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地方ゼネコンにおける、BIMマネージャーの理想と現実

こんにちは、ANDPAD ZEROの曽根勝です。
今回はBIMマネージャーがどのような職能なのかについて、Graphisoft社主催の「BIMマネージャープログラム」を、私自身が受講して学んだことをベースにまとめていきたいと思います。中小事業者、特に地方ゼネコンでのBIMマネージャーの在り方について、曽根勝目線で整理していきます。


BIMマネージャーとBIMコーディネーター


図:建設プロジェクトに置けるBIMマネージャー、コーディネーターの立ち位置

まずは役割の定義から整理していきます。BIMマネージャーとは、BIMプロジェクトにおける作業の最適化や、生産性向上を推進する役割を担う人材のことを指します。一方、BIMコーディネーターは、BIMマネージャーが統括するプロジェクトにおいて、サポートを行う役割となります。両者はBIMの普及に伴ってできた新しい役割で、主従が言葉から分かりづらいですが、主=BIMマネージャー、従=BIMコーディネーターとなるとまずは覚えておいていただけると良いかと思います。

フェーズごとの理想と現実

総論としては上記に整理した通りなのですが、各論としてはBIMマネージャーの在り方は企業によって異なります。設計会社やメーカー企業、総合建設会社などではBIMで扱う情報や設計・施工プロセスが異なるためです。
今回参加したBIMマネージャープログラムでは、様々な企業からBIM推進者が参加しており、企業によってBIMマネージャーの在り方、期待される役割が異なることを実感しました。この経験を踏まえたうえで、地方ゼネコンにおけるBIMマネージャーについて、導入フェーズとプロジェクト推進フェーズに分けて、理想と現実を整理していきます。

導入フェーズ

まず、導入の枠組みを整理します。主な項目としては、目標の設定、現状のITインフラ、成果物の定義、リスク管理、導入計画、コスト計画などが上げられます。初期のセットアップに沿ってプロジェクトを推進していくため、このフェーズの業務量はそれなりにあります。

一方、地方ゼネコンがBIMを導入する際は、BIM推進者が他業務と兼務していることが多いため、計画に時間を割けず、結果的に会社として、BIMマネージャーとしての役割を果たせないケースを目にしてきました。私個人としては、ここに一番の課題があるのではないかと考えています。BIMを導入したいという強い意思があっても、従来業務をこなしながらBIMを推進することは容易ではありません。
この課題を解決するためには、BIMに対する助成制度や、導入メリットをより明確にする必要があるのではないかと考えました。

一般的に、導入段階ではパイロットプロジェクトでBIMを導入し、関係者で協議をしながら自社での運用ルールを定めていくことが望ましいとされています。
しかしながら、パイロットプロジェクトを実施する際に、自社で熟練したBIMユーザーを確保できない場合、BIMコンサルタントやトレーニング会社に外注する必要があります。この段階で経営層が投資を断念するケースも少なくない状況です。

この「経営層に対してのBIMの価値訴求」が、複数の地方ゼネコン様とお話をしてきた中で、最も高いハードルだと感じています。また、BIMモデルを外注で作成できたとしても、オーサリングツールを操作できる人がいない状況で、従来業務に加えてBIMを扱うとなると、逆に負担となってしまい、
BIMの価値や自社への落とし込みができずにいるケースもよく耳にします。

上記コスト面の負担を軽減するために、国交省の建築BIM加速化事業の補助を利用するなどの選択肢はありますが、2024年から適用されるの残業規制や、人員不足が原因でなかなかBIMに手を出しずらい会社様も多いのが現状です。

プロジェクト推進フェーズ

このフェーズでは発注ルートが3パターン示されており、その中で情報伝達方法や、組織体制などの管理方法を定めることが重要です。

発注方式の違いに基づいて、理想と現実を整理していきます。

図:発注方式ごと業務フロー(日本では①または②の発注方式が主流)

上記の3パターンのうち、最もBIMの価値を発揮できるのは、①設計施工一貫方式です。設計フェーズから施工フェーズまで自社でデータ活用が可能なうえ、効果の出やすいプロジェクトを選定できるメリットがあるからです。

一方で②の設計施工分離方式のプロジェクトで施工のみ請負っている場合はBIM作成のメリットは少ないと言えます。大手総合建設会社の大規模プロジェクトでは施工段階からBIMモデルを作成しても施工計画や、詳細納まり検討などでメリットを得やすいですが、中小規模プロジェクトでは、コスト面での負担が大きくなかなか導入が進まないと思われます。

加えて、プロジェクト推進フェーズで問題となってくるのが、BIM活用の範囲が限定的となってしまい、社外共有する手段が限られて、有効活用が出来なくなる場合です。また、自社内で活用する際も、テンプレートが整備されておらず、属性情報が活用できない状況となってしまい、3Dモデリングとしての活用のみとなってしまう状態に陥りがちです。

そのような事態を避けるアプローチが実施設計フェーズから施工者が設計協力を行うこととなります。施工者視点での設計支援と実施設計モデルから施工モデルへの情報付与が実現します。しかし現状、実施設計フェーズから設計協力を実施した場合、無償の営業協力が多く、この部分でのルール整備も今後重要となっていきます。

BIMガイドラインの作成について

ここまで、導入フェーズとプロジェクト推進フェーズのお話をしてきましたが、最後にBIM導入で大事なことをお伝えしたいと思います。

BIMを社内で運用するにあっては、BIMガイドライン(マニュアル)の作成が最重要事項です。BIMガイドラインは、BIMの導入目的、BIM活用の目的と範囲、ワークフロー、データ管理、モデリングガイド、品質チェック、成果物、社内教育などの項目をまとめたBIM運用のバイブルのような書類です。作成することにより、社内のBIM運用が明文化され、属人的な管理手法を減らすことができ、モデルの品質担保、ワークフロー管理などが実施できるようになります。

始めからすべての項目を作成する必要はないですが、BIM導入目的やデータ管理方法などからまとめて、少しずつ作成することをおすすめします。

図:BIMガイドラインの作成例

理由は、BIMの導入目的と利用目的・範囲を定めることで、会社での活用方針が明確になり、データ管理におけるテンプレートや保管ルールを共通化できるからです。BIMガイドラインは、BIMコンサルタントなどに依頼して作成することも可能です。テンプレートについては、アドインツールやBIMソフトウエアの標準テンプレートを活用することにより作成可能ですので、パイロットプロジェクトでBIMのメリットを感じられたら作り始め、現場を経るごとにバージョンを更新していくような進め方が良いかもしれません。

最後に

BIMを導入から推進していくまでの理想と現実についてまとめました。BIMは作り込めば良いものではなく、どのような用途で利用するかでインプットする情報が変わります。自社でやりたいこと・活用できることを明確化することでより効果的に利用することができるので、まずはそこから考えてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。


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