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仕立て、知りそめし若人へ



 <仕立て屋になる興味がある方、またその仕事に従事している年齢の若い方向け>



 この世の中に仕立て屋になる有益な方法の情報はあるのでしょうか? 
 私が仕立て屋になる挑戦を決意をした当時に、そのような情報を見る事はできませんでした。



 私がこのような文章を公開すべきか、幾分かのためらいがあります。
 本来であれば、より適した有名な仕立て屋の方々がいると思うからです。


 しかし仕立て屋が、記録として世間に公表している情報のほとんどは裁断書、つまり技術書として公開しており、どのような考えを持って仕立て屋をしているかについて書いたエッセイのような書籍は少ないようです。

 裁断書は支払う対価のある有益な情報が多く記録されていますが、残念ながらその情報を丸暗記すれば仕立て屋として成立するかと考えると、少し違うように思います。


 何故そのように思うか、さまざまな理由はありますが、順を追って書こうと思います。




 私が子供の頃、ドラゴンクエスト(以下DQ)というゲームが社会現象になるほど人気がありました。 
 同世代の少年達の多くは、コントローラーを握りしめて勇者になっていたはずです。
 私も多分にもれず熱中しましたが、特に思い入れがある作品はDQ4です。

 DQはロールプレイングゲームですので、操作するキャラクターの能力を数字で把握する事ができます。
 100は誰が見ても100であり、99より良く、101よりは劣ります。 誤解の心配が全くありません。 それはゲームのルールの骨子になる情報を数値化という方法で単純にしており、「アリーナはやばい」だの、「ライアンはドン亀」だの、私達に情報を分かりやすく視覚化している訳です。

 何が言いたいかというと、実際に私達が生きている世界は、数値化できない要素を多分に含んでいます。 例えば自分の能力や、製品の価値を数値化して知る事はできません。

 数値化できない情報は、優越に解釈の余地があるわけです。 もちろん本当のところは、世の中の多くの事は不可知であり、仕立て屋の世界になぞって話せば、一体どのような仕立て服に本当の価値があるのかにも、突き詰めて思案しますと知る術はないのかもしれません。




 仕立て屋になりたいと、門を叩く若者達を幾人か見てきました。 


 おおむねその動機は純粋で、良い服を作れるようになりたいと顔に書いてあって、なんとも頼もしく思います。

 自分がその道を歩きはじめた時期を振り返ってみても、それが最大の目標で、その信念に何の疑いも持っていませんでした。

 強調して良い服と書きましたが、では良い服とは、仕立てに興味がある彼らは一体どのような服の事を想像しているのでしょうか。




 良い服とはこれです。と簡単には言葉で定義するのは困難です。 また、腹に落ちる定義も聞いた事が無いように思えます。


 よく聞いた事例としてあげれば、大変丁寧に手間を惜しまず、高い技術で縫製された服を良い服と解釈する人がいます。 
 
 特定の有名な仕立て屋の宣伝を見ても、当の本人がインタビュー等で、自分達の仕事がいかに手間を惜しまず、丁寧に製作されているかを熱弁しています。
 
 ですので、プロの人の一部でもそう解釈している方はいらっしゃるのかもしれません。
 
 それは聞いてみると、そうかなぁと思ったりしますが、良く考えてみるとその条件を満たしていれば良い服かと言えば、本当にそうなのでしょうか?


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