夢十夜番外地
氷の海の上から核ミサイルが発射される。暗闇の中、それは箒星のように尾を引いて空を昇っていった。
地下に逃げなければ、と夜の中を彷徨うと、モグラ人間の住処があり、あたたかな灯りが溢れている。モグラ人間は快く迎えてくれた。そこは木造のアパートだったが、モグラ人間が掘り進めた地下にも居住空間がひろがっていた。わたしたちは畳の部屋の真ん中にある炬燵に集まった。
窓から外の、昼間の公園の景色が見えて私が驚いていると、
「これは窓の代わりに、金属の板に風景を描いたものなんですよ。地下だと気持ちも暗くなりますから」
モグラ人間は少しはにかみながら説明した。
人数分のお茶とお菓子が行き渡り、見知らぬ人ばかり集まったお茶会が少し打ち解けてきた頃、地震のようにぐらぐらと部屋が揺れた。いよいよミサイルが落ちたのだ。地上では公園の遊具や小学校の校舎が熱線に焼かれ、爆風で吹き飛ばされている。
そして少し先の未来が、見えた。
一緒にこのあたたかで優しい地下に逃げてきた、今日知り合ったばかりの人が、衰弱し、血を吐き、死んでいく。地下にいても核ミサイルの放射能からは逃れられない。
それでも、その人は微笑んでいた。
「大丈夫、きっといつか、地上で暮らせる日がまたくるから」
そうして微笑みながら、死んでいった。
きっと私もこの人のように、未来に希望だけを託して死んでいくのだろう。血を吐いてなお微笑みながら。100年後の地上で女学生が笑い合いながら道を歩くのをまぶたのはしに見ながら。
そんな夢を見た。