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全世帯に対する「給食費の無償化」の目的は、子育て支援、少子化対策の一環として総合的に考えよう。

(出所)文部科学省「『給食無償化』に関する課題の整理について」(2024年12月27日公表)

10月の衆議院選挙では、「学校給食費の無償化」を目標に掲げた政党もありました。文部科学省では、給食費の無償化に関する議論が行われており、2024年12月27日に、「『給食無償化』に関する課題の整理について」が公表されました。

学校給食の無償化は、2023年6月13日に閣議決定された「こども未来戦略方針」の中で、こども・子育て政策の課題「子育ての経済的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感の存在」で取り上げられ、その実現に向けて調査・検討が進められています。

学校給食は、1889年に山形県鶴岡市の私立小学校で貧困児童への就学奨励のために実施されたのが始まりです。昭和初期の1932年に国庫補助による給食が貧困児童対象に初めて実施されました。1954年に「学校給食法」が制定され、1956年には生活保護法に規定する要保護者、準保護者に対する国の給食費支援が始まりました。2000年代には給食における地産地消や食育の観点が盛り込まれました。その結果、現在の「学校給食法」には目的として「学校給食の普及充実」「学校における食育の推進」と定められ、上記の表のような目標が列挙されています。

学校給食にかかる経費は、原則、学校給食にかかる施設・設備費、人件費は学校設置者が負担し、食材費は保護者負担することになっています。保護者が負担している給食費はこの食材費に充てられています。食材費は、月全国平均では小学校4,688円、中学校5,367円です。全児童生徒のうち、約14%を占める経済的困窮者世帯に対しては、既に生活保護による教育扶助・就学援助により、基本的に無償化が実現しています。

2023年9月1日時点で全国の1,794の自治体のうち、自治体独自の何等かの「給食費の無償化」を実施していたのは722の自治体(40%)、うち547の自治体(30%)が全ての小中学校の児童生徒を対象に無償化を実現しています。財源は、各自治体の自己財源66%、地方創生臨時交付金32%、ふるさと納税10%、都道府県からの補助7%となっています。各自治体で財政力の強い自治体だから実施しているという傾向はみられません。

「給食費の無償化」を実施している自治体が掲げる目的は、保護者の経済的負担の軽減を目的とした子育て支援(9割)、少子化対策(1割)、定住・転入促進(1割)で、学校給食法の目標である食育を目標とする自治体は5%未満と僅かとなっています。

原点に戻って考えてみると、「学校給食法」の目標は、適切な栄養摂取による児童生徒の心身の健全な発達や、給食を通じた食に関する理解や判断力の育成です。このために、給食実施に対する諸施策や、経済的困窮により給食費の支払いが困難な世帯に対する負担軽減が行われています。

仮に、これから政府が全世帯に対して、「給食費の無償化」の範囲を拡大するとなれば、経済的困窮世帯に対しては既に給食費の無償化がなされているので追加的な恩恵はなく、経済的困窮者を支援する目的にはなりません。「給食費の無償化」の目的は、全世帯に対する子育て支援、少子化対策になります。

現在、全国の公立の小中学校でかかっている食材費は4,832億円と推計しています。仮に、全世帯に対して「給食費の無償化」を実施した場合に公費で賄わなければならなくなる金額です。臨時的な費用ではなく、恒常的な費用として必要になります。実現のためには、安定的な財源の確保が必要になります。

政府が検討している様々な子育て支援策、少子化対策の一環として、「給食費の無償化」が効果的な施策であるか否か、総合的に考えていく必要があるでしょう。


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