大動脈瘤
大動脈瘤のcrawford分類
I近位下行〜腎動脈以上の動脈瘤(Sandford B)
II近位下行〜腎動脈以下の動脈瘤 (近位TAA~AAA)
III遠位下行~腎動脈以下の動脈瘤(遠位TAA~AAA)
IV腹部大動脈瘤~腎動脈以下(AAA)
大動脈瘤手術適応:
マルファン+胸部大動脈瘤 5cm以上
二尖弁+胸部大動脈瘤 5.5cm以上
上行胸部大動脈瘤 5.5cm以上
胸部、腹部大動脈瘤で径 5.5cm以上
・先天性二尖弁(上行拡大の頻度)
大動脈二尖弁では上行大動脈最大径5cm以上で上行大動脈拡張術を考える×
2020改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインJCS/JSCS/JATS/JSVS
1)大動脈基部・上行大動脈置換
Class Ⅰ
無症状の非解離性大動脈瘤,IMH,PAU,感染瘤,仮性瘤では,最大径≧55 mm,または< 55 mm であっても拡大速度≧ 5 mm/ 半年の場合は外科手術を行う
Marfan ,最大径≧55 mmで手術
1. 有意な大動脈基部の拡大のない高齢者や,若年者であっても基部拡大が軽度であれば,上行大動脈置換と大動脈弁置換が推奨される(Level C).
2. Marfan症候群,Loeys-Dietz症候群,Ehlers-Danlos 症候群,Valsalva洞を含めた大動脈基部拡大を呈する症例などに対しては,可能であればDavid reimplantation変法が,不可能であれば人工弁付き人工血管を用いた大動脈基部置換(Bentall 手術)が推奨される(Level B).
2)弓部大動脈置換
Class Ⅰ
1. 上行および弓部大動脈の修復術において,Strokeおよび高次機能障害の防止対策が極めて重要である(Level B).
Class Ⅱa
最大径≧ 55 mm には外科手術を考慮する
1. 近位大動脈弓部を含む大動脈瘤に対して,右腋窩動脈灌流と低体温循環停止下の部分弓部置換が望ましい(Level B).
2. 大動脈弓部全域におよぶ大動脈瘤,大動脈弓部の拡大を伴う慢性大動脈解離,近位下行大動脈を含む遠位弓部大動脈瘤に対しは,エレファントトランク法を併用した全弓部大動脈置換が望ましい(Level B).
3. 上行および弓部大動脈病変の修復術において脳障害を最小限度にするためには,施設ごとの経験に基づく超低体温循環停止下の選択的順行性脳灌流もしくは逆行性脳灌流の併用が望ましい(Level B).
4. 上行もしくは弓部大動脈病変に対する治療において,有意な冠動脈病変を有する症例に対してはCABG同時手術が望ましい(Level C).
Class Ⅲ
1. 上行および弓部大動脈病変の修復術において,脳保護の観点から,周術期の脳の高温は推奨されない(Level B)
3)胸部下行・胸腹部大動脈置換
Class Ⅰ
1. 脊髄障害のハイリスク症例に対する外科および血管内治療において脊髄保護の観点から脳脊髄液ドレナージが推奨される(Level B).
2. 臓器虚血もしくは腹部分枝高度狭窄を伴う胸腹部大動脈瘤症例に対しては,追加の分枝バイパスが推奨される(Level B).
Class Ⅱa
1. MEPもしくはSEPモニタリングは,外科および血管内治療の両方において推奨される(Level B).
2. 脊髄障害のハイリスク症例に対する外科および血管内治療において,脊髄保護の観点から,施設ごとの経験に基づく中枢側血圧管理もしくは遠位側灌流などによる脊髄灌流圧の適正化が望ましい(Level B).
3. 下行大動脈に対する外科治療において,脊髄保護の観点から中等度低体温が望ましい(Level B).
Class Ⅱb
1. 下行大動脈病変に対する外科もしくは血管内治療において,有意な冠動脈病変を有する症例に対して,冠動脈血行再建の優位性は立証されていない(Level B).
2. 脊髄障害のハイリスク症例に対する外科および血管内治療において,脊髄障害の防止のため,遠位側灌流,硬膜外冷却,大量ステロイド療法,マニトール,パパベリン,代謝抑制麻酔薬,等の補助療法が用いられる(Level B).
3. MEPもしくはSEPモニタリングは,脊髄虚血発生の感知や肋間動脈の再建の有用な指標として用いられる(Level B).
4. 下行大動脈外科治療において,術前の輸液負荷や術中のマニトールの投与は腎保護の点で望ましい可能性がある(Level C).
5. 腎動脈までおよび胸腹部大動脈修復術において,冷却クリスタロイド液もしくは血液灌流による腎保護が望ましい(Level B).
Class Ⅲ
1. 下行大動脈修復術において,腎保護の目的のためにフロセミド利尿剤,マニトール,ドパミンなどは投与されるべきではない(Level B)
臓器の虚血性合併症を減少させるために
①大腿静脈(右心房)脱血-大腿動脈送血バイパス(部分体外循環)
②左心房脱血-大腿動脈送血バイパス(左心バイパス)
腹部大動脈瘤
Class I
瘤径≧ 55 mm の場合,侵襲的治療を行う
有症状の症例ではすみやかに侵襲的治療を行う. I
Class IIa
瘤径≧ 50 mm の場合,侵襲的治療を考慮する.
嚢状瘤や急速拡大(≧ 5 mm/ 半年)する瘤には侵襲的治療を考慮する.
破裂リスクある場合:<55mmでも手術
女性、高血圧,喫煙,COPD合併
炎症性腹部大動脈瘤
診療:
Class I
炎症性腹部大動脈瘤が疑われる場合には,血清IgG4 を測定
ClassIIa
有症状例には,ステロイド薬などによる抗炎症療法を考慮する
瘤径が男性では55 mm,女性では50 mmを超える症例で,解剖学的要件を満たしていれば,EVAR を第一選択として考慮
予後: 外科手術を行った場合,広範な癒着のために周術期合併症と死亡率が通常のAAAと比較して3倍高かった
IgG4関連炎症性腹部大動脈瘤
IgG4関連疾患は,膵臓・肝胆・涙腺・唾液腺・後腹膜腔などの全身臓器の結節・肥厚性病変を認める原因不明の疾患
病理組織学:IgG4形質細胞浸潤・線維化を特徴
① 慢性大動脈周囲炎:大動脈や分岐周辺の炎症及び線維化が強い疾患群で,特発性後腹膜線維症,炎症性腹部大動脈瘤,大動脈瘤周囲の後腹膜線維症の3疾患が該当する.
確定診断は上記に述べたように組織診断によるが,
画像診断としては瘤壁の周囲に低エコーの壁肥厚所見(マントルサイン)は炎症性動脈瘤を示唆し重要である.
マントルサインを見た場合にはIgG4関連疾患を鑑別診断の一つに挙げる必要がある.
×非IgG4関連腹部大動脈瘤より破裂しやすい
高安動脈炎
病因:
炎症の活動期は外膜から中膜に及ぶ高度な炎症細胞浸潤がみられ,特に中膜層の弾性線維を破壊,
大動脈炎症候群(高安動脈炎)
疫学:
大動脈および基幹動脈,冠動脈,肺動脈に生じる大血管炎である.男女比は約1:8で女性に多い.
女性における初発年齢は20歳前後にピークがあるが,中高年で初発する例もある.
アジアや中近東での症例が多い.
病因は依然不明であるが,感染などのストレスがきっかけとなり自己免疫的な炎症機序でT細胞を中心としたエフェクターによる血管組織の破壊が生じる
初発症状:
原因不明の発熱
頸部痛
全身倦怠感
血管病変の症状
狭窄病変では大動脈弓部分枝病変による脳虚血症状や視力障害,
上肢の乏血による血圧左右差や脈なし,
鎖骨下動脈盗血症候群など頭部や上肢虚血症状
腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧
肺動脈狭窄による肺梗塞
冠動脈入口部狭窄による狭心症
上行大動脈では拡張傾向となり,上行大動脈瘤と大動脈弁閉鎖不全,大動脈解離
(参考文献)
血管炎症候群の診療ガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告)
×炎症は内膜が強い 中膜層の弾性線維を破壊,
×初発年齢は中年が多い 二峰性
×冠動脈病変は末梢型 冠動脈入口部狭窄による狭心症
×脾動脈瘤
大動脈弓の分岐部分から上行する3分枝の血管が侵されやすく,
狭窄部位によっては鎖骨下動脈盗血症候群など頭部や上肢虚血症状の原因となる.
病変は弓部の主要分枝血管,さらに下行大動脈内にも進行していくが,上行大動脈では拡張傾向となり,上行大動脈瘤と大動脈弁閉鎖不全
大動脈解離
合併症
狭心症、異型大動脈縮窄、AR,胸部下行大動脈瘤、腎動脈狭窄によるHT
心臓血管外科専門医2015
65歳の女性.失神発作と労作時息切れを主訴に来院した.30歳台時に原因不明の発熱の既往あり.頚部MRA,心エコー図を示す.この疾患で正しいのはどれか.2つ選べ.
a 初発年齢は中年が多い
b 炎症は血管内膜に強い
c 大動脈弁輪拡張をきたす
d 冠動脈病変は末梢型が多い
e 腎動脈狭窄による高血圧を合併する
解答:ce
a.×初発年齢は20歳前後にピーク
b.×病理では弾性型動脈に限られた中膜・外膜の病変を基盤とする.特に中膜の外膜寄りに病変の主座があり,平滑筋細胞の壊死や弾性線維の破壊と線維化を
伴い,外膜の炎症性肥厚を特徴とする.
c.◯血管拡張病変では大動脈瘤,大動脈解離,大動脈弁輪拡大に続発する大動脈弁閉鎖不全症に基づく心不全が主たるものである.
ARは約30%に認められる.
大動脈基部拡大を伴う高度大動脈弁閉鎖不全症ではBentall手術が行われる
d.×冠動脈入口部狭窄による狭心症を引き起こす
冠動脈バイパス術では弓部分枝動脈に狭窄や閉塞がある場合は,内胸動脈は使用できない.
e.◯腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧
感染性大動脈瘤
起炎菌
ブドウ球菌を主としたグラム陽性球菌,
サルモネラ菌を主としたグラム陰性桿菌
治療:
1.抗生剤:
2.手術:
大動脈瘤切除により破裂を予防し,感染巣を除去するという2つの目的:
①通常の大動脈瘤手術: in situ人工血管置換術を第一選択
凍結保存した同種大動脈グラフト(ホモグラフト)
②大動脈瘤を含む感染組織を可能な限り除去する必要がある.
胸部大動脈における食道瘻,あるいは腹部における十二指腸瘻を伴う症例では,消化管の修復または切除
人工血管とその吻合部や大動脈断端への感染の波及を予防する
3. 大網充填
in situに移植した人工血管の周囲を大網で被覆して感染の波及を予防
外傷性大動脈瘤
治療:
血行動態が不安定な状態であれば迅速な開腹手術
比較的安定した状態であれば,塞栓術を中心とした血管内治療
術後乳糜胸
原因:
左開胸の下行大動脈置換や胸腹部大動脈置換術の際に、大動脈の操作や周辺の剥離操作の際に、胸管を損傷
症状:
胸腔ドレーン白色の排液
治療:
1.保存的治療:
絶食(または脂肪制限食・中鎖脂肪酸食など)
完全静脈栄養(total parenteral nutrition : TPN)
ドレナージ
2.薬剤治療:
OK432胸腔内注入を用いた胸膜癒着法
酢酸オクトレオチド(サンドスタチン)皮下注射:ソマトスタチンの合成アナログであり,ソマトスタチンよりも半減期が長く,消化管の外分泌を抑制することで栄養素の吸収や消化管運動を抑制
3.手術
再開胸して胸管結紮術
リンパ管造影から損傷部位を同定し、胸管塞栓術
×胸腔内持続洗浄