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まっしろいもの


玄関を出て
傘をさす

湿度を蓄えた空気が
歩き出した途端に
寄ってくる

地下鉄の階段で
色とりどりの傘を持つ人とすれ違う


ひなの巣から
かぼちゃのデザインをお願いされたんだ
そう言いながら暖かいお茶を進めてくれる

目を細めてこちらをみつめる

いつでも正しい答えを用意して
君を待つわけではない
デザインしたスケッチを差し出される

スケッチを見ながら
もう一度
頭の中で繰り返す

いつでも正しい答えは用意されていないと


ココアパウダーを机の上にこぼした時
おぎさんが上目遣いで作業する手を止め
こちらを見たんだ

作業台が何かで汚染されたかのように
見ていたおぎさん
深夜にその表情を思い出す

慌てて拭いたんだけどな
おぎさん
アルファベットで書けばOGI
すぐ拭き取ったってば
おぎさん



高台に建つ見晴らしのいい都営住宅の廊下
赤、青、赤と順序よく並ぶ扉
5番目のインターフォンを押す

スケッチを見ながら
砂糖菓子を作るのは来月かと考える
おぎさん
こんな暑い日にかぼちゃを見てもね
なにも思えないよ
アルファベットの表記はOGI

雨が降り出した音でふと顔を上げると
かぼちゃについて尋ねて来るのを待っている

少しずつ、ずれていく軌道は
エアコンから送風される風と雨の湿度で
無言の中、修正されていく


かぼちゃのイラストをみつめる
そう、
いつでも正しい答えは用意されていない
大きくスイングする軌道だってある

期待した言葉は粉々に砕き
「いいデザインですね」そう笑顔で言う

雨上がり
高台の都営住宅をあとにする


夜明けに古びたタオルで
壁から剥がれ落ちた
珪藻土を拭き取った時の事を
思い出す










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