僧帽弁閉鎖不全症

1.僧帽弁閉鎖不全の診断

クラスⅠ
有症状重症MRでEF>30% 以上(stageD1)
無症状重症MRでEF:30-60%orDs≧40mm(stageC2)

クラスⅡa
無症状重症MRでEF>60% and Ds<40mm(stageC1)を経験ある施設でMVP
新規AfかPAs>50(stageC1)を経験ある施設でMVP
有症候性で,LVEF ≦ 30%であるが,弁膜症チームによる協議により僧帽弁手術によって症状の改善が期待されると判断された場合の僧帽弁手術

クラスⅡb
有症状重症MRでEF<30% 以下(stageD2)
二次性MRで有症状重症MRでNYHA3-4(stageD)

注意点:
重症MRは無症状でも予後不良、できれば左心拡大と左室収縮能低下しないうちに手術すべきClass I
左室繊維化進行、EF<30%まで進行したら症状性重症MR(stage D2 )では手術できなくなるClass IIb(matrial clipも)
EF・LVESDが悪くなれば手術 圧倒的にMVP推奨 
無症候性(ステージC1)でも形成術の適応
心筋障害が少ない時点でMVR(運動)
MRリカレンス10% 術中mild MRあれば遠隔成績悪い 後尖逸脱が再発しにくい

2.治療方針

選択肢からClassⅠを選ぶ
一次性と二次性と違うので要注意

練習問題:

一次性MRについて 正しいの一つを選べ
a.Atrial functional MRを含む

b.日本はリウマチ熱によるもの多い

c.加齢性のものは少ない

d.弁尖全体の肥厚と弁輪拡大はBarlow病の特徴

e.MSを合併することが多い

解答:d

a.×Atrial functional MRは2次性MR 虚血MRと心房性MR

b.×リウマチ、粘液性変性、感染性心内膜炎が多い

c.×加齢も多い

d.◯

e.×

3.再手術の適応

重症の逆流
溶血の所見があり貧血の進行がみられる場合
重症MS

練習問題

AVRとMVR術後15年Hb 10g/dlの貧血を認めった。エコー所見では弁周囲逆流.正しい対応を二つ選べ

a.輸血

b.弁周囲逆流

c.生体弁の劣化を認める

d.再弁置換術を考慮

e.ワルファリンを減量

解答:bd

4.MVRの術後合併症:

1)心破裂

練習問題


胸骨閉鎖後の急激な血圧低下。LV破裂。リスクと考えられたのは?

a.高齢者

b.女性

c.術前の弁輪石灰化が強く

d. 心筋の脆弱性

解答:全て

MVR術後合併症:人工弁不全・弁周囲逆流・大動脈弁損傷・冠動脈(LCX)損傷・左室破裂・弁周囲逆流・遺残逆流・僧帽弁狭窄・SAM

MS:左室流入血流>1.8-2.0ms 僧帽弁平均圧較差>5mmHgは狭窄を強く疑う

遺残逆流:逆流jet>2cm2以上の時はリポンプを相談

2).左心破裂リスク

左室破裂は破裂部位による分類

 I型:房室間溝

 II型:乳頭筋起始部の左室後壁

 III型:I型とII型の中間 に分類される

3).左室破裂原因

僧帽弁の過剰切除や過度の牽引(術前の弁輪石灰化が強く)
縫合糸の深すぎる刺入
過大な人工弁のサイズなど手術手技の問題
 心筋の脆弱性も関与:脆弱な心筋に僧帽弁切除による左室後壁の壁張力の増加や術後急性期に過度の圧負荷が加わることで破裂に至る
高齢者
女性
僧帽弁狭窄症

練習問題

術式の適応:46歳男性、無症状。検診中エコー診断:三尖弁逆流中等度、三尖弁弁輪40mm,LVDSD 58mm,EF 48%,僧帽弁EOA 0.5cm2。予定手術の手術式はどれか?

a.三尖弁縫縮

b.僧帽弁置換

c.6ヶ月ごとの経過観察

d.僧帽弁弁尖のtetheringを認める

e.MVPと三尖弁弁輪縫縮術

解答:e

僧帽弁EOA 0.5cm2 →重症MR

無症状性重症MR:stage C1→classI MVPあるいはMVR

三尖弁弁輪拡大 無症状重症TR stage C1→左心系手術 classI

e.MVP+TAP

4).MVP後管理

MVP後管理:

  • 後負荷を下げて

  • 陽性変力作用(DOBとかIABP)で左室機能を保つ

  • 左房圧と肺動脈圧は低下する:前方拍出をたもつために左房圧を高めに維持しておく

  • 左室破裂避けるためにもsBP120以下に

練習問題

MVP後の血行動態について正しいのはどれか?

a.逆流が消失すると左房に血液を逃がせなくなる為左室の壁張力が高まりEF低下

b.SV低下

c.LVESD低下

d.LVEDV低下

解答:全て

  • LVESD? LVESPであれば、後負荷の指標(Ea実効動脈エラスタンスの交点)であるので、MRがなくなれば上昇する?

  • LVEDVはMR解消でCOのキープが容易になり、循環血液量自体は減少するため、低下する?

5).再手術

練習問題

MVRの再手術適応として不適切の二つを選べ

a.肺塞栓

b.心房細動

c.溶血性貧血

d.弁周囲逆流

e.感染性心内膜炎

解答:ab

練習問題


2012年心臓外科専門医試験

僧帽弁閉鎖不全において左房への逆流を増加させるのはどれか.

a 血管拡張剤

b 利尿剤

c β受容体刺激薬

d α受容体刺激薬

e 大動脈内バルーンパンピング(IABP)

解答:d

6).SAM

SAM のリスク

  • 前尖が小さい 前尖の長さ/後尖の長さ(AL/PL)<1.4  

  • 小さな弁輪形成リング

  • 小さな収縮時左室内径 EDD<45mm

  • IABP

  • 後尖が長く PL>19mm,前尖と広い範囲で接しているのが認められる.

  • 後尖高>15mm

  • 前尖と後尖の接合部と心室中隔との距離(C-Sept distance)<2.5 cm

  • 頻度2-16%

練習問題

術中SAM。誤った対応は?

  • カテコラミンの減量

  • 容量負荷

  • α刺激薬

  • β遮断薬

  • 手術法:Sliding leaflet technique (sliding plasty) ,edge-to-edge repair

  • 補助循環

  • MVR

  • アドレナリン投与×

Sliding leaflet technique:長い後尖P2を一部切除

スライディング法:

後尖逸脱部の切除とともに弁輪に沿って左右方向に切開し、一部弁尖を切除して後尖の弁高を減じる

練習問題


心臓血管外科専門医試験

後尖逸脱部の弁尖が20mmのMRにMVPを行う時に、SAMを回避する有効な方法を二つ選べ

a.逸脱部の三角切除

b.undersized 人工弁輪

c.逸脱部の四角切除とsliding leaflet thechique

d.逸脱部の人工腱索再建をleaflet height reduction

e.逸脱部の四角切除と前尖の拡張

解答:cd

練習問題

心臓血管外科専門医試験 2014年

僧帽弁の収縮期前方運動(SAM)について正しいのはどれか.2つ選べ.

a ドパミン作動薬で治療する

b 後負荷を増加させて治療することができる

c 僧帽弁の接合部位が心室中隔に近いと生じやすい

d 非全周性リングによる弁輪形成術後に生じることが多い

e 僧帽弁形成術後に発症した場合,人工弁輪サイズをより小さくすると良い

解答:bc

5.虚血性MR

練習問題

虚血性MRについて誤った二つのは

a.心尖部に引っ張られる

b.回旋枝の梗塞でおこる

c.局所の梗塞が起こる 

d.心筋梗塞後のremodeling

e.乳頭筋断裂

解答:be

a.◯M弁前尖の心尖部方向への牽引による閉鎖不全

b. ×回旋枝の梗塞ではなく、乳頭筋の付着している心室部分のhypokinesis,下壁~前側壁の局所壁運動異常

c.◯前壁梗塞より下壁~前側壁梗塞に発症しやすい

d.◯

e.×乳頭筋虚血性機能不全

練習問題

心臓血管外科専門医試験2012年

慢性虚血性僧帽弁閉鎖不全の特徴について正しいのはどれか.2 つ選べ.

a 前壁梗塞よりも後側壁,下壁梗塞に続発しやすい

b 弁開閉に伴う僧帽弁前尖の可動域は低下している

c 乳頭筋梗塞により生じた腱索付着部断裂が慢性化したものである

d 心筋梗塞後の乳頭筋収縮不全による弁尖逸脱が主な発症機序である

e 麻酔導入後に行う経食道心エコー図が重症度の判定として信頼できる

解答 a , b

練習問題


心臓外科専門医試験

虚血性MRに対して弁形成術において、不適切な手術は?

a.egde to edge repair

b.乳頭筋接合術

c.乳頭筋の釣り上げ術

d.一次腱索の切離

e.小サイズ人工弁輪の使用

解答:d

6.心房性機能性MR

1).機序:

  • 左房と僧帽弁輪の拡大を伴う前後尖の接合不全が主病態

  • 僧帽弁輪のsaddle shapeの消失

  • 後尖のテザリングを受けて左室後壁方向へ屈曲して接合に関与できなくなる後尖のhamstringingとよばれる現象

左房拡大が著明になると,左房が左室後壁の後ろに潜り込むような拡大を呈するようになり,後尖側の僧帽弁輪は後方に偏位する.一方,左室後壁は前方に折れ曲がるようになり,後尖の先端は後方に位置する左室乳頭筋に引っ張られる(後尖のテザリング).その結果,後尖は折れ曲がったまま可動性を失って前尖と接合できなくなる.このような後尖に生じる機能制限を後尖のhamstringing現象とよぶ.全例に本現象を伴うわけではないが,心房性機能性MRの原因となる典型的な僧帽弁形態のひとつである.後尖のhamstringing現象には,前尖の先端が後尖の先端より心房側にずれて接合する前尖のpseudoprolapseあるいはoverridingとよばれる現象も伴うことが多い.図のように逆流が左房後壁方向へ偏位する原因となる.

  • 僧帽弁輪拡大を代償するために弁葉面積が大きくなる弁葉リモデリングが不足している

2).治療:

自己心膜による後尖のパッチ拡大:著明な弁輪拡大のために前後尖の接合が不良になる.そのような症例に,両弁尖の接合を大きくすることを目的として自己心膜による後尖のパッチ拡大を行う術式も報告されている.

高齢者では複雑な弁形成ではなく生体弁でのMVRも選択される.

7.MitraClip®

1).適応:

• LVEF≧20%で重症一次性ならびに重症二次性MR患者(MRの重症度は安静時・負荷時を問わない)のうち,

外科的開心術が困難な症例

primary MR C1/D1

Secondary MR C1/D1

• MRの改善により症候軽快が期待される症例

• MitraClip®を用いた施術に適した僧帽弁の形態

2).適応外:

わが国のガイドラインに準じた至適薬物療法が十分に行われていない二次性MR

• 心不全の急性増悪

• 強心薬(カテコラミン)に依存している状態

• 補助循環を使用している症例

3).不適応:

大腿静脈にシース挿入困難,あるいは同側に深部静脈血栓症が存在

• 弁尖の解剖学的特徴により,機器の操作・留置が困難(例としては以下を含む)

  - MitraClip®留置予定部位の石灰化

  - MitraClip®留置予定部位の顕著な裂隙

  - 2ヵ所以上で高度な MRを認め,施術によっても病態の改善を望めない

  - リウマチ性僧帽弁疾患など施術により弁尖の動きが著しく制限され僧帽弁狭窄をきたす可能性が高い

  - 後尖< 7 mmまたは重度の可動制限

  - MVA< 3.0 cm2

• 僧帽弁に活動性 IE 等の活動を有する変性病変が存在

• 僧帽弁位人工弁置換術後

• 心臓内腫瘍,心臓内血栓,心臓内疣腫(vegetation)の存在

• 食道疾患などによりTEEの実施が不可能

• 非心臓性併発疾患があり,余命が 1 年未満と推定される症例

• 抗血小板療法または抗凝固療法が禁忌の症例

練習問題

MitraClipの適応についてはどれか?二つを選べ

a.STSscore2点

b.カテコラミン使用中

c.EF<30%

d.二次性MR

e.一次性MR

解答:de

  1. 適応基準STSスコア≧8%

  2. カテコラミン使用は適応外

  3. 適応基準EF>=30%



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