【備忘録】環境と持続経済の元年
日経電子版で円城塔さんの「長い豚の話」が連載開始された。
円城さんは、名作「ゴジラSP」のアニメ脚本、伊藤計劃御大との共著、意欲作Indifferense Engineの執筆など、常にとても高い関心を集めるサブカルとミリタリとアカデミックとクラシックの寵児だ。「長い豚の話」は温暖化問題によって北極圏に移動した人類の話であり、いかに現代において経済と環境問題がリンクした話題になっているかを示している。数十年前に小松左京が「日本沈没」を大地震を理由にして描かなければならなかったのに対し、今の時代は、じわじわ進む静的な理由ごときで全人類の移動という壮大なテーマを書くことができる。それだけひっ迫した現状になっている。
SDGsを守ることが経済効果を持ち、グリーンボンドが台頭し、紅海の争いでエネルギー価格は高騰しつつある。
最近エルンスト・シューマッハの「スモール・イズ・ビューティフル」を読み始めた。社会主義ではなく、合理的選択としての費用規模最小効率化主義を唱えた73年のこの論考は、現代のエネルギー問題と温暖化問題に直接問いをなげかけている。つまり、持続性をもった社会の実現のために当然資源はきちんと管理するべきだし、そこに技術発展は必要なく、必要最小限を順守することで半永久的な時間を稼げることが示唆されている。仏教のような自制と心の充実を最善にかかげた経済の必要性を説き、カーソンの解決法とはまったく別の次元で人類の未来を案じている。
すべては人間の心だ。
欧米が必要以上に新興国に焦らせた経済発展が、今中国インドを通じて拡大してきている。人間の復讐心は粘り強く、現在発達中の国は聞く耳を持たず、異次元の拡大を見せている。
この異次元の拡大がよくない。短いスパンで国政を行うせいで、本当なら数十年かけて平和をもたらすだけの人的物的資源をあっという間に消費しつくしてしまう。すべては自分の目の黒いうちに隣の国に打ち勝ち、世界を制覇するためだ。
だから国連は「持続可能な開発」を掲げている。経済的に不安定な発展途上国に無理な勝利を目指させるのではなく、単調に確実な発展を推し進めることによって、あと三十年後に大国家になるよう仕向けているのだ。そうすることで必ずいつの時代にも盟主が生まれ、世界は持続する。今ある国家をゆっくり没落させ、焦らずに次の後釜が成長できるようにしている。そうでなければ将来性ある途上国も今ある形だけの先進国に潰されてしまうからだ。
理性的であることと倫理的であることは矛盾せず、それは宗教と科学の共存かつ相互供給を意味する。アカデミックな成長論は、そのスパンを平均的なものにまで伸ばすことで一気に意味を持つ。その手伝いをするのは宗教である。