館ミステリー靴下探偵物語
この物語は、田辺さんが「最近買った靴下をもう無くした。うちは本当によく靴下が消える」と言ったことから始まりました。noteにある【靴下記念日】という話を読んでから読むと、多少わかりやすくなります。
登場靴下
流石紫央(さすがしお)…靴下探偵。くるぶしソックスの右足用
流石りあ…くるぶしソックスの左足用。紫央と二人で一組
スケスケ…シースルーの靴下。
登場人物
田辺さん…恐怖の館の主
あんり…田辺さんの友達
※この物語は事実をもとにしたフィクションです。靴下の名前は田辺さんが考えてくれました。
*
この物語を書くことを許してくれた田辺さんに感謝を込めて
*
オレの名前は【流石紫央】。靴下探偵だ。昔は靴下売り場で売られる普通の靴下だったんだけど、五本指ソックスには何故頭が五つもあるのかという謎に対して「ムレにくい」という真実に辿り着き、そこから売り場の仲間に靴下探偵と呼ばれるようになった。いや〜、人気者は辛いね。
?「ちょっと!何ひとりでぶつぶつ言ってるのよ!」
流石紫央 「りあ!」
こいつは【流石りあ】。生まれた時からオレと一緒の腐れ縁。いわゆる幼なじみだ。靴下は生まれたときから二つで一組なので、基本幼なじみがいる。幼馴染ではなく、相方と言っている靴下もいるかな。オレが右足でこいつが左足用らしい。
流石りあ「どーせくだらないこと考えてるんでしょ!」
黙っていれば可愛いのに(オレと同じ柄だけど)気が強くて困る。
流石紫央「もう開店か!今日こそ誰かに買ってもらいたいよな!可愛い子が良いな~」
流石りあ「ふん!何を想像してるのよ!かかとの部分が伸びてるわよ!えっち!」
流石紫央「え、伸びてた?!」
流石りあ「あんたなんてかかとの部分擦り切れちゃえば良いのに!」
流石紫央「おい!靴下に向かってそんな怖いこと言うなよ!」
このときはまだオレたちは幸せだった。まさかこの後、あんな恐ろしい事件に巻き込まれるとも知らずに。
店 員「いらっしゃいませ」
あんり「田辺さん靴下買うんですか?」
田 辺「なんか靴下また消えてさ。新しいの買っとくわ」
あんり「また消えたんですか?」
田 辺「しかも片方だけ消えるの!ムカつく!あら、このくるぶしソックス良さそうね」
田辺さんと呼ばれた女性はオレとりあを掴むと、優しく自分の腕に乗せてくれた。
田 辺「何足か買っとこう。これ履きやすそう。これも…あ、見てこの靴下スケスケだよ!」
田辺さんはその後、何足かオレの仲間達を同じように掴み、お会計をした。
流石りあ「私たちついに人の役に立てるのね!優しそうな人に買われて良かった!」
流石紫央「…」
流石りあ「紫央?どうしたの?」
流石紫央「いや…」
オレは自分たちが掴まれる直前に聞いた話を思い出していた。田辺さんは「靴下が消えた」と言っていたような気がしたのだ。しかも、「靴下がまた消えた」と。
流石紫央「いや…なんでもない」
オレは喜ぶりあや他の仲間たちを見て、変に不安を煽ってはいけないときつく自分のつま先の部分を閉じた。
田辺さん「あ~今日も疲れたよ。やっぱり家は良いね」
帰宅した田辺さんはリビングのテーブルにオレたちが入った袋を置くと、がさごそとオレたちを袋から出してくれた。
田辺さん「今日は良い買い物をしたよ。あんりが今日買った靴下を一年間無くさなかったらお祝いに靴下パーティーしようって言ってくれたし、無くさないように頑張ろう!」
流石紫央(やっぱり…この田辺さんって人はおかしい…)
しかし、オレたちを見て微笑む田辺さんを見ると、どうしても悪い人のようには見えなかった。
田辺さん「ああ、疲れたね。お茶でもいれようかしら。あの茶葉どこにやったかしらね…?ベッドの枕もとだったかしら?」
田辺さんはオレたちを残し、どこかへ行ってしまった。残されたオレたちはきょろきょろと辺りを見回した。
流石りあ「ねえ紫央…この家変じゃない?」
オレもその違和感には気づいていた。この館は立派なのだが、奇妙な点がいくつかあるのだ。
流石りあ「なんで格好良い男の人たちの写真が色んなところに置いてあるの?」
この館には格好良い三人組の男性の写真が何枚もあるのだが、その配置の仕方が奇妙なのだ。オレたちは駅ビルの靴下売り場出身なので、ポスターなどで写真を綺麗に飾ることは知っている。しかし、この館の写真の配置はどう見てもただ置いてあるようにしか見えないのだ。
流石りあ「どうみても床に置いてあるようにしか見えないわ。しかも変な位置に」
流石紫央「キッチンの鍋の横にも写真が置いてあるぞ」
流石りあ「なんでそんなところに?」
オレたちが少しずつ恐怖を感じていると、田辺さんが「いや~良かったよ。無いと思ったらクローゼットの中にあって」と言って茶葉を持って戻ってきた。田辺さんはキッチンの鍋を使おうとしてさっきの写真に気づき、
田辺さん「あら、こんなところにKAT-TUNのブロマイドが!何故?」
田辺さん自身も驚いていた。
田辺さん「…やっぱり三人とも格好良いね」
田辺さんは写真があることにそれ以上驚くことはなく、お湯を沸かすと、「さあ!お高い洗濯機で洗濯もしちゃおうかしらね!」と言ってまたどこかに行ってしまった。
流石紫央「田辺さんって変わった人だな…」
流石りあ「きゃあっ!」
流石紫央「どうしたりあ!」
流石りあ「あそこ…見て!」
りあの口(くち)ゴム部が指したソファの下を見ると、そこには恐ろしい姿に変わり果てたオレたちと同じ靴下がいた。そう、靴下のミイラだ。
流石紫央「あんた大丈夫か?!」
靴下のミイラ「ううう…」
流石紫央「良かった!まだ息がある!」
靴下のミイラはよく見ると、オレたちと同じくるぶしソックスの右足のほうだった。
流石紫央「今助けに行くぞ!」
靴下のミイラ「いや…オレはもう駄目だ。どの道もう助からない」
流石りあ「どうして!」
靴下のミイラ「オレにはもう相方がいないんだ…」
確かに靴下のミイラには左足がいなかった。
靴下のミイラ「最初にオレの相方が消えたんだ…。それで田辺さんが困って残ったオレをとりあえずここに置いておいたんだ。その後、彼女はオレの存在を忘れちまった…」
流石りあ「そんな酷いことある?!靴下をなんだと思っているの?!」
靴下のミイラ「お前たちも気をつけろ…靴下は相方がいなくなった時点で終わる。そしてこの家はよく靴下の片方だけ消える」
流石りあ 「そんな…」
靴下のミイラ 「オレたちの代はオレと相方が最後の靴下だった。どんどん仲間がオレたちの前から消えていったよ。その相方も消えちまった…」
流石紫央「…あんたを助けることはできないのか?」
靴下のミイラ「逆に今オレが田辺さんに見つかると、そのままゴミ箱行きだ。よくて雑巾か…。そうなるくらいならゆっくりここで自分が朽ち果てていくのを待つさ」
流石りあ「でも、そこも危ないんじゃない?私はすぐにあなたを見つけたんだもの」
靴下のミイラ「いや、大丈夫だ。何故かこの場所は田辺さんの視界に入らないらしい。オレは一か月前からここにいる」
流石紫央「一か月も前からそこに…」
オレは自分の脳みそをフル回転させた。靴下のミイラが一か月も前からここにいるということは、消えたこいつの相方もまだこの館のどこかにいる可能性がある。
流石紫央(靴下が消える謎…。そういえば、田辺さんの友達のあんりと言う人がこんなことを言っていたような…)
オレはここにやってくる前に聞いた、田辺さんとあんりの会話を思い出した。
田辺さん『靴下マジどこ行っちゃったのかしら?』
あんり『…もしかしたら今からする私の話が田辺さんの役に立つかもしれません』
田辺さん『何?!教えて!』
あんり『昔、実家にいたときスリッパが無くなったことがあるんです。家中を探してもどうしても見つからなくて』
田辺さん『今の私と同じね』
あんり『そうしたら以外な場所から見つかったんです』
田辺さん『え!どこ!?教えて!』
あんり『ベランダです!おじいちゃんがスリッパをサンダルと間違えて室外履きにしていたんです!』
田辺さん『何それ!』
あんり『だから田辺さんも靴下を靴と間違えて外で履いちゃったんじゃないですか?靴置き場に大量の靴下があるかもしれませんよ』
田辺さん『私はそんなあほなことしないよ!』
流石紫央(田辺さんならありうる!)
流石紫央「よし!オレたちでどうにかして靴置き場に行こう!」
つづくかもしれない
*
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