創業の想い 《前編》
&PUBLIC(アンドパブリック)という会社は、「コンサルティング」・「ワークショップ」・「デジタルツール」の3つの手法で、民間事業や行政施策の社会的インパクトの可視化と最大化を支える会社です。はじめまして、&PUBLICの共同代表の一人、桑原憂貴と申します。コミュニティから資金を集め、コミュニティとともに成長していく「コミュニティラウンド」と呼ばれる資金調達への挑戦をはじめたタイミングで、まずは私の視点から「創業の想い」をお話ししたいと思います。
もうひとつの物語
「大変申し訳ないんですが、やっぱり、この状況ですし、空間づくりのワークショップは中止したいと思うんです。」
緊急事態宣言がだされたことがダメ押しとなり、こんな内容の電話やメールが日々寄せられるようになり、進んでいた仕事の話がどんどん消えていった2020年の春のこと。
まだ&PUBLICを設立する前の僕は「空間をみんなでつくるワークショップ」の企画運営会社をやっていました。まずは&PUBLICの創業経緯を聞かれたときに避けては通れない話からはじめようと思います。それは今から11年前にはじまった「もう1つの物語」。
29歳のとき、東日本大震災をきっかけに「奇跡の一本松」で知られた岩手県陸前高田市に「紬(つむぎ)」という株式会社を設立しました。
人と人のつながりを豊かにすること
日本の森を豊かにすること
2つの想いをもった活動は、津波で流されてしまった集会所を、地域住民とともにセルフビルドで再建する。そんなワークショップからはじまりました。
被災地で見た「ともにつくることで人と人が繋がる光景」。それがどうしても忘れられず、「この光景を全国で見たい」という想いが強くなっていき、プロジェクト名だった「KUMIKIPROJECT(くみきぷろじぇくと)」に社名そのものを変更。DIY初心者でも一定のクオリティの空間を、短時間で、ともにつくれることをコンセプトに、国産材の家具や内装キットを開発し、被災地だけでなく、全国各地へと空間づくりワークショップを拡げていきました。
後に「TEDx」と呼ばれるイベントでプレゼンテーションしたときに、プロデューサーから「あなたたちのやっていることはDIYではなくて、DITだね」と言ってもらいました。ワークショップは「Let's do it together」を略した「DIT」というコンセプトに生まれ変わり、同じことをやりたい人にノウハウを伝えることで、秋田から山口まで全国各地でワークショップが取り組まれるようになりました。
問いとの出逢い
そんななかでワークショップができなくなったのが記憶に新しい「コロナ禍」。動いていたいくつかのプロジェクトは軒並み延期。やることを失った毎日で、増えたSNSを読む時間。そんななか「DITでつくりあげたお店が閉店したこと」を知ったんです。
ふと自分のなかに疑問が浮かびました。
「これまでの僕たちの事業は、どのくらい意味があったのだろうか」
人前でプレゼンテーションをするときは、常にソーシャルな表現を使ってきました。「日本の森を元気に」とか「ともにつくることで関係性を豊かに」とか。それは誰が聞いても反論のしにくい綺麗な言葉です。一方で、自分のなかでは見ないふりをしていたものが確実に存在していました。
「日本の森はどのくらい元気になったのか」
「人々の関係性はどのくらい豊かになったのか」
「豊かな関係性は暮らしをどのように支えられているのか」
国産杉を素材にし、地域の製材所で新たな商品を開発する。「意味のあること」と信じてはいた。けれど「ソーシャルです」と言いながらも、社会性はフワフワとした表面的な言葉でしか語れない。何1つ具体的には答えられない自分がいるんです。「売上だけを追求するわけではありません」と言っているわりには、社会性だっていまいちよくわからない。
「このままで本当にいいんだっけ」
そんな想いがゆっくり、ゆっくりと、膨らんでいきました。
答えを探していろいろな手法を学ぶなか、出逢った1つが「社会的インパクトマネジメント」という考え方でした。「事業や活動が社会や環境にどんな望ましい状態を生み出せているのか」を可視化する。そして、それが大きくなるように事業に取り組んでいくという考え方。
講座にでたり、専門家に質問をしながら方法論を学んだ後、机上の空論にならないようとにかく現場で実践しようと、1年間、お金はいただかずにいろいろなタイプの組織で「社会的インパクトの可視化」に挑戦させてもらう修行の時間を自分に課しました。
その過程は、「活動を大切だと思っているけど、その大切さをうまく伝えられていないんです」という人が、こんなにたくさんいるのかということに気づかせてくれる時間でもありました。
自分のことに置き換えて考えても、同じでした。例えば、床はりのキットに使用していた国産杉は柔らかくて傷がつきやすい。でも、その柔らさは、空気層がふんだんにあることから生まれていて、だからこそ足の温度が伝わりやすく、寒い冬には心地良さに変わってくれる。でも、案外知らないんですよね、そういうことって。
早くて・安くて・傷がつかない「便利なもの」を消費者が求めれば求めるほど、プラスチックには敵わない。だから、「消費者の価値観をどう転換させられるか」は事業上の大きな課題でした。ワークショップで楽しみながら素材に触れてもらい、暮らしへの取り入れ方を知ってもらうという手法をとったのはこんな理由からでした。
でも、ワークショップには最初から「ともにつくること」や「自然素材」が好きな人がくるわけです。一方で、本当に「素晴らしさを届けたかった相手」は、早くて安くて便利なものだけを求める人。だから「どうしたら、その人たちに価値を感じてもらえるだろう」ということに頭を悩ませてきたんです。
意味のあふれる世界へ
僕たちの世界には、「わかりにくく」、「言葉にしにくく」、「見えにくい」。だけど「大切だと心から感じられる取り組み」はたくさんある。
意味を知ってもらえたら、選択肢は増え、今よりほんの少しかもしれないけれど、楽しくて美しい世界が広がる。だからこそ伝える努力を諦めない。事業や活動がうみだす社会的インパクトというものを、言葉にして、見えるようにして、届けることで、今までは理解されなかった人々との間に橋をかけたい。
10年間。常に現場で手足を動かして事業をつくることに時間を費やしてきた自分だからこそ、できることはあるんじゃないか。そう思うようになりました。
それが「社会的インパクトの可視化と最大化を支える会社」をつくろうと決めた理由でした。
その後、それまで力をいれてきた「DITワークショップ事業」は事業譲渡し、長友まさ美・こくぼひろしの3人で共同創業して&PUBLICが生まれました。(共同代表でCHROを務める長友まさ美のエントリーノートもよければぜひご覧ください。)
わたしたちだからできること
こうして振り返ると、&PUBLICがサービスとして提供している全てのプログラムの根幹は、「自分たちの事業の意味を見えるようにしたい」と願ったことから始まった「自分たちのための取り組み」という部分に根っこがあります。
その根っこがあるからこそ、プロジェクトに向き合うとき、いつも僕自身が最も大切にしている問いがあります。それは「社会的インパクトの可視化への取り組み」を事業を前に進める力に繋げること。
どんなに社会における意味が見出せたとしても、事業が持続できなければ大切な意味すら手放すことになってしまう。だからこそ、社会的インパクトをうみだしつつも、そのインパクトデータを営業力や採用力、連携力、広報力といった各種の事業力に転換することで、ヒト・モノ・カネや関係性といったリソースを豊かにして、より社会的インパクトを最大化する。そこにアクセルが踏めると考えています。
すべての原点といえる東北の被災地ではじまった小さな事業会社。日々の取り組みのなかで、「社会におけるこの事業の意味を明確にしたい」という社会性の可視化に関する願いをもちながらも、食べていくためには事業性を追求する必要もありました。そんな「10年間のもがき」こそ、&PUBLICの大切なサービス開発の思想に繋がっています。
ここまで&PUBLICが始まった創業経緯や、提供している各種のプログラムの根幹にある思想に触れました。ですが、実はもう1つだけ「会社をはじめた理由」があるんです。民間企業の社会的インパクトを可視化し、最大化することを支えるだけではない想い。後編では、この「もう1つの理由」についてお伝えしたいと思います。
&PUBLIC(アンドパブリック)では、コミュニティから資金を集める「コミュニティラウンド」という資金調達に取り組んでいます。未上場の会社に小口の株式投資をインターネット上でできる仕組みです。金融のプロたちに&PUBLICの事業計画や財務状況、法務などの各種の観点を細かく審査・分析いただいています。&PUBLICは何をめざし、どう進むのか。外部の目線で紹介していますので、よろしければご覧ください。