ピンチをチャーハンに
※神さまのいきすぎる計らいを読んでから読むとより楽しめます
ある日、田辺さんから連絡がありました。
田辺さん「急なんだけど、明日あんりと納豆チャーハンリベンジしようってなって酒寄さんも来られるかしら?」
以前、あんりちゃんが私と田辺さんの大好きな納豆チャーハンのお店に行こうとしたときにアクシデントが起こり、(詳しくは【神さまのいきすぎる計らい】というお話に書いてあります)結局、食べられなかったことがありました。
私はそのときあんりちゃんが、
あんりちゃん『酒寄さんも行けるときに行けって神さまの粋な計らいだ!』
と言ってくれたことを思い出し、「一緒に行きたい!」とすぐに返事をしました。
当日。
仕事と仕事の合間に「納豆チャーハン」を挟んだあんりちゃんと田辺さんは私よりも先に目的地に到着したらしく、私は速足でお店へと急ぎました。
私(お店の前に着いたよ!って連絡が来たってことは、やっとあんりちゃんがあの美味しい納豆チャーハンを食べられるってことだ!良かった!)
私はやっと神さまもあんりちゃんが納豆チャーハンを食べることを許してくれたと思い、喜びながら二人に合流しました。しかし、私はまだこのときは知らなかったのです。
神さまがまだ彼女たちに試練を与えていたことを。
私「待たせてごめん!やっとだね!」
田辺さん「ま、まぁね。そうね」
合流した田辺さんとあんりちゃんの顔はこれから納豆チャーハンが食べられるというのに少し曇っており、私は「どうしたの?」と、心配して聞きました。
田辺さん「私たちこの前に仕事があるって言ってたじゃない?」
私「うん」
田辺さん「チャーハン食べるロケだったの」
私「え?!これからチャーハン食べるのに?!」
あんりちゃん「しかも中華料理店ハシゴしました。」
私「え?!じゃあ今から3店舗め?!まだギリ午前中だよ?!」
田辺さん「そうなるわね」
私は二人に、「何故、今日チャーハンを食べに行こうとしたの?」と恐らく全人類が思うであろう疑問をぶつけました。
田辺さん「昨日誘ったときは忘れてたの!今日がチャーハンのロケ日ってこと!」
あんりちゃん「そうなんです。あのときは二人ともチャーハンロケがまさか明日だなんて考えてもいなかったんです」
私は二人に「食べられる?別日に変える?」と提案しました。短い時間での中華連食は流石にきついと思ったのです。
あんりちゃん「いえ、私は昨日からずっと納豆チャーハンを楽しみにしていました」
私「でも…」
あんりちゃん「私は昨日からずっとチャーハンを食べるコンディションに持っていっていたんです。だから、逆を言えば今日はチャーハンだったらいくらでも美味しく食べられる日なんです!」
私はあんりちゃんは何の逆を言っているんだろうと思いました。そんなあんりちゃんの横で田辺さんが「流石に私チャーハンは無理よ…」と言いました。私が「そうだよね」と言おうとすると、それを遮って田辺さんは言いました。
田辺さん「でもこれって、逆に言えばチャンスじゃない?」
田辺さんもまた何かの逆を言いだそうとしてきました。
田辺さん「私と酒寄さんってこの店の納豆チャーハンが美味しすぎて、納豆チャーハンばっかり頼んで他のメニューも気になるのになかなか頼めなかったでしょ」
私「そうだね」
田辺さんと私は『納豆チャーハンの呪縛』にずっと囚われていたのです。
田辺さん「チャーハン後の今の私はチャーハンの魅力が落ちているの。ってことは、他のメニューを頼めるチャンスってことなのよ!」
田辺さんは「ピンチはチャンスよ!」と、野球部の監督みたいに言って、他のメニューの何を食べるかを考え始めました。
私が、「ってことはここでごはん食べられるの?」と聞くと、
あんりちゃん「当たり前でしょう!今日はチャーハンの日なんですから!」
田辺さん「そうよ!こんなチャンス滅多にないよ!」
と二人は言い、私たちは店の行列に並びました。並んでいる間、田辺さんに「あんりに納豆チャーハンを継承(?)し、酒寄さんも新たな一歩を踏み出すチャンスよ!」と、そそのかされた私も納豆チャーハン以外のメニューを食べることを決めました。
店内に入り、席に置いてあるメニューを見て、田辺さんが「やっぱり納豆チャーハン食べたい…いや、私は心を鬼にするよ!」と小さい声で言っているのが聞こえてきました。私はどこで心を鬼にしているんだろうと思いながらも、今日初チャー予定だった私は、全く田辺さんと同じことを思っていました。
私(納豆チャーハン食べたい…でも、今日を逃したら、一生私は『納豆チャーハンの呪縛』から逃れられない!)
私たちは無言で頷きあい、店員さんを呼び、注文をお願いしました。田辺さんはこのお店の納豆チャーハンに並ぶ人気メニューの定食を注文しました。私はずっと気になっていた納豆ごはんを注文しました。私は納豆チャーハンと別に存在する納豆ごはんがずっと気になっていたのです。あんりちゃんが「納豆チャーハンで」と言ったとき、私は心の中で店員さんに、
私(この子、今日チャーハン食べてきてるんですよ)
と伝えました。あんりちゃんは今この店の中にいる誰よりも納豆チャーハンに会いたかった女なんですよ、と。
サービスのザーサイを食べながら待っていると、(田辺さんがあたかも自分で作ったかのようにあんりちゃんに「美味しいでしょ!すごいでしょ!」と言ってました)ついに納豆チャーハンがあんりちゃんの前に置かれました。
あんりちゃん「…会いたかったー!!!!」
私はあんりちゃんと納豆チャーハンが出会った瞬間、嘘ではなく、松任谷由実の「春よ、来い」が頭の中で流れ、ちょっと泣きそうになってしまいました。あんりちゃんは「いただきます」と言い、一口食べました。
田辺さん「…どう?」
あんりちゃん「うまいっ!うますぎる・・・っ!」
あんりちゃんは「想像を超えています。どうやったらこんな美味しい納豆チャーハンが作れるの?!」
と言い、三件目とは思えないスピードで納豆チャーハンを食べ始めました。
あんりちゃん「どうやって作ったら納豆のこの感じが出せるんだろう?私は納豆チャーハンを自分で作るとき、納豆は最初から入れるんです。私のお母さんは最後に入れるんですけどどっちの納豆チャーハンとも全然違う!」
あんりちゃんは納豆を入れるタイミングを考えながらも、スプーンを持つ手は全く止まっていませんでした。むしろ加速していました。定食を頼んだ田辺さんは、
田辺さん「この定食うますぎるんだけど!豚肉がさっぱりしてるの!でも物足りなくない!すごいよ!これに辿り着けて良かったよ!」
と、定食を大絶賛して、笑顔で「ありがとう!」と恐らくシェフにお礼を言っていました。私も自分の頼んだ納豆ごはんの美味しさに、「どひゃー!」と漫画みたいな声を出してしまいました。納豆ごはんと言うと白米に納豆が乗っている姿を想像するかもしれませんが、違います。納豆がひき肉と炒めてあり、ぱりぱり揚げた何かの皮やレタスなどもご飯の上に乗っているのです。
私「これは納豆ごはんであって納豆ごはんではない。でも納豆ごはんだ!」
あんりちゃん「なるほど、納豆ごはんってことですね」
私だったらこの料理に「納豆スペシャル革命」などと名前を付けてしまうところをこのお店はシンプルに「納豆ごはん」と名付けるレベルの高さに私も気がついたらシェフに「ありがとう!」とお礼を言っていました。
私「これは、次にこの店に来た時に迷う選択肢が増えたよ」
田辺さん「そうね。今まで以上に辛い道のりになりそうね」
あんりちゃん「私は次に来た時にまた納豆チャーハンを頼みます」
私たちは食べ終わり、人気店なのですぐにお会計に向かいました。田辺さんはここに来ると必ず最後に自分用と私の息子へのお土産の「マーラーカオ」買ってくれるのですが、その日も、
田辺さん「酒寄さん、マーラーカオいくよ?」
と、格好良く言って二つマーラーカオを買っていました。出るときにお店の人が「美味しかったですか?」と聞いてくれ、あんりちゃんが、
あんりちゃん「とても、とっても美味しかったです!」
と言っているのを見て、私は再び心の中で店員さんに、
私(この人は神さまの試練を乗り越えてやっと納豆チャーハンを食べられたんです!)
と強めに伝えました。帰り道、
田辺さん「はい!このマーラーカオ、田辺さんからだってちゃんと言って渡してね!田辺さんからよ!あんりじゃないよ!」
と強く言ってきました。(私の息子は何故か、田辺さんからの贈り物に対し、田辺さんからだと言っているのに、時間がたつと『これはあんりちゃん(はるちゃん)からもらった!』と言い出すのです)
あんりちゃん「今回のマーラーカオも私の手柄になるかもしれませんね」
田辺さん「駄目よ!田辺さんからだよ!あんりちゃんじゃないよ!って言ってね!」
私「わかったよ。ちゃんと伝えるから」
その後も、田辺さんは何度も「マーラーカオは田辺さんからだよって言ってね!」と言い続けました。一度家に戻ると言うあんりちゃんと別れた後、田辺さんは言いました。
田辺さん「ねえ、みたらし(私の息子のあだ名)がさ、『マーラーカオから田辺さんもらった!』って言ったらどうする?」
と楽しそうに言ってきたので、私は「すぐに返してきなさいって言うよ」と言いました。
終わり
*
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