君の街

橋を渡り、バスはロータリーへと入って行く
ロータリーの真ん中
やや高い位置に
ポニーテールにレオタード姿で
向かい合うふたりの少女の像がある

その周りを囲むように
薔薇は植えられている

朝も昼も夜も、ロータリーに入って来るバスは
少女たちの前を通り過ぎて行く

右手を掲げ、左足は後ろへ一歩下げて爪先立ち
背中は少し逸らしてハイタッチをする
少女たちの前をぐるぐるとバスはお客を乗せて通り過ぎて行く

真夜中の月が西へ傾く頃
そっと手を離した少女達は
静かに息を吐く

そして話し始めたにいきし少女達はかたむくころかたむく

青く光る橋を越えた先に
中央分離帯があるでしょ
そう、道路の真ん中にある中央分離帯

あそこの中央分離帯には
グラジオラスと極楽鳥花が植えられているの
アンセリウムも植えられているし
中央分離帯なのに
ゾウガメもいる
極楽鳥花の脇には
巨大なアロエベラだって生えている

でも、ゾウガメは小松菜を食べている
もちろん小松菜も植えられている

そう
中央分離帯なのに小松菜も生えているし
中央分離帯なのに小屋もある
中央分離帯なのに団地だってあるし
中央分離帯なのに川も流れている
中央分離帯なのに船も走っているし
中央分離帯なのに中央大橋もかかっている
中央分離帯なのにマイバスケットもあるし
中央分離帯なのにスポンジと生クリームの二層構造
中央分離帯なのにとろけて
中央分離帯なのに分離していない

分離していない

ゾウガメは小松菜を食べながらゆっくり道路へ出て
今朝も冷えますね穴熊くん
と、話しかける

少女達は少し笑う
両手を挙上して準備運動をする

バスの運転手はエンジンをかける
乗客を乗せた始発バスは
青く光る橋を渡る