例えばバンド結成のあらすじについてショバの他のバンドに比べて非現実性を多分に含んでいますが、現実性から離れたものを好むという傾向は「オタク」と呼ばれる層へのイメージとして大きくとらえている人は少なくないでしょう。この「現実性から離れる」という点は現代的オタクの嗜好の傾向にも関わってきます。昨今は主人公が(異世界に転生するなどして)チート能力を獲得したことに端を発する作品が増えており、「なろう系」や「転生もの」などの分類としての名称を得るまでに至っています。一説にはそうした作品が流行したのは「辛い現実から一時の逃避をしたい」と考える人間が増えたためといわれています。もちろんそうした作品群にみられる作品の現実性離れはサブカルチャーのみに起こっているわけではありませんが、サブカルチャーにおいてはこの傾向が顕著にみられるように感じます。このことを踏まえると現実性から離れているゼロティク結成までのエピソードは「現代のオタク」に合わせたものとしてみることが可能です。また、各メンバーの属性を抜き出してみてもこのような現代的オタクの好む属性の傾向が読み取れます。まずしまっくはオタクキャラという属性を持っていますが、これはそのままオタクとの共通性による親近感を発生させています。これも近年流行りの「オタクに優しいギャル」などの「オタク」という概念の一般化が前提となった属性の一つといえるでしょう。また、近年は他作品にもオタクキャラが増えており、「オタク」という概念そのものを属性としたキャラが受け容れられていることからもしまっくが(商業的視点で)キャラクターとして製作されたのかが分かってきますね。他にもれっぱにょはいわゆる「ママみ」(わからない場合は「母性」と変換してください)を感じるキャラクターとして設定されていますが、これも「ママみ」「バブみ」といったスラングが発生した近年、特にそのような属性のキャラクターが増加していることからもゼロティクが現代的オタクへのウケが意識された(言い換えれば「オタク」という現代性にのっとった)要素を持っていることを示しています。
次に注目していきたいのは楽曲の歌詞です。ゼロティクの楽曲には前述したようにスラングを用いたものや暗い内容のものが多く採用されていますので、それを現代性と紐づけつつ考えていきます。まずはゼロティクの一曲目として発表された「ジェネリックヒロイン」についてです。この曲はX(Twitter)やインスタ、LINEなどのSNSに能動的に翻弄されている描写(「そっ閉じ」、「尊み」などのスラングを含む)が多く、SNSが普及した現代ならではの一曲となっています。また自分が無気力で面倒くさい人間だと自覚しており、そこからの脱却を目指すような流れとなっているのですが、おそらくラストまで脱却は達成されていません。これは世論が個人の欠点を受け容れる方向へと進んでいる(別記事で紹介する同じくサンリオ製作の「まいまいまいごえん」でもこれに言及する場面があります)ことと関係のある結末なのではないでしょうか。「一人でも生きていけるけどそれは寂しい。でも自分から誰かとつながる勇気や気力はないから「白馬の王子様」を待ってしまう」といった現代人の抱えやすい悩みをそのまま歌詞にしたゼロティクの現代性とのつながりが大きく出ている一曲です。二曲目として発表された「カクレンボ」は他者から見捨てられてしまったのちに映る陰鬱な世界を描写した曲となっています。「長すぎる呑気なモラトリアム」という歌詞の通り、モラトリアムの長期化とそれに伴う徐々に「大人」へと歩を進める周囲と自分の比較による焦りが描写されています。これは実際に問題視されている問題でもあります。また、この曲も問題が解決されないまま終わるのですが、「ジェネリックヒロイン」とは違い、ある程度受け容れるように締めくくるのではなく事態がなにも好転しないままとなっています。こうした個人の内面的な悩みや問題に他者が介入することの難しさは個人が尊重される世の中であるからこそのものともいえるでしょう。そのような問題が表面化したのは前述の個人の欠点を受け容れるという思想の難点と考えられます。
ここまでゼロティクと現代性とのつながりを並べてきましたが、最後に抜き出した要素を用いて「ゼロティクは何を表現し、この先どのような展開がなされるのか」といったことについて考えていきます。冒頭でも述べた通り、ゼロティクはショバの執筆時点最新のオリジナルバンドとなっています。さらにほかのバンドとは違い、MVが一日一本、計三本公開される形で発表されていたため、かなり力を入れて制作されたバンドだと推測できます。つまり商業的に売れる(=現代の需要を満たせる)ものをコンセプトに添えていると考えるのが妥当ではないでしょうか。運営がゼロティクを商業的に重視していることはゲームアプリがサービスを終了して以降の新曲発表があった(他のバンドはアニメ旧主人公バンドのプラズマジカのみ)ことからも明らかです。他バンドとの違いを考慮して考えるのであれば、運営としては新たな客層を取り込むためにゼロティクを新機軸の現代人に刺さるバンドとして製作した部分が大きいのではないでしょうか。これを軸に考えるとゼロティクは今後新たな展開をするための実験的かつ実践的な試みを行う場として活用されていくのではないでしょうか。これは一見キャラクターをないがしろにしているように思えますが、実際は時代のニーズに合わせて変化していくバンドとなる可能性を含んだ考察となります。最後の楽曲発表となった「MVP」から5ヶ月が経過しましたが、ショバ自体はコミックマーケットC102に企業参加していたり、サンリオキャラクター大賞で19位を獲得していたりするので新アプリ発表などの展開も期待できる状況にあります。ですのでショバ、ひいてはゼロティクに読者の皆様が興味を持ってくださると幸いです。

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