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柔術教則レビュー「【加古 拓渡】the competition 50/50 game(競技者のための50/50ガードゲーム)」(全文無料)
今日も今日とて柔術は楽しい。今日は教則レビュー。加古拓渡先生の50/50(フィフティー・フィフティー)の教則。クラスで習うことも少なく、日本語の教則もなく、普段の道場のスパーでもやる機会が少ないですが、競技者としては必修のガードです。
かなり長いですが・・・50/50のコンセプトをがっつりと書いた読み応えのある内容になったと思います。読んたら教則を見たくなる!たぶん!
また、今回の教則は道着での50/50。ヒールフックありのノーギの50/50とギありの50/50はほぼ別物なのでご注意を。
※2024年から、IBJJFのルールが改定したため、教則内のテクニックの一部が使いづらくなっています。新ルールの説明と戦略については最後の章にまとめましたのでご参考にどうぞ
選手の紹介
加古拓渡(かこたくと)
年齢37歳(2024年1月現在)
グラップリングシュートボクサーズ(GSB)所属
ブラジリアン柔術黒帯三段
主な戦績
IBJJFアジア選手権2013,2014アダルト黒帯ライトフェザー級優勝
JBJJF全日本選手権2015アダルト黒帯ライトフェザー級優勝
IBJJF世界選手権2016アダルト黒帯ライトフェザー級3位(繰り上げ)
IBJJFパンパシフィック選手権、ソウルインターナショナルオープン優勝2回ずつ
JBJJF全日本マスター選手権2022マスター1黒帯フェザー級優勝
JBJJF全日本マスター選手権2023マスター2黒帯フェザー級優勝
全日本もアジアもタイトルを取り、ワールドでも三位入賞。「世界選手権(ムンジアル、ワールド)を目指す選手としての引退」を公言されていますが、国内ではマスター、アダルトの両方で試合に出場し活躍されており、ワールドマスターにも参加されています。
”つくづくこの方は簡潔に説明するのがうまい。そう思いました。実は今作の撮影中に加古さんが、言い間違ったのはたったの1度。内容も説明も恐ろしいほど綺麗にまとまっており、整頓されており、聞き取りやすく、あとから編集が超楽でした。この人みたいな先生が学校にいたら私ももっと学校が好きになったのにな。なんて思いましたよ。私が見てきた中でも抜群に説明のうまい柔術の先生だと思います。”
※LET'S BJJさんのインタビューから抜粋
内容紹介 (フローチャート)
「コンセプト」(1-5)
「エントリー」(6-17)
「スイープ」(18-22)
「バックテイク」(23-25)
「50/50解除&パス」(26-30)
「サブミッション」(31-36)
イントロ
01 膝の向きについて
02 足の組み方
03 ゲームプラン
04 ベース
05 グリップ
入り方
06 DLR→Xガード→70/30→50/50
07 RDLR→KOD→50/50
08 シンtoシン or バタフライ→SLX→50/50
09 Kガード→50/50
10 ニーシールドハーフから逆脚への50/50
11 マトリックス→バックステップに対しての50/50
12 ニアパス→アップサイドダウンガードリテンションからの50/50
13 ニーオンパスに対して
14 脚の流し方
vs.レッグドラッグ
15 シットアップエスケープ→腰浮かせて→脚を滑り込ませる
16 レッグドラッグされた状態から足先のフックを使った50/50セットアップ
17 スタック式のレッグドラッグに対する50/50
スイープ
18 外側へのスイープ
19 内側へのスイープ
20 ロールオーバースイープ
21 逆脚パンツを掴んでの起き上がりスイープ
22 50/50のスイープに対して相手も起き上がってきた時の対処
バックテイク
23 50/50からのベイビーボロ
24 リバースウエイターバックテイク
25 リバースマトリックス
50/50の解除
26 50/50に対してのスタックしてのパスガード
27 50/50に対してのスパイダーカット→レッグドラッグ
28 50/50に対しての内回りでの解除
29 50/50に対しての外回りでの解除(膝刺し)
30 50/50に対しての外回りでの解除(フック)
サブミッション
31 50/50からのストレートフットロック
32 50/50からの逆足へのストレートフットロック
33 50/50(上)からの逆足へのトーホールド
34 50/50(下)からの逆足へのトーホールド①
35 50/50(下)からの逆足へのトーホールド②
36 50/50からニーバー
37 おわりに
番号は教則内のチャプター番号です。
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50/50のゆりかごから墓場まですべて網羅しています!充実の内容!この教則をマスターすれば50/50の攻防のほとんどの展開に対応できるでしょう。全く知らない技や展開は非常に怖いので競技者としてはこの教則は必修です。
最低限これだけは知っておいてほしい。トップの時の膝の向き
チャプター01で紹介していますが、膝が外に向いて返されそうなのに上体で無理に耐えようとすると膝の外側がぶっ壊れます。この記事の他の内容は忘れてもいいですが(読んでほしいけど)、この膝の向きの知識だけは覚えておきましょう。この耐え方をして膝をケガした人が結構います。マジで。
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50/50のコンセプト・メリット(なぜ50/50なのか)
コンセプト
教則を見て、自分が使っていった中で思う50/50のコンセプトは
「展開を限定する=実力差を埋める」
「戦略的に時間を味方にする」
です。基本的にフィジカルやテクニックなどの実力で劣っている場合、自由度が高い状況ほど差がつきます。逆に展開が限定されていると実力差が埋められます(例えば、色帯と黒帯でも限定スパーならいい勝負できる)。
50/50はパスされづらく固定力が高く、構造的にほかのガードへのトランジションもしづらいです。そしてスイープした後も50/50の形になるためスイープ合戦のシーソーゲームで時間を有効に使えます。スイープの後も同じ形になって展開を限定できるガードは50/50以外にありません。ハーフもスイープ後にハーフになることがありますが、そんなに固定力も防御力もないのでそこまで展開を限定できません。
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50/50のゲームプラン
これはチャプター3で詳しく説明されているのでそれを見てほしいのですが。簡単に言うと「自分が勝っている状態で50/50を使って時間を使う」ということです。負けているのに50/50で時間を使うのは有効ではありません。
ただし、50/50からのバックテイクやサブミッションがめちゃくちゃ得意という場合や、相手のトップアタックが強すぎてなんでもいいからとにかく捕まえたいという場合ではその限りではないです。
もう少し細かく言うと
①ベスト「自分が50/50の上でも下でも試合終了になったら勝ちの状況」
②セカンドベスト「試合終了時に上になっていたら自分が勝つ状況」
③NG「上になっても負けている状態」
・自分が下でポイントリードしている状態(アドバンでもペナルティでもポイントでもいい)から50/50に入れるのは有効です。(①に該当)
・自分が1P負けている状況、2P負けているがアドバン1取っている状況などで50/50に入れてスイープして上になったらリードする場合も50/50を使うのはアリです。(②に該当、その場合試合終了時に上をとったら勝ち)
・自分が3P以上負けている(もしくは2P負けていて相手にアドバンを取られている状態)状況で50/50に入れるのは得策ではありません。相手からしたらそのままシーソーゲームをすれば勝てるので。(③に該当)
これは覚えておこう。ストーリングのペナルティ(ルーチ)とアドバンテージ
・1度目→ペナルティ
・2度目-ペナルティ+相手にアドバン
・3度目-ペナルティ+相手に2P
・4度目-失格
注︓両競技者がストーリングによるペナルティを与えられ、それぞれ同時に3つ目のペナルティが与えられた場合、スタンドから試合を再開するものとする。
☆50/50はスイープはアドバンテージが入らない(50/50で始まって50/50で終わる攻防はアドバンテージが入らない)。50/50でもサブミッションのアドバンテージは入る。
これを知らずに固まってストーリング(ルーチ)を取られたら負けてしまうことがあります。逆を言えばストーリングを取られても負けない場面(残り30秒でペナルティが0で勝っているなど)ならストーリング覚悟で固めるのもアリです。
50/50は本来の柔術ではない?格闘技ではない?競技柔術に特化してるだけ?
たま~にこういうお考えの方もいるかもしれませんが、そんなことはないと思います。
まず格闘技がその競技のなかで勝てるように技術が進化するのは当然だし、あるべき形だと思います。ボクサーが「ローキック蹴られるからスタンスは狭く構えるべきだ」とか言わないでしょう。
そして、柔術の哲学の一つは「護身術」です。ガンガンアタックして最終的に一本を取って相手を破壊することだけがゴールではありません。50/50を使うことで相手の動きを制限(コントロール)してアタックさせないことは柔術の形として正しいものだと自分は考えます。実力が上の相手でも生き残れる50/50はとても「柔術的」なガードではないでしょうか。
メリット
・パスされづらい
・固定力がある
・返した後も同じ形になるため、シーソーゲームができる
・展開を限定できる
・時間を使える
・実力差を埋められる
・いろんな場面からエントリーできる
デメリット
・拡張性がない。他のガードに移行しづらい
向いている人
・戦略的に試合をする人
・フィジカルに自信がない人
・トップどころで試合をする人
向いていない人(使わなくてもいい人)
・ガードリテンションに圧倒的な自信がある人
・ガードのコントロールとアタックに自信がある人
・拡張性のある展開がやりたい人
・膝の外側をケガしている人
自分が使わなくとも相手が使ってくる可能性があるので知識としてこのガードを身に付けておくことは選手なら必須です。
有効な相手
・動く強烈なパスを持っている相手
・自分より実力(テクニック・フィジカル)が上の相手
・スタミナがあって動き続けられる相手(自分が動き続ける展開をされたらスタミナがついていけない相手)
相性のいいテクニック・合わせて覚えたい技
・エントリーとしてシングルレッグエックス、70/30、Kガード、レッグドラッグのカウンター、リバデラ&キスオブザドラゴン(内回りベリンボロ)
・足関全般(膝十字、トゥホールド、ストレートフットロック)
・バックテイクとしてベイビーボロ、リバースウェイターガードなど
使ってみた感想
実際にスパーで使うと確かに格上相手や階級上の相手でもパスを止められます。色帯だと展開を知らない人も多いのでけっこうコントロールできました。トップの50/50を知らない相手だと案外、簡単に解除できました
ただ、スパーでやると展開が限定されすぎてあまりいい練習にならないこともあったので、ある程度身に付けたらこればっかりやるのは練習としてはよくないと感じました。
試合でも何回かスイープを決めてトップキープして勝てたことがあります。その時はリテンションで50/50になりました。自分から作りにいかなくとも相手がやってきたり、流れでこの形になることはあるので試合に出るなら必須だなと感じました。
足関アリのノーギスパーだと内ヒールの取り合いになることが多くて道着ありの50/50とノーギの50/50は別物だと感じました。
ノーギでもヒールフックとトゥホールドがないアドバンスルール(紫以下)ならシーソーゲーム的に50/50を使えるかもしれません。
知らない人は膝が外に向いてるのに上体だけで耐えてきます(先ほど書いた「最低限これだけは知っておいてほしい。トップの時の膝の向き」)。試合だったら「ケガしないでくれ!」と心で唱えてスイープしましょう。道場内だったら無理にスイープしないほうがいいです。
また、白帯の人は内側の足にめっちゃストレートフットロック(アキレス腱固め)やってきます。極まらないですが、地味に痛い(笑)
個人的に好きなテクニック
・03ゲームプラン。これを知らないと知っているとでは試合で差がつくと思います。
・14,15,16のレッグドラッグからのエントリーと足の流し方は面白かったです。足の流し方はシングルレッグエックスなどからにも応用が効きます。けっこうアウトサイドアシ(内掛けで相手の足が外ヒールの位置、50/50の足を流す前の位置)になることは多かったのですが、そこからの足の流し方が細かくて分かりやすかったです。
・26-30の50/50の解除。どれも知らない解除法でした。たぶん実際にメインで使うのは限られてくると思いますが、いくつか試してしっくりくるのをやってみます。
・31-36の足関も面白いです。特に34,35の50/50(下)からのトゥホールドが好きです。一発逆転の武器としてもプレッシャーを与える戦略としても相手がやってくるディフェンスとしても知っておきたいテクニックです。いつか茶帯になりたいなあ。。。
まとめ
「the competition 50/50 game(競技者のための50/50ガードゲーム)」というタイトルの通り、競技柔術をやるものとしては必須の教則です。ここからトップどころで試合をする人はもちろん。色帯の人も同カテゴリ―の人と差をつけるために見た方が絶対いいです。
道場内のスパーで相手を圧倒したい人には向かないかもしれませんが、相手が使ってくることもあります。実力が下の相手に50/50でうまくやられることもあるかもしれません。
また、使い手も少なく、レッスンで教えてもらう機会も少ないガードで日本語の動画や教則も少ないです。
トップを目指す選手、色帯選手、マスター世代、あらゆる人にとってこちらの教則はおすすめです!
2024/1/27 アンディ
追伸。新ルールへの対応
教則内では相手のラペラを自分の足に巻き付けて固定するテクニックが紹介されていましたが、これが使いづらくなりました。
ルール改定後の日本語版の最新ルールブックがまだ出ていませんが(2024/1/27時点)まとめるとこんなかんじです。
・50/50の状態でラペラか帯を持ったら、持ってから20秒たったらストーリング(ルーチ)の反則。
・途中でラペラか帯を離してもカウントは継続(持ってから19秒で離してもルーチとられる。たぶん1秒持っただけでも20秒後にルーチ取られる)
・普通の襟の高い部分(いわゆるカラー)でもカウントスタートするのか、カウントは20秒後に連続で次の反則のカウントがスタートするのかは現時点では不明
戦略として
加古先生に聞いてみました。自分の推測も合わせてまとめました。
・今後戦略的に50/50からラペラをつかむことはほとんどない。(現時点ではこのルールが定着していないので今後20秒以内にうまく使う戦術が出るかもしれないが)
・「50/50での膠着をさせない」という意図の元ルール改定されていると思われるため、ラペラをもって固定するのは難しくなる。
・実際に持つのは教則内でも紹介されていた相手の膝の内側や相手の袖など。相手の足を抱えた手で自分の道着の襟を持つことはあるかも。相手の高い部分の襟は現時点ではストーリングの対象になるか不明(おそらくならないとは思うが・・・)なのでとりあえず持たない。
・「ラスト15秒、キープすれば勝ち」のような場面ならラペラを持つこともあるかも
・このルール改定で固定力が落ちたので、その分いろんな展開が増える。そうなるとこの教則で紹介されているいろんなテクニックを使う機会が増える
・今週行われたヨーロピアンの試合でもほとんどのトップ選手は、ラペラを取らなかった。
・もともと帯を持つことはほとんどないので、戦略的にはあまり関係ない。おそらく、帯もストーリングの対象にしたのはラペラだけをストーリングの対象にすると帯を使って固定しようと考える選手が現れると思ったためではないかと推測。
ルール改定補足 ストレートフットロックの内側への回転
50/50にはあまり関係ないですがせっかくなので。
※茶黒のみの改定
今までは「ストレートフットロックで内側に回る動き(相手の右足を自分の左脇で取ったら右に向いて回転する動き)は、相手が回るのについていくのはOKだが自分から回ると反則」でしたが、これからは下の選手が自分から回転しても問題なくなりました。なぜかこれは茶黒のみです。紫以下は反則です。
これはいい改定です。今までは相手が回っているのか下が自分から回しているのかレフェリーも判断が難しかったので。下としても相手が回るのを待たずに相手の膝が内に向いたらターンできるのでやりやすいです。
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