
ここ数十年のGISの変化について解説してみた
お久しぶりです。ANDPAD ZERO 研究開発Gの菊野です。
今年初めての投稿となる本記事では、PLATEAUやAR技術の拡張により、人気が再上昇しているGISについてわかりやすく説明してみたいと思います。
GISはかなり広い意味で使われる言葉ですが、日常生活で使うツールで言えばGoogle Map、そして最近よくニュースなどで耳にする国交省のプロジェクトPLEATEUや数年前に大流行したPokemon GOについてもGISの活用事例の一つとしてあげられます。
従来は研究者や本当に一部の専門家しか使わなかったツールですが、ここ数十年で活用シーンや利用者が大きく変わりました。この記事ではGISの起源までさかのぼりGISの変化について解説できればと思います。
GISとは?
GIS(地理情報システム、Geographic Information System)とは、地図データや位置情報を使って、地理情報を管理・分析・視覚化する仕組みです。
例えば、天気予報で気温や降水量をマップで示すことや、日本の人口分布をマップで表示することがGISの典型的な活用事例です(画像1)。都道府県(位置情報)に紐づいた形で、人口という情報を色分けして図化した事例ですが地図上に人口比率が色分けされることでどこに人口が集中しているかが一目瞭然です。

ほかにも、都市計画、環境解析、交通渋滞情報などが代表的な活用事例となります。(画像2)このような可視化事例が、従来GISを使っていた方の活用イメージだとおもいます。

GISの誕生
つづいて、地図上での解析や分析がどのように始まったのかを見てみましょう。
GISの起源は、1963年にカナダ政府が『Canada Geographic Information System』として地図情報をデジタル化し、オープン化したことにさかのぼります。この取り組みは、GISが地図データの効率的な管理・活用を可能にする技術として注目されるきっかけとなりました。(参考:https://www.esri.com/ja-jp/what-is-gis/history-of-gis)
ここで重要なのはツールが先行して公開されたわけではなく、まずはそのツールで取り扱う地理情報を先行公開することでその情報を最大限に活用するための仕組みが誕生したということです。
今では日本でも国土地理院が地理情報の公開を行っております。GISの定義の際にも紹介した様々な活用ニーズを満たすために、地理情報が、「誰でも・どこでも・いつでもアクセスできる」ことがカナダの事例でも日本の事例でも重要となります。
GIS誕生後、1982年にArcGIS(旧名:ARC/INFO)がEsri社から誕生します。今でもGISソフトといえばArcGISと考える人は多いのではないでしょうか。ARC/INFOのソフトには、ベクトル情報(点、線、面)に対して属性情報を付与して管理するという機能があり、今でも地図情報のベクトルデータの仕組みについては大きく変わっていません。取り扱うデータ形式自体は同じですが、ウェブでの共有を実現する上でタイル化や高解像度画像の処理効率の向上などにより活用シーンが広がりました。GISの特徴と合わせて各機能の事例を紹介します。

GISの構成要素
GISとは主に6つの要素から構成されています。

⓪データ元
①地理DB(データベース)の管理
②2Dビジュアライゼーション
③3Dビジュアライゼーション
④解析や分析
⑤モデリング
ArcGISやQGISのように幅広く①~⑤まですべての機能が使えるソリューションや特定の要素に特化したツールなど様々なツールがあります。この場では、Web化・アプリ化の話を重点的に説明できればと思います。
構成要素⓪データ元
GISソフトを活用する際、GIS上に表示させる地図情報やそのもととなるデータをダウンロードするところから始まります。下図となる情報を、国土地理院からダウンロードする場合やZENRIN GISマップなどの高精度な地図を有料で購入する場合もあります。
それ以外にも、地理情報が無償でAPI経由でアクセスできるOpenStreetMapというライブラリも、GIS界隈では非常に有名です。
冒頭にも紹介したPokemon Goは、OpenStreetMapの地図をもとにARを実現したことで有名です。OpenStreetMapの2D地図情報をもとに高度情報でボリュームを立ち上げることで立体的に見せることでPokemon GoのようなARによる没入感を実現した先進的な事例と言えます。

構成要素①地理DBの管理機能
地理DB、いわゆる地図情報の管理は、GISに求められる重要な構成要素の一つとなります。
地図情報は、すべて一度にダウンロードしようとすると膨大なデータ量となるため、必要最低限の情報のみを取り扱う必要があります。下図となる地図情報においては、データを事前に分割し、分割されたデータをアクセスすることで、データの表示や編集を可能とします。
このグリッド上に分割させられたデータをタイルとよびます。(画像6)
例えば、国土地理院から直接タイルインデックスを指定し、必要な範囲の地図を取得することが可能です。また、タイルインデックスは国際基準の仕様なため、海外の情報提供元でもタイルインデックスに対応されている場合は同じように地図をダウンロードすることが可能です。さらに、タイルインデックスを使えば縮尺率も指定した形でデータがダウンロードすることができ、必要最低限の情報のみ地図情報を取得することが可能です。
例えば、OpenStreetMapのURLからタイルインデックスを指定して、日本国土の情報を取得してみましょう。(https://tile.openstreetmap.org/9/453/201.png)
タイルインデックスで取得した下図となる地図上に、スプレッドシートなどで管理された属性情報を重ね合わせることで、地図と周辺状況を表したピンを重ね合わせて表示することができます。

構成要素②2Dデータ
GISには、主に2Dと3Dデータがあり、ベクトルデータやラスターデータは2Dデータに該当します。
ベクトルデータは、線、点、面などの形状の情報を扱うことが可能となっており、この形状情報に合わせて属性情報を保持する仕組みです。例えば、等高線や敷地境界線を線で管理することにより、GISのモデリングツールなどで線情報を編集することが可能です。
ラスターデータは、画像データのことを指し、画像と併せて属性情報を保持する仕組みです。ベクトルデータと違い、画像データなので画像の一部を編集することはできず、データを入れ替えることで新しい情報に更新します。
ベクトルデータとラスターデータがあれば、GIS上でのほぼすべての2D情報の表現が可能となります。
ArcGISやQGISなどが普及し始めた20年前は、2Dのデータでの取り扱いが主流でした。2Dデータでは表現が難しそうな「高さ情報」についても、等高線や色を組み合わせることで、標高地図として表現していました。(画像7)
このように、表示させる情報や表現方法さえ考えれば、2Dの地図でも様々な情報を表現することが可能です。2Dデータを取り扱うGISのウェブアプリを検討しているのであればMapLibre(Mapboxからフォークして開発されたライブラリ)などがオープンソースで有名なライブラリとなります。2Dの地理情報を表現するための機能が充実しているため、ぜひ試してみてください。

構成要素③3Dデータ
近年では直接ビューワ上に3Dデータを表示させるGISツールが増えています。
3DデータをWeb上に表示させるためには、2Dデータを取り扱うときにもあったタイルに近しい考え方が求められます。それが「3Dタイル」という考え方です。
3Dタイルの考え方は非常にシンプルで、先ほどの2Dのタイル情報同様、グリッドで3Dの情報を事前に分割しておき、必要に応じてそのグリッド内の3D情報を出し入れするという仕組みになります。画像8では、2Dの地図上に、3Dタイル(赤い枠)を表示させているのがご覧いただけます。タイルごとにデータを管理することで、表示したい範囲を制御することができます。

GISの3Dデータの歴史は、2011年まで遡ります。
当年にGoogle Earthに3D表示機能が搭載されて以降、地図上に3Dデータを表示させるという機能が普及しました。このころは、近年のようにフォトグラメトリの技術や点群の技術が一般ユーザーに普及していなかったこともあり、モデリングツール(SketchUp)を無償で提供することで、地図の3D化を試みていました。一方、2017年にはGoogle EarthのAPIの提供は一度停止されています。3DGISビューワーの事業化が難しいことが、Google Earthの事例からも知ることができます。
そんなGoogle Earthの後継として現れたのがCesiumです。3Dデータを取り扱うGISのウェブアプリを検討しているのであれば、Cesiumがおすすめです。
ライブラリ自体はオープンソースとなっており、拡張機能やGISツールの開発プロトタイプは有償となります。Cesiumでは、⓪元データの提供と⑤モデリング以外の機能を提供しており、その中でも設計や施工管理に特化した3Dデータの断面解析機能や自動運転のシミュレーションに特化した可視化範囲の分析機能なども提供されています。CesiumのSandcastleを使えば、ブラウザ上で簡単にCesiumの機能を試せるので、ぜひ試してみてください。(Cesiumサンプルページはこちら)
構成要素④解析データ
2Dデータや3Dデータ以外にも、事前に解析させたデータなどを地図上に重ね合わせて表示させることで、交通量のマップや天気予報の地図、降水量マップなど様々な用途に活用することが可能となります。
直接GIS上で解析を行う仕組みやスプレッドシート形式で解析結果をGISに読み込むことで、解析データを表示させることが可能です。
構成要素⑤モデリング
最後に、ベクトルデータの編集についても簡単に触れたいと思います。
下図となる地図情報を編集する際は、ArcGISやQGISなどのGIS用のモデリングツールを活用します。モデリングツール上で、線や点の位置を直接編集することで、地図を最新の状態に更新します。
例えば、境界線が重要となる地形情報、敷地境界線、道路情報などはベクトルデータとして管理されることが多いため、ArcGISやQGISなどのモデリングツールでデータ管理を行うことが一般的です。
ですが地図の管理が目的ではなく、地図上に表示する情報の管理が目的となる場合は、モデリングツールは必須ではありません。例えば、食べログにある周辺のレストラン位置をピンで表示させることのみが目的となる場合、地図を編集して管理することは不要で、モデリングをせずとも、地図情報に必要な情報を付加することは可能となります。。地図情報については新しいデータをダウンロードして更新するだけで、常に下図となる地図情報を最新の状態に保つことが可能です。
GISのこれから
最後に、GIS3Dの今後について簡単に触れたいと思います。
ここまでオープンソース化の重要性について説明させていただきましたが、Cesiumが2024年にBentley Systemsという大手企業(デジタルツインのソリューションを提供するアメリカの会社)に買収したことが大きく取り上げられました。そのため、CesiumはGIS3Dのハブ的な存在だったのが、今度どのように進化していくかは非常に見ものです。すでにGoogleのPhotorealistic 3D API(フォトグラメトリの技術をもとにできた3Dデータセット)との連携や建設BIMデータ向けの機能拡張のロードマップを公開しており、より建設現場で使う上での最適なライブラリになっていくことを期待します。
アンドパッドとしてもGISツールとの連携進めつつ、社会基盤への貢献を行えればと思っております。
最後までお読みいただきありがとうございました。
