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金融政策の判断に、生鮮食品を除く消費者物価の伸び率を重視するのは何故ですか?

(出所)日本銀行 2025年1月金融政策決定会合での決定内容
(出所)総務省 2020年基準消費者物価指数(2025年1月24日発表)を基に筆者作成

2025年1月23~24日、日本銀行が金融政策決定会合を開催しましたが、議論の結果、政策金利とする短期金利(無担保コール翌日物レート)を0.25%から0.5%に引き上げると発表しました。植田総裁は、利上げの理由について、今年も春闘でしっかりとした賃上げが見込まれることと、トランプ米大統領が就任した後も金融資本市場が落ち着いていることを挙げています。

春闘での賃上げは期待できるとしましたが、肝心の物価の見通しはどうみているのでしょうか。賃上げ率よりも物価上昇率の方が上回ってしまえば、実質的に給与収入は目減りしてしまいます。賃上げ率が物価上昇率を上回り、実質的にも給与収入が増加するであろうと判断したことが、利上げ決定の背景にあります。

一番上の図表が、日銀が公表した金融政策決定会合に出席している複数の政策委員の見通しの中央値です。経済成長率である実質GDP伸び率、除く生鮮食品ベースで消費者物価が掲載されています。消費者物価の見通しをみると、2024年度は前年度比+2.7%と、昨年10月時点よりも+0.2%上方修正されました。2025年度の見通しは前年度比+2.4%、2026年度の見通しも同+2.0%と、今後も+2%以上が継続すると見通しています。今次局面では、春闘で賃上げ+5~+6%の上昇が期待されており、消費者物価の上昇率が+2%台に抑えられるのであれば、給与収入が実質的に増加し、景気の好循環が期待されます。

植田総裁は、「経済や物価の見通しが実現する確度が高まれば、引き続き金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくという基本的な考え方に変わりはない」と強調しています。

さて、日本銀行が物価を見通す場合、消費者物価指数から生鮮食品を除くのは何故でしょうか。2020年基準の消費者物価指数では、全体を示す「総合」のウエイトは10000、「生鮮食品」は396、「生鮮食品を除く総合」は9604になります。つまり「生鮮食品」のウエイトは4%程度で、そんなに大きなウエイトを占めている訳ではありません。二番目の図表をみると、2024年総合が108.5、生鮮食品が122.6、生鮮食品を除くと107.9となっています。僅か4%の「生鮮食品」が物価を押し上げています。

生鮮食品(野菜、果物、魚介類)は、天候や季節的な要因、病害虫、自然災害などの外部要因によって価格が大きく変動します。このため、生鮮食品を含めると、短期的な物価変動が過大評価または過小評価される可能性があります。三番目の図表で、ここ3年間の主要な生鮮野菜の推移をみると、特に2024年に入ってから、大きく値上がりしています。

金融政策の目的は、中長期的な物価安定を図ることにあります。短期的な変動が大きい生鮮食品の価格変動は、物価の基調を把握する上で「ノイズ」となる可能性があります。そのため、短期的な変動に左右されにくい「基調的なインフレ率」を把握する必要があります。生鮮食品を除くことで、物価の持続的な上昇または下落のトレンドをより正確に観察できます。

政策委員が判断を下す際、一時的な要因で変動するデータに基づいて決定すると、政策の信頼性が損なわれます。生鮮食品を除くことで、物価指標をより安定的かつ一貫性のある形で分析できるため、金融政策判断の基盤が強化されます。生鮮食品の価格は、主に天候などの供給側の要因によって大きく変動するため、金融政策の効果を評価する上では、生鮮食品の影響をできる限り排除する必要があります。

「生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)」は「コアCPI」とも呼ばれています。多くの国でインフレ指標として使用されており、国際比較がしやすい指標です。これにより、日銀の政策判断が他国と比較可能になり、透明性と説明責任が高まります。

生鮮食品を除く理由は、短期的な価格変動の影響を排除し、中長期的な物価の基調を把握するためです。これにより、金融政策が市場や経済に与える影響を正確に評価し、安定的な物価目標の達成を目指すことが可能になります。


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