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「技の精度」の正体(全文無料)
今日も今日とて柔術は楽しい。先日の記事の一部で技の精度について書きました。もう少し掘り下げてみようということで技の精度を自分なりに考えてみます。
技はシンプルな方がいい。その心は。(シンプルな技のコンセプト、アジャスト能力、手順の多い技の存在意義)(全文無料)|柔術哲学(アンディ)
最初に。これが絶対の正解ではない
技の精度って概念なので本記事で書いてあることは絶対の正解というわけではないです。
ただ、自分はこの考え方をすると整理しやすかったので参考になれば幸いです。
1.技の精度を二つに分ける
技の精度というと思い浮かぶのは何でしょうか。
正確性、力を効率よく伝える、タイト、極めが強い、何回やっても同じ動きができる、再現性が高い、タイミングが絶妙、力の方向が適切、重心をコントロールできている、良いフォーム、技の形が正確、etc.
どれも正しいと思います。
では、「技の精度」を整理するべくこれらを二つに分けてみます。
①「自分の体」を正確に動かす技の精度
(自分の体をコントロールする力)
②「相手の体」を正確に動かす技の精度
(相手の体をコントロールする力)
この二つに分けると「技の精度」というものが整理しやすくなります。
2.①自分の体を正確に動かす(自分の体をコントロールする)
これは分かりやすいです。ソロムーブや打ち込みなどで自分の体を正確に動かせることです。毎回数ミリのずれもなく完璧に同じ動きができるのは「技の精度」が高いと言ってよいでしょう。
イメージしやすいのは柔道の打ち込みです。柔道には打ち込み文化があります。
何度も何度も打ち込みを繰り返すことで、そのフォームを正確に毎回同じように繰り出すことができます。
柔術でもこの「自分の体を正確に動かす技の精度」は大事なのでソロムーブや打ち込みを繰り返すことでその能力は上達します。
杉江(白木)アマゾン大輔先生は「自分の体をしっかりコントロールできないやつが相手の体をコントロールできない」と言っていました。
杉江(白木)アマゾン大輔先生:カルペディエムHOPE、カルペディエム名古屋、カルペディエム立川の代表でMMA選手、柔術家としても多くの実績を残している。くわしくはこちら
3.②相手の体を正確に動かす(合わせる)技の精度(相手の体をコントロールする)
①の「自分の体を正確に動かす(自分の体をコントロールする)」力が身に付けば試合やスパーで技が決まるかというとそんなことはないです。
極端な例ですが、打ち込みを10000本やってもスパーを一回もやったことのない人はおそらく試合で一本を取ることは難しいでしょう。
それはなぜか。当たり前ですが、柔術は相手がいます。相対的に技やポジションの形が成り立っています。
柔術の技は相手の体を使って繰り出す相対的なもの
例えばダーツのフォームは自立していて①の自分の体を正確に動かす技の精度だけで成り立ちます。野球のピッチング、ゴルフのスイングなどもそうでしょう。(相手が与える心理的な要因などは除く)
格闘技であっても打撃は相手と体が接していなければ自分の打撃のフォーム自体は自立しています。
柔術の技は動いてくる相手の体に対して成立するものです。野球やゴルフの素振りやダーツやシャドーボクシングのように一人でやることはできません。バックチョークや下からの腕十字やニーカットパスを一人でエアでやるのはできません(できなくはないが、ほぼ別物の動きになる)
柔術の技の精度を上げるのが難しい理由。アジャスト力
技の精度を上げるのが難しい理由はここにあります。打ち込みをたくさんやれば技が成功するわけではないのです。(打ち込みも大事なんですけども)
柔術の技の精度を上げるのが難しい理由は「毎回同じ形で技を出せるとは限らない」ということに尽きます。組手や相手の体格、反応(警戒度)強さ、汗の量、道着の状態など柔術の攻防は一度として同じシチュエーションになりません。同じ相手とやったとしても昨日の相手と今日の相手は少し変わっています。新しい技を覚えたり、こちらの技を警戒したり、体調がよくなっていたり、持ちにくい道着を着ていたりしたら同じ人間でも変化しています。
道着を持つ位置が1cmズレたら力の入り具合が変わります。相手の重心の位置が数%ズレたら正しい崩す方向も変わります。相手の体重やパワーが変われば必要な出力も変わります。
そのときにしか生まれない唯一のシチュエーションで技を成功させるためには、その状況に合わせてアジャストして技が決まる形に持っていく能力(アジャスト力)が必要なのです。
黒帯のトップ選手の技が決まる理由はこの「柔術の技の精度=アジャスト力」が異常に高いからだと私は推測しています。
実力差のある紫帯の選手と黒帯の選手で同じ技を打ち込みさせても多分そこまで大きな差は生まれないでしょう(①の部分では差がつかない)。でも実際のスパーで黒帯の選手が技を成功させるのはこの②のアジャスト力が高いからだと思います。
100本の打ち込みよりも1回のスパーでのアジャストのほうが成長につながることもあります。
アジャスト力はスパーをたくさんすることで大量のデータ収集をすることでしか身に付きません。だから時間がかかります。
※adjust(アジャスト):調整する、直す、順応する、合わせる
まとめ
①「自分の体」を正確に動かす技の精度
(自分の体をコントロールする力)
→技の形に入ってから「自分の体」を正確に動かしてタイトに技をきめる技術
②「相手の体」を正確に動かす技の精度
(相手の体をコントロールする力)
→アジャスト力(りょく)、技の形にもっていく技術。「相手の体」の動きに合わせる、調整する技術。
この二つがそろったときに高い技の精度になるのだと思います。
本記事の最初に書いた「技の精度」のイメージをもう一度見てみましょう。
正確性、力を効率よく伝える、タイト、極めが強い、何回やっても同じ動きができる、再現性が高い、タイミングが絶妙、力の方向が適切、重心をコントロールできている、、良いフォーム、技の形が正確、etc.
これらを達成するには①の自分の体を正確に動かす技術と②のアジャスト力の両方がないとダメです。
「①の方が大事!まずは自分の体!」「②の方が大事!技というのは相手ありきだから!」ということはなくどちらも大事です。ただ、一般的に①の自分の動きができていないと技がそもそも成り立ちません。
打ち込みでできない技がスパーでできるというのはほとんどないでしょう(打ち込みで相手が正確なリアクションができなくて技ができないことはある)
そして、②のアジャスト力を伸ばすほうが難しいです。相手の数だけのパターンに適応するアジャスト力が必要なので。しかもスパーリングの本数をたくさんこなさないと身に付かないので。
自分の技の精度を上げたいと考える人は「自分の体」の動きができていないのか、「相手の体」の動きにアジャストできていないのか、どちらなのかを考えると上達のきっかけになるかもしれません。
言語化するのが難しいテーマでしたが、自分なりに整理して文章にまとめられたので満足です。読んでいただきありがとうございました。
2025/2/10 アンディ
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