見出し画像

食料品を中心とした物価上昇の影響で、エンゲル係数はここ20年で5%も上昇し28%。私たちの生活水準は年々低下?

(出所)総務省統計局「家計調査」(2025年2月7日発表)のデータを基に筆者作成
(出所)総務省統計局「消費者物価指数」(2025年1月24日発表)のデータを基に筆者作成

「エンゲル係数」をご存じですか。家庭科の授業で習った覚えがあります。一般的に、エンゲル係数が高いほど、生活水準が低いと言われています。

一番上の図表をみてください。総務省が発表した2024年の二人以上世帯のエンゲル係数は、28.3%となっています。2005年の22.9%がボトムですので、そこから20年で5.4%ポイントも上昇しています。生活水準は年々悪くなっているということでしょうか。

「エンゲル係数」と名付けた名前の主は、エルンスト・エンゲル(1821-96年)というドイツの統計学者です。「エンゲル係数」は、「消費支出」全体に占める「食料費」の割合を%表示したものです。食卓の風景、食生活のスタイルが変わっていく中で、その時々の国民生活の一面を表す重要な指標となっています。

ただし、総務省が発表する「家計調査」では、発表されたエンゲル係数は、単純に「食料費/消費支出」ではありません。分子の「食料費」の中には、自分の世帯で消費する目的以外の食料支出も含まれるので、これを食料費から控除した費用を分子の「食料費」としています。つまり、家計調査の「『食料』から贈答品や仕送り用などの食料支出を控除した費用」を分子として、エンゲル係数を算出しています。

一般的に、所得が低いほど食費の割合が高くなる傾向があります。これは、食費が生活に必要な最低限の支出であり、所得が低いと他の支出を削ってでも食費を確保する必要があるためです。所得が低いと、娯楽や教育といった生活水準を向上させるための支出に回せるお金が少なくなります。このため、エンゲル係数が高いほど、生活水準が低いと言われています。

エンゲル係数が高いということは、食費以外の支出を削らざるを得ない状況であり、生活の選択肢が狭まっていると考えられます。エンゲル係数の高さは、家計の経済状況が厳しいことを示唆する指標の一つとして捉えられています。

二番目に図表で、この3年間の月ベースのエンゲル係数の推移をみてみると、月々の振れはありますが、エンゲル係数は右肩上がりに高くなっています。

「エンゲル係数」は物価変動の影響を強く受けます。特に、食料品の価格変動はエンゲル係数の変動に直結します。食料品の価格が上昇すると、食料費が増加します。家計の消費支出全体に占める食料費の割合が増加し、エンゲル係数が上昇します。特に、所得が低い世帯では、食料費の割合が高いため、物価上昇の影響を受けやすく、エンゲル係数が大きく上昇する可能性があります。

ただし、物価が上昇したからといって、単純に、エンゲル係数が高くなる訳ではありません。食料物価の上昇率と消費者物価全体の上昇率を比較して、食料物価の上昇率が消費者物価の上昇率よりも高くなれば、エンゲル係数は高くなります。逆に、消費者物価全体は上昇しているけれども、食料物価が落ち着いていてそれほど上昇しなければ、むしろエンゲル係数は低下します。

三番目の図表をみてください。今回の物価上昇局面は、食料物価の上昇率が消費者物価全体の上昇率よりも高いので、エンゲル係数が高くなっています。

物価変動がエンゲル係数の変化に与える影響の大きさは、食料物価や消費者物価全体の変動の大きさではなく、その相対比によるものです。実は、エンゲル係数自体は、生活水準の高低や生活の苦楽を単純に示すものではないことが理解できます。


いいなと思ったら応援しよう!