『歳をとるのが楽しみな話』(愛理)

「若さは最大の武器」
「今がいちばん華なんだから」
高らかに告げるそんな文言に、どこか鼻白む私がいた。

22歳の私は、まだまだ生きづらい。
世間で言う「若い」におそらく自分は入るけれど、

エネルギーがぱんぱんに溜まった感情に振り回されてばかりだし、人の目を気にしては疲れていて。

知識も足りない。経験も足りない。すべきことはどこかで分かっているのに踏み切れない。頭と心が一致しないもどかしさを抱えている。

まだ見たことないものが多すぎて、いちいち臆病だし、勇気は出ないくせに、将来を綺麗に妄想したり不安がってみたり。

若いって、まるで燃費の悪い暴走車だ。


……とまあ、色々と並べてみたけれど。

私はただ、これからの人生を、
私が今まで生きてきたよりもっと、長く長く続く人生を、素敵だと思っていたいだけなのだろう。

だって、今がピークで褪せていくなんて考え、あんまりじゃない。

たとえ絶望しても立てるだけの強さ。
色んなことを深く考えるための知識。
自分という核を作るような経験。

ぜんぶ足りない。でも、ぜんぶこれから足していける。


私が信頼している人が、「歳をとればとるほど人生楽しいよ。」と言っていた。

そう言っていたあの人を、その時私は誰よりも綺麗だと思った。

今の価値観や考えをひっくり返されたり塗り固められたりして、人生経験がついていくうちに、余計な不安は少しずつ削ぎ落とされていくのだろうか。

それなら今、この若さと青さで、
もどかしさも不安も後悔も全部抱えたまま体当たりしながら歳をとっていきたい。

そうやってついた傷が馴染んで、いつか履きなれた靴みたいに心地よく考えられるときが来るのかもしれない。

それって、歳をとるって、素敵かも。


拝啓、20年後の私へ。
今のあなたは、大好きな、履きなれたあの靴のように軽やかに、しなやかに生きているでしょうか。
きっとそうなっていると、私は信じています。


(6月テーマ『道程』)

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