館ミステリー靴下探偵物語その2

登場靴下
流石紫央(さすがしお)…靴下探偵。くるぶしソックスの右足用
流石りあ…くるぶしソックスの左足用。紫央と二人で一組
スケスケ…シースルーの靴下。

登場人物
田辺さん…恐怖の館の主
あんり…田辺さんの友達

※この物語は事実をもとにしたフィクションです。靴下の名前は田辺さんが考えてくれました。

↑この続きです


流石紫央「よし!オレたちでどうにかして靴置き場に行こう!」

田辺さんが靴下を靴だと勘違いして履いているために大量の靴下が消えたと推理したオレは、周りにいる仲間達に靴置き場への移動を提案した。

流石りあ「ちょっと、紫央ったら何言ってるの?」

流石紫央「田辺さんは靴下を靴だと間違えて履いてしまっている可能性がある。その場合、靴下は靴置き場に置かれることになる。靴だと思っているからだ。だから、もしかしたら消えた靴下はみんな靴置き場にいるんじゃないか」

流石りあ「うーん…それはどうかしら?その説、田辺さんならありえなくもないけど、だったらどうして靴下が片方だけ消えるの?田辺さんは靴を片方だけ履いたまま部屋に入っても気にしない人ってことになるわ」

流石紫央「はっ!そうか…!」

オレの推理には致命的なミスがあったのだ。“靴下は片方だけ消えることが多い“と田辺さんは言っていたのだ。

流石紫央「くそっ…!田辺さんでも流石に靴を片方だけ履いた状態で平気でいられるわけないよな」

靴下のミイラ「いや、オレはその説を信じても良いと思う」

流石紫央「靴下のミイラ!」

オレは思わぬ援軍の声に驚き、靴下のミイラのゴムトップからかかとの上部までをまじまじと見た。

靴下のミイラ「おいおい、靴下のミイラって呼び方はないだろう。確かに今のオレじゃあそう見えても仕方がないけどな」

流石紫央「失礼!そういえば自己紹介がまだだったな。オレの名前は流石紫央。で、こっちが…」

流石りあ「流石りあ。左足用よ」

靴下のミイラ「オレの名前は雪月花陽炎(せつげつかかげろう)だ。って言っても、もうオレの名前を呼んでくれるやつはひとりもいなくなっちまったけどな…」

流石紫央「雪月花陽炎…良い名前だ。オレがこれからあんたの名前を呼ぶから元気を出してくれ」

流石りあ「そうよ!私達で何度だって呼ぶわ!雪月花陽炎っ‼」

雪月花陽炎「ありがとう…お前たちのおかげで、もう一度洗濯機に入りたいって気持ちが湧いてきたぜ!」

雪月花陽炎の靴下として生きたいという気持ちが蘇ったところで、オレは改めて何故オレの推理を否定しなかったのかを尋ねた。

雪月花陽炎「昔、こんな話を聞いたことがあるんだ。田辺さんは漫画【ベルサイユのばら】を読んだことをきっかけに、大人になってからフランス人になりたいという気持ちが芽生えたらしい」

流石紫央「うんうん」

雪月花陽炎「その気持ちは成長し、気がついたら実は自分はフランス人なんじゃないかと思うほどになった」

流石りあ「どう見ても田辺さんは日本人よ」

雪月花陽炎「そうだ。彼女はどう見ても日本人だ。当時同居していた母親にも『本当は私フランス人なんじゃないか』と言い、『バカなことを言うな』と怒られたらしい。彼女が29歳くらいのときの話だ」

流石りあ「お母さんが正しいわ」

雪月花陽炎「けれども田辺さんは負けなかった。『じゃあせめて、私の先祖にフランス人がいるんじゃない?私にフランスの血が入っているから【ベルサイユのばら】を読んでにこんなに感動したのよ!』と言ったんだ」

流石紫央「バカなことを言うな」

雪月花陽炎「彼女のお母さんも同じことを言ったらしい。『バカなことを何度も言うな。あんたにフランス人の血が入っているんじゃなくて、作者の池田理代子がすごいんだ』ってね」

流石りあ「そのとおりよ!」

流石紫央「ちょっと待ってくれ。田辺さんがふざけたことを言うってことは十分にわかったけど、その話がどうやって繋がるんだ?」

雪月花陽炎「田辺さんは自由なんだ。彼女にとって室内に片方だけ土足で上がったとしても、大したことではない」

雪月花陽炎は真っ直ぐにオレを見て言った。オレよりも田辺さんを知っている靴下の言葉はとても説得力があった。

流石りあ「そうね…そう言われるとそうかもしれない」

流石紫央「よし!そうと決まれば靴置き場に行こう!」

流石りあ「ちょっと待ってよ!私達靴下なのよ!田辺さんに履いてもらえないと動けないわ」

オレはまた大事なことを忘れていた。オレたちは靴下だった。自分の力では移動できない。

流石紫央「くそっ!なんて無力なんだっ!」

流石りあ「無力じゃないわ!靴下は立派よ!ただ私たちにできることは足の保護と保温、そして足元のおしゃれってだけよ!」

スケスケ「後、消えることね」

※スケスケは流石たちと一緒に田辺さんに買われたシースルーの靴下です

流石りあ「ちょっと!あんたずっと黙っていて第一声で酷いこと言うのね!」

流石紫央「くそっ!せっかく解決の糸口が見えたのにここまでなのかっ!」

オレたちの周りには絶望のムードが漂った。しかし、この靴下は違った。

雪月花陽炎「そういえば、世の中には自分の意思で動けるおもちゃたちがいるらしい」

流石紫央「なんだって!」

雪月花陽炎「そのおもちゃたちは人間にばれないように動いて、事件を解決していた。田辺さんがテレビで見ていたのをオレもここから見ていたんだが、あれはすごかった。おもちゃたちが子供を思う気持ちも感動的だった」

流石紫央「なぁ、そのおもちゃたちがどうやって動けるようになったのかわかるか?」

雪月花陽炎「知らん。最初から動いていた」

流石紫央「くそっ!」

スケスケ「あんたたち大馬鹿ね」

流石りあ「ちょっと!何よっ!頑張ってる靴下によくそんなこと言えるわね!」

スケスケ「あんたたち生地はそんなに分厚いのに脳みそは空っぽなのね」

りあとスケスケは靴下売り場にいたときから仲が悪い。スケスケはシースルーの靴下でおしゃれだから、靴下売り場にいるときから周りの靴下に上から目線で物を言っていたのだ。

スケスケ「私たちが靴置き場に行かなくても、今日田辺さんが履いている靴下と合流したときに聞いたら良いじゃない。その靴下なら間違いなく玄関の様子を見ているはずよ」

流石紫央「はっ!そのとおりだっ!」

雪月花陽炎「確かにっ!田辺さんが戻ってきたら履いている靴下とどうにかしてコンタクトをとろう」

流石りあ「あんた…」

スケスケ「ふんっ!私だって仲間が消えたら心配くらいするわよ!」

流石りあ「ありがとう…」

スケスケ「やめてよっ!大したこと言ってないわ!」

オレたち靴下の気持ちがさらに一致団結したところに、田辺さんが戻ってきた。

田辺さん「あーやっぱりお高い洗濯機はすごいね!なんかすごいよ!」

そして田辺さんはいとも簡単に、オレたちの気持ちを再び絶望させた。

流石紫央「田辺さんルームソックスに履き替えているっ‼」

田辺さんはお部屋くつろぎモードに突入していたのだった。

流石りあ「洗濯機を回すついでに今日履いていた靴下も一緒に洗ってしまったのね!」

流石紫央「くそーっ‼」

スケスケ「落ち着きなさい!今日履いていた靴下が洗濯機から戻ってきたときに聞いたら良いじゃない!」

雪月花陽炎「そいつが消えないことを祈るだけだな」

田辺さん「あ、そうだ!今日買った靴下を無くさないようにしまっておきましょう!」

オレたちは田辺さんに抱えられ、雪月花陽炎をひとり残して行くことになった。

流石紫央「雪月花陽炎!必ず助けるからな!」

雪月花陽炎「ああ。お前たちを信じている」

オレたちは田辺さんの寝室へと連れて行かれ、

田辺さん「あ、この子たちもさっき一緒に洗濯すればよかった!くそっ!このまま片づけたら洗うの忘れそうよね…とりあえずここに入れておきましょう!」

そう言われて田辺さんに置いて行かれた箱の中には先客がいた。

干しいも「ようこそ」

続くかもしれない


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