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服地センシビリタ!


<紳士服の生地の話です。読書が苦にならない方向け>





 あなたは、オシャレですか?

 いかがでしょう?

 あなたは、オシャレでしょうか?


 のちに再度質問しますので、ぼんやり覚えておいてください。





 あなたが洋服の受注生産のサービスを利用するという事は、これから企画して生産する事になります。

 あなたの洋服はまだ、
 この世にありません。

 あなたと、仕立て屋。

 これから製作するという事は、話し合いで、今後の洋服の顛末(てんまつ)はイカヨウにも変化していきます。

 これをビスポーク(話し合い)と呼んでいると私は思うわけです。


 まずあなた自身で決定する事があります。

 生地の選択ですね。





 この文章は以後、
 あなたにとって良い生地。
 あなたがオシャレになれる可能性を持つ生地。
 
 あなたが自力で選別出来るようになる為の考え方やコツ。
 その理由も踏まえて、私なりに伝えれる事を目標にして書いていきます。

 少し、話は脱線するかもしれません。

 楽しい話ばかりには、、、
 残念ながらなりません。

 あらかじめご了承ください。






 まず前提として、
 誤解があってはいけませんので。


 ビスポークサービス。

 あなたが現実的に、どこまでの事を希望出来るのか、範囲を少し整理しましょう。

 よく、あなたの希望する要素を全てかなえる事が可能な様に喧伝している方がいます。

 私の経験上、少なくとも私は、
 そのような事は出来ません。


 丁寧に説明すると相当の長文になりそうですから、今回の話の主旨とは外れてしまいます。

 簡略してお伝えします。


 仕立て屋側がこの世界にある技術の中で、

 出来る事、出来ない事。
 知っている事、知らない事がある為です。

 私に限って言えば、私が英国服の雰囲気を持つ洋服を作る事は出来ません。

 それは、私が英国服の作り方を知りません。 そして私は、英国服の雰囲気を作れない事を知っているからです。


 英国服の雰囲気を希望する場合、
 英国服のスタイルを標榜する仕立て屋に行く事が、お互いにとって最良の答えになります。

 
 〇〇風、××風、△△風、なんでも出来ます。
 と、喧伝している仕立て屋はいます。
 表層をなぞったモノを、〇〇風と呼称している様です。

 表面をなぞっているのです。

 〇〇風と一言で片付ければ、その通りかもしれません。

 しかし、そのひとつひとつが文化です。
 文化は外面だけではありません。
 深く知れば、あれも、これも、とはいかないはずです。

 ファミレスのパスタ、伊レストランのパスタ。同じ事です。


 ですから、洋服の仕様に関してあなたが指定出来る範囲は、仕立て屋が知っているスタイルの中から選ぶ事になります。

 あなたはもう気づいているはずですが、
ほぼ全ての仕立て屋は一種のスタイルしか持ちません。それは、スタイルが文化だからです。


 結果として、
 仕立て屋を選んだ後に、スタイルを選べる事はないのです。






 一方で、生地の選択は楽しい時間になるはずです。

 生地を一点一点吟味すると時間が足りない程、多岐にわたります。


 余談ですが私の薄い経験上、

 製作する洋服の生地も含めて完全に任せられた経験があります。

 丸投げというヤツです。

 その様な剛腕な注文をするのは、全てアパレル業界で生きている人達です。

 これは特殊、異常なケースです。
 受け手の立場で言えば、精神衛生上よくありません。なんだか試されている気分になります。

 変わり者もこの世には生息していますので、
 まずは気軽に楽しんで選ぶ事が肝要です。







 この文章を作るにあたり、
 あなたをどのような読者と想定して書くべきか。 少し迷いました。


 基礎の部分からはじめてしまいますと、
 文章量を想像するとちょっと目眩(めまい)がしてくるので、そこは外の情報にお任せしようと思います。

 ただし、
 外の情報にも色々あります。
 色々ありました。

 その事について、少し私なりに補強したいと思います。




 
 世間に溢れている情報を整理してみますと、おおむね三つに分ける事が出来ました。




 ひとつは、
 あなたが知っておいて損のない情報です。

 服地の一般教養の様な情報です。
 オタク性が強いモノもこのカテゴリーに入ります。

 具体例をあげると、

 英国生地と伊国生地の特徴。その違い。
 素材の特性。向いている用途。

 この種の情報を知っていますと、あなたと仕立て屋との意思疎通が円滑に進みやすくなります。 これらは知識だからです。

 知識があなたを強くする事は疑いようがありません。生地の特性や歴史等は、知識と言えます。

 ただしこれらの知識は、
 あなたにとって良い生地を選ぶ直接助けにはなりません。

 理由はとても簡単で、

 その知識は、良い生地を選ぶ行動にほとんど関係がない資質だからです。

 また、その知識によって得られる効能と同時に、副作用があります。




 先入観の事です。

 例えば、

 英国生地は仕立て映えがします。
 伊国生地は柔らかく、華やかです。

 という定説をよく聞きます。

 確かに当てはまる特性を持つ生地は存在します。

 しかし実際には、
 柔らかく華やかな英国生地はありますし、仕立て映えがする伊国生地もあります。

 実際に生地を触って確かめた時に、
 その情報がいかに大雑把な説明で、
 世の中そんなに杓子定規(しゃくしじょうぎ)にはいかないものだ。と、あなたは学ぶ事が出来ます。

 そもそも生地の特性を、国単位で単純に線引き出来る事は多くありません。

 生地商、特に日本に生地を輸出している企業はグローバル企業です。

 地域性、土着性は年々薄れて、生地の特性がグローバル化によって平均化していくのは、あなたが経済の事を少し考えれば、容易に想像出来るはずです。

 知識は先入観を産みます。

 知ってしまいますと、合理的な人ほど事実を確かめる行動を省略します。


 結論として、
 その種の知識は、一般論、民話とか伝承の様なモノで、距離を置いて理解する事が肝要です。






 ひとつは、
 全く知らなくて良い情報です。
 あなたにとって無価値な情報ですね。


 具体例をあげますと、

 A 生地商の格付け。
 生地商の権威付け。

 B 今年のトレンド、気分。

 聞いていて楽しい事が多い、これらに共通する特徴です。
 それは情報に相当程度の娯楽性を内包しているからです。




 まずAの情報ですが、


 ひとつの生地をピックアップして、
 その生地商を評価する事は出来ません。

 多くの生地商は生地の価格帯を、階層を分けてビジネスしています。

 同じ生地商の名前が入った生地でも、
 価格、品質、流通量は生地ごとに全く違うのです。

 それならば、
 同価格帯で、生地商別に比較するのが合理的ですが、
 結論から言えば、私の経験上そこに大きな違いはありません。

 それはそうでしょう。

 本当に、一社が抜きん出て優れていれば、
 他社は市場にいないはずです。


 おおむねこの種の情報を発信している人には、見分けやすい特徴があります。

 情報発信者の言っている事が、
 借り物に聞こえる事です。

 また、モテる等、変なキーワードが散りばめてあります。

 洋服ひとつでモテるなら苦労はありません(笑)。モテる理由はもっと複雑です。

 少しネットで検索すれば、労せず入手出来る情報を発信している場合は、
 発信者の地に足ついた知識ではありません。

 どこかで調べた事をオウムのごとく発信しているのです。


 情報の価値とは、
 知識と経験が両輪として作用して、はじめて持ち得ます。

 知識だけが先行しますと借り物っぽさがでますし、
 経験だけが突出しますと、言葉で説明出来なくなり、結果、誰も理解出来ません。


 また、生地商のビジネスを誇大に表現するのも、総じて関心しません。

 この情報の罪は、権威付けする悪質な意図があり、根拠ないブランド信仰に誘導しています。

 良い物を見つけた。
 〇〇製だった。

 〇〇製を見つけた。
 だから良い物。

 全く、違う事です。

 そして多くの場合、
 最終的に発信者のビジネス、
 利益誘導が話のオチとして付いてきます。

 娯楽性のある広告であると言えます。






 Bの情報は、

 傾向として非常に物質主義な様です。
 着用する人間よりも、
 洋服そのものに関心がある様です。

 原因のひとつとして考えられる事は、
 その発信者の根底にある軸が、量産品であるからです。

 それは、私との立場の違いでもあります。
 私は今、あなた一人の為にこの文章を書いているつもりです。

 私の立場から考えると、
 あなたにも、
 彼にも、
 私にも、この生地が今です。

 という論拠は認められません。

 それでは、ビスポークサービスとは?
 という根底を揺るがすからです。

 この部分は、この文章の後半深く関わってきます。
 その時、改めて理由を提示します。







 最後のひとつは、実践的であなたにとって非常に有益な情報です。



 特徴は、ほとんどの場合は、その発信者達は何故かファッション業界で有名な方でした。

 また発信者は一定の年齢以上である事が多い様に感じます。



 それらの特徴は、生地単体を情報のテーマとして発信している事はほとんどありません。


 なぜなら、

 材料になる生地、
 出来上がる洋服、
 それを着る生活環境、

 それらは本来同じ地平線に存在するモノですから、ひとつの種類だけの情報、
 例えば服地だけで話を組み立てると、論理的に説明不足になってしまいます。

 生地を説明する為に、
 他の話をはさみ込み、

 情報は右に行ったり、
 左に行ったりします。

 また、ミクロ的視点(発信者の視点)とマクロ的視点(社会の視点)が、並列して進んでいく特徴があるように思います。

 そしてビジネスの為の利益誘導もほとんどありません。 発信者は社会貢献に比重を置いている事がわかります。

 不幸にもこのような素晴らしい情報は、全体の数%程しか見当たりません。



 日頃、私はファッション関係の解説等の情報と距離を置いて生活してきました。

 この文章書くにあたり、現状を全く知らないでは説得力もなにもありませんので、私なりに調べた感想です。

 ご参考になるか? その様な気持ちです。



 では、本題の話をはじめようと思います。






 私の場合、生地の持つ情報を三つの特性に分けて考える事にしています。


 つまり三つの特性のバランスが、
 あなたにとって良い生地が、
 私の考える、あなたにとって良い生地という事になります。



 まず考えなけれならない事は、
 生地の価格です。

 意外に思われるかもしれませんが、価格はとても大切な要素だと思っています。

 あまりに当たり前の事ですが、生地にはそれぞれ生地に応じた別価格が設定されています。

 経済的に見れば、私にとってそれはコストという事になります。

 受注生産の洋服は一般的に高額であると認識されていますので、

 ある程度差はあれど、一定額以上の売価になる事は、あなたも予想して来店するはずです。


 したがって、私の場合、

 必要以上にあなたの懐(ふところ)事情を想像して生地を薦める事は控えています。

 現実問題として売価に関係がありますので、経済的負担をもっとも負うのはあなたです。
 あなたの希望がない限り、非常に高価な生地を薦める事はありません。

 また、生地ひとつひとつに個別の価格が設定されてあっても、それぞれに売価を変更していません。

 つまり私の場合は、

 あなたに現実には存在する生地の価格のバラツキを、努めて想像させない様にしているのです。

 それには、私のビジネスとは別の事情があります。




 価格とは、資本主義社会においてもっとも理解しやすい物差しになっています。
 それは、あなたも同様のはずです。

 高価なモノはよく、
 安価なモノは悪い。

 この発想は、そのモノに対する知識。
 つまりこの場合は、生地を選択する事に自信がない人ほど、その情報を頼って選択肢を絞っていく傾向があります。

 なぜかと言えば、

 もし、あなたが知識、経験が少なければ、当然、比較検討する根拠になる指標が少ない訳で、

 最終的に予算の内で、

 高いモノが良い、
 安いモノは劣る、

と無意識に判断しているのです。


 しかし経済的に考えると価格は、需要と供給でおおむね決定されます。
 品質と直接結びつける事は、少し安直な発想です。

 おおまかな傾向で言えば、

 流通量の少ないモノ、柔らかく光沢がある生地は高価である事が多く、
 流通量の多いモノ、素朴で剛健な生地は安価である事が多いです。

 しかし、その二種を比較する事そのものが、あなたにとって意味をなしません。

 狙っている洋服の属性が、全く違う方向だからです。


 単純に言えば、

 洋服の属性の狙いがあなたの希望と一致して予算の範囲であれば、生地の価格などあまり意味を持ちません。

 安価でも良い生地はいくらでもありますし、高価で残念な生地も、いくらでも存在します。


 仮にあなたが選んだ生地候補が、全て結果として高価であった場合は、
 それが、あなたの個性という事になりますので、頑張って働いて稼ぐほかありません(笑)。

 予算内に収まっているのであれば、価格を基準に判断しない事はひとつのコツだと思います。






 二つ目に考える事は、仕立て映えする生地なのかどうか?という実践的な話になります。



 仕立て映え、という表現はとても便利な表現で具体的に何をさしているのか。

 あなたに上手く伝わっているのでしょうか?

 ビジネス会話として、
 「この生地で作ると仕立て映えします。」
等を良く聞きます。

 どういう事でしょう?

 本当なのでしょうか?


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