「僕らはメタバースに夢を見る」 イベントレポート (NTT OPEN HUB主催)
こんにちは、ANDPAD ZEROの平塚です。
前回に続き、今回もイベントレポートをお届けします。
今回のテーマは"メタバース"です。
メタバースとは、「メタ(超)」と「ユニバース(宇宙)」からできた造語で、コンピュータの中に構築されたバーチャルな3D空間やそれに関連するサービスを指します。一見すると、建築や建設とは関係ないもののように感じるかもしれませんが、前回レポートでとりあげた「BIM」とも、バーチャルな3D空間であるという点で通ずるものがあります。
実際に建築業界では、BIMとメタバースの類似性に着目し、建築BIMデータをメタバースの研究材料として活用する取り組みを行っている企業もあるようです。この二つの掛け合わせの可能性について勉強したく、イベントに参加しました。
今回のイベントは、そんな"メタバース"について、NTT OPEN HUBが主催した、「僕らはメタバースに夢を見る」についてご紹介します。
細田監督のご紹介
今回の登壇者は、有名な映画監督の細田守さんでした。
細田監督は、「デジモンアドベンチャー」、「時をかける少女」、「オオカミ子供の雨と雪」、「サマーウォーズ」、「竜とそばかすの姫」など数多くの作品を手がけている方で、みなさんもいくつか観られたことがあるのではないでしょうか。
数ある作品のうち、特に「デジモンアドベンチャー」、「サマーウォーズ」、「竜とそばかすの姫」は、時代と共に移り行く「インターネットの世界」と「現実」、この二つの世界の間で物語りが繰り広げられます。
特に最新作の「竜とそばかすの姫」では、インターネットへの向き合い方そのものが変わっています。
この作品では、インターネット上に、全人口の50億人が集う超巨大な仮想世界<U>が存在します。人々は、自身の生態情報を反映したアバターを通して、仮想世界に参加することができます。この仮想世界では、インターネット空間が「一つの世界」として表現されていて、これまでの作中のインターネットが「技術」や「道具」であるという位置付けから大きく発展したものとして扱われています。
それでは、インターネットの世界を映画で表現している細田守監督がメタバースをどう観ているのか、ぜひご紹介したいと思います。
イベントの概要
今回のイベント主催であるNTT OPEN HUBとは、NTTが運営する団体のひとつで、OPEN HUBにジョインしているメンバーたちと様々な専門分野で働いている方とが一体となって社会の課題に向き合い、解決へ取り組むプロジェクトを行っているようです。
現代社会において様々な課題があるため、プロジェクトも複数あります。その1つとしてメタバースが取り上げられており、数回に渡ってメタバースについてのイベントが企画されています。メタバースの一連のイベントのうち、第1回目として2022年10月6日に今回のトークセッションが開催されました。
トークセッションの事前の聴講応募は、なんと5000人以上だったとのこと。”メタバース”や細田監督のご登壇に対する関心の高さも伺えます。
今回のイベントでは、トークセッションに先立ち、オンライン聴講者のために複数のバーチャル空間が用意されました。私もアバターを移動させてバーチャル空間へ入ると、細田守監督の過去作品の紹介動画などを見ることができました。
いよいよ、本セッションである『僕らはメタバースに夢を見る』のために用意されたバーチャル空間に入っていきます。
トークセッション『僕らはメタバースに夢を見る』
今回のトークセッションは
・細田守監督
・NTT QONOQ(コノキュー) 取締役 岩村幹生氏
・NTTコミュニケーション × OPEN HUB代表 戸松正剛氏
の三名でトークセッションが行われました。
戸松氏による「『メタバース』というこのワードを聞いてみなさんは何を思い浮かべますか?」という問いかけからセッションがスタートしました。
NTTによる事前アンケートによると、"メタバース"を知っている人は7割と多い一方、実際に使っている人は2割にも満たないそうです。
また、アンケートのうち、定性的な回答部分をNTTの言語処理AI「KOTOHA」に分析させたところ、”メタバース”という言葉が踊っていることに次いで、「ビジネス」、「可能性」という言葉が頻度高く現れていたとのこと。
戸松氏は、この分析結果を受けて、
・"メタバース"にはあらゆる可能性があることは確か。実際に多くの人がクリエイティブに研究等を進めている。
・「ビジネス」「可能性」という言葉が顕著に表れているが、初めから”メタバース”を「ビジネスの可能性」の枠の中で考えてしまうのは悲しくはないだろうか。
・"メタバース"を体験する人の可能性や希望について考えよう。
・まだ"メタバース"の定義が曖昧だからこそ"メタバース"についてもっと夢を語ろう。
といった想いから今回のイベントタイトルを『僕らはメタバースに夢を見る』と設定されたそうです。
今回のセッションのうち、印象に残った3つのテーマについてご紹介します。
1.物語とテクノロジー
2.複数の自分を持つこと
3.現実世界に次ぐ2つ目の世界"メタバース"
物語とテクノロジー
"メタバース"という言葉がSF小説「スノウ・クラッシュ」に登場してくる仮想空間から由来しているように、「物語」と「テクノロジー」には深い関係があるようです。登壇者たちは、それぞれのバックグラウンドを踏まえ、「物語」と「テクノロジー」の関連について語ります。
戸松氏はテクノロジーの起源についてこう語ります。
「物語とテクノロジーは切っても切れない関係があるように思います。ゼロからテクノロジーが生まれるのではなく、SFのような近未来の物語(フィクション)から着想を得て新しいテクノロジーが生まれているのではないでしょうか。」
さらに、"物語から観たテクノロジー"と"テクノロジーから観た物語"がお互いにどう作用しているかについて、細田監督と岩村氏がそれぞれの視点で語っています。
まず、"物語から観たテクノロジー"の視点については、物語の作り手である、細田監督が語ります。「人は未来を想像したい生き物です。物語(フィクション)として作ることで、この先の未来に可能性があると考えることができます。そしてそれは時代が進むにつれて現実化していくのではないでしょうか。つまり、未来を想像するために物語(フィクション)を作っているのではないかと思っています。」
これを受け、「テクノロジーから観た物語」の視点については、テクノロジーの分野で新規事業を起こした岩村氏が答えています。
「物語は、テクノロジー開発のインスピレーションになります。物語の世界を実現させようという原動力にもなります。ただし、テクノロジーとして開発し実現するためには、起こりうる社会問題を解決していく必要もあります。テクノロジーはフィクションの中にある光と闇(課題)に向き合いながら現実に落とし込んでいく過程が必要になってくるのだと思います。」
戸松氏は二人の答えから、
「やはり物語(フィクション)とテクノロジーは引き合う関係であり、物語から着想を得て、未来のテクノロジーを実現しようと開発が進んでいるようですね。物語を見る際にも、テクノロジーとの関係性を考えながら見ると新たな視点が加わり面白いかもしれません。」
と話します。
複数の人間を持つこと
2つ目のテーマは、「複数の人間を持つこと」。
戸松氏は
「バーチャルな空間で自分のアバターが存在しはじめると、複数の人格・複数の人間性を持つようになるということでもあります。」
と切り出します。
これに対して細田監督は、次のように語ります。
「バーチャルな世界で複数の自分が生まれることについて、『本当の自分はどこにあるのか?』『人間性が失われるのでは?』といった指摘や議論はよくあります。
しかしながら、現実の世界を見てみると、例えば、自分自身を職場と家庭等使い分けていたりすることはよくあります。関わる世界が増えるごとに、異なる自分が生まれているということでもあります。
まだ出会っていない世界がもしあれば、これから自分自身の気づいていない自分と出会うこともあるかもしれません。新たな才能の発見の可能性もあるのではないでしょうか。
複数の人間を持つことは、人間性が失われるのではなく、むしろ、人間性を広げるものでなければならないと思います。」
これに対して、岩村氏は
「細田監督のおっしゃるとおり、我々はリアルな世界でも、コミュニティ毎の文脈に合わせて、複数の自分を切り替えて演技しているようなものだと思います。
リアルな世界では、外見や動きなど目に見える要素がついてまわってしまっているとも感じています。それに対し、バーチャルな世界では、外見や動きを切り離して、自分の得意な要素のみを持ち込んでみることもできるはず。
例えば歌がうまい人は、歌だけを武器にして世界に挑戦することもできるようになっています。」
と話しました。
このテーマの最後に細田監督は、
「メタバースというもう一つの世界ができた時、現実世界とメタバースの両方の世界にそれぞれに新たな価値が生まれ、その価値が相互に作用する環境でなければなりません。ただの現実をミラーするだけの世界ではまったく意味がないのです。
『竜とそばかすの姫』では、主人公がリアルの世界では輝けず、バーチャルの世界で才能を発揮します。さらに、バーチャルの世界での輝きをもって、リアルの世界でも輝きだす…というところまで描いています。
このように、バーチャルの世界で、もし新しい自分と出会ったのであれば、それをリアルの世界にも価値を作用させるということが重要だと思っています。」
と話していました。
現実世界に次ぐ二つ目の世界"メタバース"
最後のテーマは、現実世界に次ぐ二つ目の世界"メタバース"。
岩村氏と細田監督が本セッションの結びに、"メタバース"という二つ目の世界ができた際の、「未来に向かってできることはなにか」について話します。
岩村氏は、1つ目のテーマ「テクノロジーと物語」も踏まえながら
「現実的にはどういうロードマップを描けるかがポイントであると思います。経済合理性を担保しながらビジョンをもって進めていきたいと考えています。
その際には、細田監督をはじめ、イマジネーション、インスピレーションを与え続けてくださるクリエイターの方々の存在も重要であり、世の中にフィクションを発信し続けていただきたいです。」
と話します。
最後に、細田監督は
「物語の中にどういう世界をつくろうかを考える際には、常にワクワク感や高揚感を大切にしています。これは20年前から一貫していて、インターネット・バーチャルの世界の希望を描きたいと考えています。
若い世代の方も、インターネットの中に希望・可能性を見出したいはずである、とも思っています。
そういう若い世代にとって、バーチャルな世界が、夢を挫くものではなく、自分の可能性・価値・才能の再構築、そういう希望を持ってもらえるものであってほしいと思いながら、期待をこめてフィクションの作品を作っています。」
と語り、未来・若者への期待を込めたメッセージで本セッションは締めくくられました。
感想
トークセッションの内容は以上になります。いかがでしたでしょうか。今回のセッションを通して細田監督の作品の新たな見方ができるようになった方も多いはずです。
私自身、セッションを聴講したあとに、「サマーウォーズ」を鑑賞してみたのですが、バーチャル空間の広がりや個人とアバターの関係性など、解像度高く、気づきも多くありました。セッション中に細田監督が語った「自身のアイデンティティの再構築」といったあたりも、腑に落ちました。
細田監督がセッションの結びに話された「若者に向けた希望」についても、大変印象的でした。メタバースというもう一つの世界が、個人の新たな才能を発揮する場となり、さらに現実の世界に対しても良い価値が生まれ、互いに良い作用を生み出す事ができるようになる…そんな未来がすぐそこまできているのかもしれません。
また、メタバースが「若者にとっての未来」であると同時に、「建築・建設業界にとっての未来」でもあるのではと思います。
メタバースとBIMとでは、同じ3Dの仮想空間ではあるものの、BIMとどんな掛け合わせが可能なのか、まだまだ不明確な点が多いのは確かです。一方で、その分さまざまな可能性を秘めているともいえるのではないでしょうか。
今回のレポートは以上になります。
今後も、様々なイベントをレポートしていければと思っています。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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