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新プロダクト開発のアプローチについて考えてみる

こんにちは、ANDPAD ZEROの今井です。
23年の夏は、6月、7月に「ANDPAD 3Dスキャン」「ANDPAD BIM」とそれぞれβ版ですがプロダクトのプレスリリースを出すことができました。
また先行して開発してきた「ANDPAD図面」は現在多数のゼネコン、サブコンの皆さまに活用いただいています。

今回は、これまでの経験から、プロダクト開発のアプローチの初期段階について少し整理してみたいと思います。
ちなみに、このアプローチはアンドパッド社全体というより、R&D的アプローチの強い、ANDPAD ZEROのアプローチという点は、前もって補足させていただきます。


新プロダクト開発のはじまりはいつ?

よくご質問いただくのが、「どういうきっかけで新プロダクトを開発していますか?」という問いです。
当然、何かアイデアが降ってきて開発が始まるわけではありません。ほぼ100%「顧客のニーズ」を起点にして新プロダクトの企画は始まります。

端的に答えると「やっぱりマーケットインなんですね。」となりますが、実態はもう少し込み入っている気がします。振り返ってみると、実は顧客から相談を受ける1年くらい前には構想/妄想段階として、「こういうプロダクトをつくりたいな。あったらいいな。」というプロダクトイン的発想がまずあります。
なので、"開発が始まる"のは、顧客からのニーズになりますが、その前に「心の準備」期間がいつも一定存在しています。

R&D的発想の強いANDPAD ZEROとしては、実はこの構想/妄想段階がとても重要なのでは?と考え、この部分を今回は中心に整理してみたいと思います。

ANDPAD BIMの構想/妄想段階

まずはANDPAD BIMの構想/妄想段階から。
ANDPAD BIMはいわゆるBIM Viewerプロダクトになります。僕自身も設計者として仕事をしていた2009年、この年が日本におけるBIM元年と言われています。一方、2020年にアンドパッドにジョインして久しぶりに建築業界のBIMの浸透度を俯瞰してみると、「11年経っても業界全体としてはあまり変わっていないな。」という印象でした。設計業界の方は、コンピュテーショナル・デザイン、デジタル・ファブリーケーションなどいろいろ進化していましたが、建設業界はほぼ従来通りのツールを使い建設を進めていた印象です。

VUILD ARCHITECTSによるCNC加工機でつくられた「camp pod

この背景には、2Dでも十分に予算・工期通りの施工ができる優秀な日本の建設スキーム、設計ー施工で分離発注されることで情報が分断してしまうこと、BIMソフト/関連ディバイスの価格などがあると思います。

それでも、ノートPCでもBIMがモデリングできるようになったり、クラウド上でサクサクBIMを見られるBIM Viewerプロダクトがグローバルに増えていたりとテクノロジー・トレンドは目を見張るものがありました。
さらに、公共工事(主に土木工事)におけるBIM/CIM適用や今後建築において進んでいくBIMによる確認申請といったレギュレーション・トレンドも追い風と見ました。実際に、従来と1桁以上規模の違う80億円という補助金が準備された「BIM加速化事業」など、この1年でさらに強い風が吹き始めています。

そんな市場環境を俯瞰して、まだ競合でも十分に顧客業務にフィットするプロダクトが提供できていないBIMをしっかり準備していくことは、十二分に価値があるだろうと妄想をし、「令和3年度BIMモデル事業」にも参加しながら自社でフルBIMで住宅を設計・施工してみたり、BIMプロダクトのPMとなる菊野さんがチームにジョインしてくれたりと徐々に仕込みをしていきました。

しかし、開発のきっかけは先行して進んでいた東邦ガスネットワーク様とのプロジェクトにおける、ANDPAD 3Dスキャンで作った3DデータのViewerとしての活用でした。ANDPAD BIMの開発企画を具体的に進めていた時は、建築BIMのViewerとして進めていましたが、途中でより提供確度の高い方にシフトした感じです。

なので、「そんなにスマートに構想/妄想が製品開発に繋がっているわけではない」という点は改めて強調しておきたいところです。一方、これがきっかけで実際に動くViewerができたことでゼネコン現場でのトライアル活用もスムーズに進み出したという事実もあり、こういう予定不調和な感じがを楽しめるのも、ANDPAD ZEROメンバーの素敵なところだなと手前味噌ですが強く感じるところだったりします。

ANDPAD 3Dスキャンの構想/妄想段階

そして次に、僕にとってはANDPAD BIMの弟のようなプロダクト、ANDAPD 3Dスキャンについて。

3Dスキャン技術については、Leica、Trimble、TOPCONなどの点群は先に挙げたBIM元年の頃から改修現場でベースデータとして活用するケースなどは耳にしていました(当時は相当先進的な試みとして紹介されていました)。2020年、僕がアンドパッドジョイン時にこの分野も俯瞰してみると、不動産業界ではMatterport、RICHO THETAがかなり浸透していましたが、それ以外はあまり変化が無いような印象でした。

Leica BLK360で撮影された点群

そんな中でテクノロジー・トレンドとして大きかったのは、やはりiPhone ProにLiDAR機能が搭載(*)され、Scaniverse、3d Scannar App、Polyscanなどたくさんの3Dスキャンアプリが誕生していたことでした。
マクロ・トレンドとして大きかったのは、2020年から国土交通省がリードして進めている、PLATEAU(プラトー)ではないかと思います。ここではBIMだけでなく点群で取得した3Dデータも扱われ、都市の新たな捉え方が始まっていました。
*2020年10月に発売された「iPhone 12 Pro」に初めてLiDAR機能が搭載されています。

そんな状況を眺めながら思案しているところに、先に挙げた東邦ガスネットワーク様から「iPhone ProのLiDAR機能を活用した3Dスキャンで竣工記録を撮れないか?」という相談をお受けし,
具体的なプロジェクトが進んでいきました。

この時も、BIM Viewerの企画をしっかり詰めて検討していなければ、既存のANDPADプロダクト群と距離が遠すぎて、すぐに対応できなかったはずです。改めて、開発パートナーが最初からいることは非常に重要であると感じるとともに、開始時にフットワーク軽くプロジェクトを進めるためには、この構想/妄想段階が極めて重要ではないかと考えます。

新プロダクト開発の初期アプローチの重要性

最後に、2つのプロダクトの初期アプローチを振り返ったことで、僕たちがANDAPD ZEROにおいてどのような開発アプローチをしているかを抽象化してみたいと思います。

一般的に市場にはたくさんのユーザー、ユーザー候補が存在するとともに、プロダクトを提供しようと切磋琢磨する競合が多数存在します。類似プロダクトにおける競争は、プロダクトのエンハンス(改善)と営業を軸としたプロダクトの継続的な先鋭化が重要となります。

一方、ANDPAD ZEROでの試みは、まだ市場におけるユーザーも競合もゼロに近い状況がスタート地点となります。海外におけるベンチマークが一部存在したりしますが、市場環境が異なるためあくまでベンチマークであり、クローン・プロダクトをつくればOKというものでもありません。
そんな環境の中で、テクノロジーやレギュレーション、マクロのトレンドを眺めつつ、「自分たちならどういうことできそうか?」「どういうことができたらおもしろいか?」「新たなユースケースはどう産み出せそうか?」を、知の探求と探索を続け、新たな業界のフレームワークを構想・妄想し、「顧客からのニーズ」というフラグが立った時点で駆け出せるよう準備していく試みとなります。

少し話は飛びますが、建築家の妹島和世さんが以前に何かのインタビューで、「昔はいろんな建築家の作品をみて回っていたけど、今は全然見なくなりました。」というコメントをしていて、その意味するところを思案しつつ、ずっと頭に残っていました。

SANAA(妹島和世+西沢立衛)によるRolex Learning Center(撮影:Iwan Baan)

今改めて考えてみると、比べるのも恐れ多いですが、、、ANDPAD ZEROが進めているアプローチも顧客や競合(=他の建築家)を見るのではなく、自分たちの興味や価値があると考えるものをトコトン追求する先に、「顧客のニーズ」というチャンスがあり、プロダクトを世に送り出しているという意味で、世界的な建築家と共通するものが少しだけあるのではないか。妹島さんが世界唯一の建築を設計し続けるように、僕たちANDPAD ZEROもまだ業界に存在しないプロダクトを提供し続けていく。そんなアプローチを積み重ねることでANDPADを唯一無二の存在にしていく、いきたい。そんな願望も含めた思考がこの構想・妄想段階にはあるのではないかと考えるに至りました。

おわりに

以上、今回はANDPAD ZEROのプロダクト開発アプローチを、多少の想いも込めてまとめてみました。業界の生産性を圧倒的に上げていきたいという想いがベースにありつつ、テクノロジー等のトレンドを眺めながら「まだ見ぬこんなプロダクトをつくりたい」というピュアな想いも僕たちは大切にしていること。それが企業の中長期的な競合優位性に繋がっていくこと。そんなスタンスを少しでもお伝えできていたら幸いです。

そして、この先にどのように開発パートナーと実際に「現場で使えるプロダクト」にしていくのかの詳細は曽根勝さんや菊野さんにバトンを渡し、今後noteでお伝えしていきたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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