花に嵐
『花に嵐』を聴くと、
私の心の奥にそおっとしまっておいた宝箱の蓋が開く。
寒い冬の黄昏時
私は紀伊国屋書店の1階で、あなたを待っていた。
禁じられた関係が今、音を立てて始まろうとしている。
私の胸がは張り裂けそうな程の甘い痛みを感じていた。
あなたが現れた時、私はあっと声を出したと思う。
その声があなたに聞こえる前にあなたは、
言葉なく私の手を握り外へ連れ出した。
信号が変わり、無言で横断歩道を渡る。
王子様がお姫様をさらっていくような
ドラマティックな始まりを期待をして。
そんな喜びとこれから先の不安を抱きながら、
あなたの手の暖かさと2月の冷たい空気を頬に感じていた。
私たちは出会った瞬間に恋に落ちた。
その恋は始まってはいけない。
と自分を戒める為に、仕事を必死に夢中になってみたりもした。
でも、あなたへの想いは膨らむばかりだった。
「おはようございます。風向きがかわりましたね。」
私の心が不安で揺らいだ夜を過ごすと、
必ずあなたからメールが届く。
そしてその不安を払拭するように、
私たちは愛を語り愛を重ねた。
それでも見透かされているような程、
あなたの野生の感は鋭く、
ふたりの行き先への私の不安を隠すことは出来なかった。
愛を深めれば深めるほど不安は大きくなり、
それでも離れられず、
あなたへの愛は手のひらから溢れてしまう。
私があなたにあげられるもの
それは『愛と官能』
私は愛されていた。
スコールのように、一瞬の躊躇もなく
愛を注がれていた。
その使命を全うした時、
私の気持ちはお構いなしに、あなたは私の前から去って行った。
あの時の狂おしい愛はもうここにはない。
『花に嵐』を聞いたとき、
心の奥にそおっとしまっておいた大切な宝箱の蓋が開き、
あなたとの蜜月がよみがえった。
心臓からの薔薇色の血が滴り落ちるほどの、
ロマンティックペインを愛おしく思い出しながら。
『花に嵐』を歌う貴方の声が私の心臓の傷を舐め癒す。
いつしか痛みが和らいでいく、甘い香りを残して。
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