建築基準法における完了検査はリモートでどう変わるのか
ANDPAD ZEROの佐々木です。
今年の夏も酷暑でしたが、少しずつ秋へと切り替わり、過ごしやすくなってきましたね。
今回のnoteでは、デジタル庁が推進しているアナログ規制の見直し、それによるデジタル化の進展が進みつつある中、アナログ規制の項目として挙げられている「建築基準法における完了検査のリモート化」についてまとめていきたいと思います。デジタル化の進展に伴い、完了検査がどのように変わり、効率化が進んでいくのか、一緒に考えてみましょう。
建築基準法の完了検査
まず、完了検査の流れと目的について簡単におさらいします。
建築基準法では、建築物を新築・改築・大規模修繕・大規模模様替えする際には、確認申請を提出する必要があります。
確認申請は、建設地の特定行政庁もしくは、そのエリアを担当する民間の指定確認検査機関に提出し、建築基準法に適合しているかの審査を受けます。その後、「確認済証」が交付され、建築物の着工が可能となります。
工事が進み、建物が完成した際には、再度、同様に特定行政庁または民間の指定確認検査機関に完了検査申請を提出します。完了検査が行われ、「検査済証」が交付されることで、建築物を使用(引っ越しや店舗の営業など)が可能になります。
このため、新築などの建築物は必ず完了検査を受け、適合する必要があります。
完了検査項目
では、具体的にどのような項目が検査されるのでしょうか。
今回は、国土交通省の運用指針の適用範囲でかつ一番件数の多い住宅にフォーカスしたいと思います。
一般的に、住宅用の検査項目としては、以下のような検査が実施されています。開口部(玄関や窓)の位置、階段の寸法が適切かどうか、換気・排煙設備は正しく設置できているか、など建築基準法に基づき様々な項目を検査する必要があります。
※検査項目や検査方法については「建築構造審査・検査要領‐実務編 検査マニュアル‐」を参考にしています。
これらの検査項目は、住宅において非常に重要なチェックポイントとなります。
では、実際にこれらの検査がどれほどの件数で実施されているのか、数字も見てみましょう。
完了検査件数の推移
令和元年度の完了検査数は約56万件となっており、グラフを見ると、平成12年から民間の指定確認検査機関が完了検査を行う割合が増えており、令和元年には約90%に達しています。
一方で、年間の完了検査数は50万~60万件で推移しており、全国で単純計算すると、完了検査の立会いが一日に約2300件行われていることになります。さらに、中間検査が必要な地域や、住宅性能評価による検査も加わり、建物が完成するまでにさまざまな検査が実施されています。
こうした膨大な件数を効率的に処理するためには、何らかの改善が必要です。そこで注目されているのが、リモート検査の導入です。
リモート検査の導入
リモート検査実現の背景
ここからは、リモート検査についてお話していきたいと思います。
まずはリモート検査の背景とその重要性についてお話させてください。
これまでの検査は、受検側・検査側の双方が現地に立会い、検査を実施してきました。
一方で、昨今の建設業界の人手不足から、この検査をどう効率化するかということがひとつの大きな課題となっています。
検査を実施するにあたり、受検側の立会者の要件として、「検査対象建築物等の工事監理者、施工管理者その他検査当日に検査者からの施工の状況に関する質疑等に適切に応答できる立場の者」という条件があります。
また、検査側の要件として、完了検査等を実施する者は「建築主事等又はその委任を受けた当該市町村若しくは都道府県の職員又は建築基準法第 77 条の 24 に規定する確認検査員若しくは副確認検査員)」という条件があります。
簡単に言うと、受検者側は検査対象建築物の施工状況を説明できる者であり、検査側は資格を持つ検査員でなければならないということです。
また、検査員の資格保持者の年齢分布として50代~60代が過半以上を占めており、移動に伴う疲労による生産性の低下や、限られた人数の立会者や検査員が、現地まで移動して検査を行うことが、社会全体の生産性を妨げる要因となっていると考えられています。
そこで、国土交通省は、2022年5月にリモート検査ガイドラインを公表し、受検者側のリモート検査の実施を促し、2024年4月に検査側のリモート検査についてガイドラインを出すことで、人手不足を解消し生産性を高め所得の向上に繋げることを社会全体で解決を目指しています。
リモート検査のパターン
国土交通省は、リモート検査の実施方法として以下の3パターンを提示しています。
現在、受検側と検査側がそれぞれ実地検証を行っている段階です。今後、双方がリモート検査を実施することで、相乗的な効果が期待されます。
先述した完了検査項目を一般的な住宅では1件あたり1人の検査員が、1時間程度で実施しており、検査のために現場への移動時間にも毎回往復1~2時間要しています。
1~2時間の往復の移動時間も、塵も積もれば山となります。
仮に1現場あたりにかかる往復90分かかるとすると、検査側だけをみても、年間の総移動時間は、90分×50万件=4500万分=75万時間=31,250日分。1人の年間労働時間を1,920時間とすると、390人分の年間労働時間を移動時間として使っていることになります。
この移動時間がリモート検査で削減されると勘案すると、大きなインパクトになりますね。
現状、リモート検査の制度は整いつつあるものの、実際の現場では受検側と検査側が各々で実地検証などを行っている段階と言えます。
今後、双方がリモート検査を実施できることで相乗的に効果がでてくることが考えられます。
リモート検査のメリット・デメリットと課題
実地検証が進む中で、受検側と検査側がそれぞれリモート検査を実施することで、双方の負担が軽減され、検査業務の効率化が期待されています。
他方、リモート検査を導入するための準備や導入時の課題などにも注意しなければなりません。
想定されるメリット・デメリットは以下のような点だと考えています。
メリット:
現場への移動時間が短縮され、その他業務負荷も軽減される。
限られた人員で効率的に検査が進められる。
デメリット:
リモート検査の準備には、専用のハードウェアやソフトウェア、そして事前のトレーニングが必要。
動画通話だけでは検査時間が長くなる可能性がある。
必要な準備としては、動画撮影カメラ、通信端末、インターネット回線、動画通信用ソフトウェアといった環境の整備に加え、受検側と検査側のリモート検査方法の基本合意も重要になると思います。
リモート検査を実施することで、現地に行かなくても検査への立会いが可能になりますが、いくつかの課題も残ります。例えば、検査項目が減少したり、検査方法にデジタル技術が活用されていない点が挙げられます。また、リアルタイムでの動画通話だけでは、検査時間が従来よりも長くなる可能性があり、この点も今後解決すべき課題です。
他方、デジタル庁の技術検証事業においては、目視・手作業による確認・測定業務をカメラやAR、BIM技術で実証する取り組みも進行中です。リモート検査とデジタル技術を活用した確認・測定が進めば、検査の効率化が進み、建設業界のデジタル化が加速するでしょう。
終わりに
リモート検査が浸透し、さらに検査・測定のデジタル化も進むことで、検査業務全体の効率化に繋がり、建設業界のデジタル完結に向かっていくことで人材不足の解決がみえてくることでしょう。
建設業界のデジタル完結に向けてANDPAD ZEROとして、こうした変革を皆様と共に推進していければと思いますので、また次回お会いしましょう。最後までお読みいただき有難うございました!
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