マンションと居住者の高齢化「2つの老い」問題が深刻化する中で、様々な法改正等により対策を強化
マンションは、アパートと異なり、鉄筋コンクリート(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)などの堅牢な構造で建てられることが多く、耐久性や遮音性に優れています。1970年代のマンションブーム以降は、都市部を中心に分譲マンションが大量に建設され、ファミリー層を対象にした広めの間取りが普及し、中流家庭にとって理想的な住まいとなりました。近年では、どんどん高層化し、2000年代以降に、都市部の再開発プロジェクトと連動して、超高層のタワーマンションの建設が進み、首都圏では乱立しているようにもみられます。2023年末時点で、マンションは国内におよそ700万戸分が立地しています。
そのマンションですが、初期の頃に建設されたマンションには「2つの老い」問題と呼ばれる高齢化問題が深刻化しています。この問題には、マンションという建物自体の老朽化と、そこに住む居住者の年齢構成の高齢化が絡み合っています。それぞれが独立した課題であると同時に相互に影響を与えています。
国土交通省が提供している上の図表で、問題の所在を数字で確認してみましょう。築40年を超えるマンションは、2022年現在126万戸分あり、20年後の2042年には445万戸分と予想されています。このうち、世帯主が70歳以上の高齢者が住む住戸の割合は、築40年以上で48%とほぼ半分を占めています。つまり、建設から月日が経ってマンションが老朽化し、若い頃にマンションに入居した住民も同時に高齢化していることを示しています。
マンションは築年数が経過するにつれて老朽化しますが、コンクリートの劣化や鉄筋の腐食、外壁のひび割れ、配管の老朽化などが進行すると、建物の構造や機能に影響を及ぼし、建物の安全性が低下します。老朽化が進むと修繕の頻度や費用が増加します。マンション管理組合や居住者の維持管理コストが増加し、経済的負担が大きくなります。また、老朽化が進んだマンションは資産価値が下がるため、売却が難しくなり、住み替えが困難になるケースもあります。
一方、マンション内の居住者の年齢層が高齢化すると、管理組合の役員を担う人材が不足し、意思決定や運営が停滞し、管理組合の運営が難しくなります。高齢化した居住者が増えると、生活支援のニーズが変化し、日常生活のサポートやバリアフリー対応などのニーズが高まり、マンション全体で対応が求められるケースもあります。さらに、高齢者の単身世帯が増えると、孤独死が発生するリスクが高まり、他の居住者にも精神的な負担が高まります。
建物と居住者の高齢化は相互に影響を与えています。老朽化したマンションを建て替えることは選択肢の一つですが、高齢化した年金生活の居住者が経済的負担に耐えられず、多数決による合意形成が難しくなります。仮に、建て替えを進めようとしても、最近の資材価格や人件費の高騰はさらに合意形成を難しくしています。結局、建て替えができず、益々老朽化していきます。大口の修繕をしようとして、修繕積立金を増額する必要があっても、資金が集められずに修繕計画が滞ることがあります。
政府は、こうした「2つの老い」問題に対して、2000年以降、老朽化したマンションの建て替えや敷地の再利用を円滑に進めるため様々な法改正を行っています。
これまでは区分所有法に基づき、マンションの建て替えには住民全員の同意が必要でしたが、「マンション建替円滑化法」の制定(2002年)により、建て替えに必要な住民同意の要件を緩和し、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成で建て替えが可能となりました。2014年には、建て替えを進めやすくするため、合意形成プロセスの簡略化や、手続きの明確化が行われました。また、マンション敷地売却制度により、建て替えが困難な場合、敷地全体を一括して不動産会社などに売却しやすくしています。この結果、2024年4月までに2万4千戸分のマンションの建て替えが完了しました。
マンションの管理状況を適切に保つため、「マンション管理適正化法」の改正(2020年)が行われました。地方自治体が、管理組合の作成した管理計画を認定することで、適切な維持管理を促進する「管理計画認定制度」を導入しました。また、管理組合が運営不全に陥らないよう、専門家が管理組合を支援し、修繕計画の策定や財務状況の改善を支援する「管理適正化推進制度」が追加されました。これらは、管理不全マンションが放置されることを防ぐため、自治体が積極的に介入できる仕組みの強化です。
このほか、国土交通省では、マンションの適切な維持管理や建て替え、用途変更といった再生方法を推進するための指針として、「老朽化マンション再生ガイドライン」を2014年に策定し、管理組合や自治体向けに具体的な手続きや支援策を提供しています。