天空の神が由来?経産省が進めるデータ連携基盤「ウラノス・エコシステム」とは?
こんにちは、ANDPAD ZEROの髙橋です。
実は編集長としてANDPAD ZEROのnote運営を行っている私ですが、これまでを振り返ってみると、様々なテーマについて、これまで40件もの投稿を継続することができていること、大変嬉しく思っております。
ひとえに読者の皆様のおかげだと実感しており、改めて感謝申し上げます。
これまで扱ってきたテーマを振り返ってみると、BIM、3Dスキャン、メタバース、最近だと、RoomPlan、Gaussian SplattingやビルOSなど、いずれも、「建築・建設に関するデータをいかに上手く取り扱うか」ということが重要なテーマのひとつだったと思います。
今回のnoteでは、世の中にあふれるデータの扱い方、活用方法、また、データによるイノベーションの創出などに注目した取り組みとして「ウラノス・エコシステム」というテーマでお話したいと思います。
おそらく「初耳…」と思われる方も多いと思いますが、それもそのはず、まだ歴史がすごく浅い概念なのです。しかしながら、データ社会の実現という観点では非常に重要で、今後の日本、世界のスタンダードになりうるテーマとも言えます。ぜひ最後まで読んでいただければ嬉しいです!
ウラノス・エコシステムとは?
「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」は、企業や業界、さらには国境を跨ぐ横断的なデータ共有やシステム連携の仕組みの構築を目指す取り組みです。また、こうした取組のためのデータ連携基盤やシステム連携基盤のこと、さらに、取り組みによる社会課題の解決やイノベーションによる経済成長・Society5.0の実現のことを幅広く指す場合もあります。
さきほど「歴史が浅い」と言いましたが、具体的には、2023年4月に経済産業省が発表したもので、まだ1年ちょっとの取組みです。
「ウラノス・エコシステム」の推進のためのには産学官が協力して取り組む必要があり、経済産業省のほか、関係そ省庁や独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など様々なステークホルダーが参画していることも特徴のひとつです。
ウラノスエコシステムを具体例とともに紐解く
ウラノス・エコシステムの概要図を見てみると、横軸には「業界・分野」として「政府、防災、教育、医療…自動車、航空、海運…」といったカテゴリがあり、縦軸には「経済活動」として「金流・商流」「物流・人流」といったカテゴリの記載があることがわかると思います。
大まかなイメージで捉えると、現在は、「トラック物流(自動車×物流)」や「空輸貨物(航空×物流)」といったように、業界や業種などが、それぞれ自前でシステムを1から作る、ということが一般的ですが、「ウラノス・エコシステム」のもとでは、様々な業界・分野、経済活動が横断的にデータ連携することを念頭に描かれています。いわば、大きなプラットフォームを敷くことで、そこに関わるデータを包括的に取り扱うような社会を目指している…と言えるでしょうか。
さて、ウラノス・エコシステムの概念図には非常に多くの業界・分野・経済活動の範囲が示されていますが、この約1年の間、まず先行して2つのプロジェクトが進んでいます。
【人流・物流DX】「4次元時空間情報基盤」の構築に関する取組
【商流・金流DX】「サプライチェーンデータ連携基盤」の構築に関する取組
今後こうしたプロジェクトはどんどんと増えていくと予想されますが、まずは先行するプロジェクトがどんなものなのか、イメージを掴んでいただけたらと思います。
【人流・物流DX】「4次元時空間情報基盤」の構築に関する取組
こちらは、人手不足に伴う人流・物流の危機、災害激甚化等の社会課題の解決や新産業の発展を念頭に取り組まれているプロジェクトです。
人や物の移動に関するニーズに応じて、「自動運転車」や「ドローン」、「サービスロボット」等の自律移動ロボットが行き交い、人や物の流れが最適化する仕組みの構築はイメージが湧きやすいのではないでしょうか。
こうしたモビリティが安全かつ経済的に運行できるためには、人・物の流れに関する「仕組み」の構築が必要とのこと。このプロジェクトでは、「運行環境を仮想空間に再現するためのデジタルツイン」として「4次元時空間情報基盤」の構築に関する取組が進められています。
先行して取り組まれているプロジェクトには「空間ID」という概念があります。
空間情報をX軸・Y軸・Z軸という位置座標で示すのではなく、3次元の立方体として区切って連番をふることで、空間情報をID化するという概念です。これにより、空間情報の伝達・相互接続性があがるといいます。
例えばドローンが空を飛ぶ際も、X軸・Y軸・Z軸などをバラバラに管理するのではなく、「次に飛んでいいのは、このIDの立方体だ」という情報にすることで、情報を簡素化する目的があったり、逆に、「このIDの立方体は飛ばないように」という信号伝達なども容易にできると言います。
さらには屋外のみならず、屋内空間(例:自動走行の清掃ロボット)や地上空間(例:自動車の自動運転)でも活用が進むのではないでしょうか。
【商流・金流DX】「サプライチェーンデータ連携基盤」の構築に関する取組
続いて、こちらは、商流・金流に関する社会課題、たとえば、カーボンニュートラルや経済安全保障、廃棄ロス削減、トレーサビリティ確保等といった、グローバルなサプライチェーン全体の強靱化・最適化する必要がある課題の解決を念頭に取り組まれているプロジェクトです。
わたしたちの生活にも関わる、契約から決済にわたる取引全体について、デジタル化したりアーキテクチャに沿ったデータ連携を可能にしたりすることで、大企業から中小企業、ベンチャー企業を含めた様々なステークホルダーが活躍して産業が発展する社会の実現も可能となるといいます。
このプロジェクトは、自動車・蓄電池を例に取り組みが進められています。
例えば、自動車をイメージしてみると、多くの部品・部材があることが想像できますが、その調達方法は多岐にわたります。発注者目線では複数の仕入れ先からの調達があったり、仕入れ元目線では複数の発注元への仕入れがあったり。仕入れ元は同じでも異なる工場からの納品がある‥など。
仮に自動車一台あたりの二酸化炭素排出量を調査したいとなった際、サプライチェーン全体での各ステークホルダー(例:発注者・仕入れ元・工場)が、二酸化炭素に関わるデータ(カーボンフットプリント(CFP)値)をなるべく共通した形で取り扱えたら計算がしやすいはずです。こうした世の中を想定して、官民連携でのデジタルプラットフォームや共通のデータ連携の仕組みが意味を成してくる、という訳です。
またCFPと同様に取り組まれている「デューデリジェンス(DD)」という点にも触れておきたいところです。これは、欧米で先行して取り組まれている人権に関する概念で、ざっくりいうと「自社・グループ会社及びサプライチェーン全体での事業活動が人権に負の影響を与えているか、それに対応できているか」の徹底が必要という国際スタンダードです。今後も日本が海外との連携を深めていくためには、こうした生産活動に関わる国際スタンダードにしっかり対応していくことが不可欠でしょう。
建設・建築にどう活用できるか‥?
さて、ここまで、2つの先行プロジェクトを紹介しましたが、建設・建築にどう活用できるのか? ということを今から考えておくのは非常に重要だと思っています。
例えば、「4次元時空間情報基盤」であれば
空間IDを用いたドローン飛行による橋梁点検・建築物の点検
空間IDを用いた地下構造物の埋設状況管理
空間IDをもとに走行する建設現場ロボットの走行・自動化
など。
また、「サプライチェーンデータ連携基盤」であれば、
建築物1棟あたりの二酸化炭素排出量の計算明示によるエコ視点での販促
プライム上場のためのハウスメーカーあたりの二酸化炭素排出量の計算
輸入木材のデューデリジェンスの評価の確認
日本からのプレハブ輸出のための国内デューデリジェンス評価の徹底
など、建設や建築に浸透してくる可能性は非常に高いと思っています。
どれも、まだまだ実用化レベルではないものも多いですが、意外と想像に難くないものではないでしょうか。
これまでnoteで扱ってきたデータ利活用、スマートビル、スマートシティ、ビルOS、BIMといったテーマとも、今後密接に関わる話題だということもイメージいただけたら嬉しいです。
おわりに(おまけ:ウラノスとガイアの出会い)
ウラノスエコシステム、というやや仰々しい名前の由来は、ギリシャ神話の天空の神「ウラノス」にあります。産官学のプレイヤーがともに、全体がシステム連携して新たな価値を創出していくという観点で名づけられたそうです。
先行して欧州域内で進められているデータ共有・連携のための連携基盤には「ガイア・エックス」という名がつけられています。調べてみたところ、EU2020の「よくある質問」のページにこんな記述が。
なんともドラマチックな名前の由来ですよね。
ウラノスエコシステムの発展に向けては、国際データとの共有も必須要素であることは間違いありません。今後、欧州のガイア・エックスとの連携も期待されます。ウラノスとガイアが出会うことで、地球規模のデータ連携やイノベーションが起こることに期待したいですね。
今後も建築や建設に関わる最新のテクノロジーやイノベーションについても取り上げていきますので、引き続きANDPAD ZERO noteをよろしくお願いいたします!