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グリーンランドは氷と自然の魅力的な国。大国が狙う理由は、軍事上の要塞とレアアース。
アメリカのトランプ大統領は、「アメリカ・ファースト」を掲げ、日本人からみれば、世界各国が協調して作り上げた秩序に逆行するような政策を次々と実行しますが、これもまた驚くような提案でした。それは、デンマーク領グリーンランドを購入するといった提案です。実は、トランプ大統領は政権1期目の2019年にも買収計画を提案し、物議を醸しました。デンマークのフレデリクセン首相に一蹴され、外交摩擦になったことがあります。
グリーンランドは、日本人にはあまり馴染みがありませんが、いったいどんな国なのでしょうか。
グリーンランドは、世界最大の島で、まるで宝石箱のような自然の宝庫です。その85%以上が氷に覆われた壮大な自然を持つ魅力溢れた国です。北極圏に位置し、独特の文化と美しい風景が特徴です。面積は日本の約6倍にあたる217万k㎡です。南北の距離は2,670kmで北海道と沖縄間の距離に、東西の距離は1,050kmで北海道-東京間の距離に相当します。
グリーンランドの人口は少なく、約5万7000人です。日本でいえば小さな市程度の人口です。住民の9割近くを先住民のイヌイットが占めています。イヌイットは厳しい自然環境の中で、犬ぞりや伝統的な狩猟、そして手作りの工芸品など、独自の文化を築き上げてきました。首都ヌークは、カラフルな建物が並ぶ美しい街です。
世界最大のフィヨルドであるスコアズビー湾には、神秘的な巨大な氷山が浮かび、そのスケールに圧倒されます。世界遺産にも登録されているイルリサット氷河のように、世界で最も活発な氷河が存在し、氷山が海に崩れ落ちる光景は圧巻です。イルリサット周辺のディスコベイは、氷山クルーズやハイキングを楽しむことができます。冬には、夜空を彩る美しいオーロラを観測できます。 ホッキョクグマ、アザラシ、クジラなど、様々な野生動物が生息しています。
ただ、近年、地球温暖化の影響を受け、氷が急速に融解しています。気候変動の影響は深刻で、その未来は憂慮されています。海面上昇や生態系の変化など、地球規模の問題を引き起こす可能性も拭えません。
グリーンランドは、1721年から1953年までデンマークの植民地でしたが、1979年に自治権を与えられ、2009年に自治法が制定されました。
トランプ大統領が「国家安全保障と世界の自由のため、アメリカがグリーンランドを所有、管理することが必要だ。デンマーク側が島を譲らなければ、軍事的・経済的な強制手段も辞さない」といった趣旨の発言をしましたが、それには、2つの理由が考えられます。
一つは、グリーンランドは、アメリカとロシアを結ぶ線上に位置しているため、軍事上の要衝であることです。1951年にアメリカとの防衛協定に基づき、米軍にとって最北端となる空軍基地が配備されました。現在は「ピツフィク宇宙軍基地」と呼ばれ、レーダーで北米に飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)攻撃の警戒を行っています。仮に、ロシアがアメリカ向けて核ミサイルを発射した場合、グリーンランド上空を通過することになるためです。また、近年は、北極海の重要な航路としての活用も進んでいて、アメリカ、ロシア、中国にとって安全保障・経済面での要衝となりつつあります。
もう一つの理由は、グリーンランドでの鉱物資源の開発です。鉱物資源活動から得られる収益は自治政府に帰属しています。EV(電気自動車)のモーターやスマートフォンなどの精密機器に不可欠なレアアースを含む地下資源が豊富で、世界有数の埋蔵量があるとみられています。
実は、アメリカのグリーンランド購入計画はトランプ大統領が初めてではなく、1949年にはトルーマン大統領が1億ドルでの購入を提案し、デンマーク政府に拒否されたことがありました。