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スマートビルの中核を担うデータ連携基盤「ビルOS」について

こんにちは、ANDPAD ZEROの石川です。
先日、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)から「スマートビル総合ガイドライン」が公開されました。ANDPADが主戦場とする建設現場のトピックではないですが建築未来を見据えるパースペクティブとして、上記のガイドラインを参照しながら、今回のnoteでは「スマートビル」と「ビルOS」を取り上げてみたいと思います。

おそらく、読んでくださっている方の多くにとっては、この2つの言葉は、聞きなじみがあまりないのでは、と思います。そこで、まずは「スマートビル」「ビルOS」という言葉が何を指すのか、どういった意味をもつのか、についてカンタンにご説明するところからスタートし、徐々に掘り下げていきたいと思います。後半では、今後の普及に向けた取り組みについて、私なりの見解も交えながらお伝えできればと思います。

スマートビルとは

まずは「スマートビルとは?」について整理していきたいと思います。
「スマートビル」とは、その名のとおり、スマートなビルのことであり、以下のような機能をもつビルのことを指します。
・IoTやクラウド、AIといった新たな技術を活用している
・設備の稼働状況や人流データ等を把握できる
・得られたデータをもとに、ビルの各設備やサービスを高度に制御したりコントロールしたりできる

「スマートビル」は上記のような機能をもつことにより、高度な省エネが実現できたり、建物利用者の快適性や利便性を向上できたりします。建物所有者・管理者・建物利用者など、ビルに携わる様々な関係者へ、幅広い付加価値を提供します。

実際の例として、商業施設が入ったビルであれば、建物内の施設・店舗ごとの混雑状況をデータ取得・見える化してモニター等で周知できれば、混雑回避や待ち時間の削減につながります。他にも、オフィスビルであれば、各オフィス・会議室ごとの酸素濃度や人流などをデータ取得できれば、無駄な空調のオフ、換気設備の最適化等により、省エネも実現可能です。

コンセプトイメージ
(出典:スマートビル総合ガイドライン

また、ビル・建物は街の構成要素の1つでもあります。現在、国が推進している「Society5.0」において、「スマートシティ」の構成要素のひとつに「スマートビル」が位置付けられています。

「スマートシティ」とは、ICT等の新技術活用により、都市全体のマネジメントの高度化を実現するもの、とされています。都市全体で、あらゆるデータを取得・共有することで、都市全体のサービスを動的に連携する仕組みを指します。

「スマートシティ」を実現するためには、その構成要素であるビルが「スマートビル」化している必要があります。「スマートシティ」達成のためには、官民が一体となって推進していくことも重要となります。

スマートシティのイメージ図

ビルOSとは

次に、「ビルOSとは?」をお話します。
さきほど、「スマートビル」について説明で、「スマートビル」のもつ機能を3つ紹介しました。
・IoTやクラウド、AIといった新たな技術を活用している
・設備の稼働状況や人流データ等を把握できる
・得られたデータをもとに、ビルの各設備やサービスを高度に制御したり・コントロールしたりできる
「ビルOS」とは、こうした「スマートビル」が持つ機能やデータを一元的に管理・運用・連携することができる「データ連携基盤」のことをいいます。みなさんも日々使われている、WindowsやMac、Androidと同じOSのビル版ですね。

「ビルOS」によって、1サービスの範囲を超えて複数サービスやデータを連携してデータを見える化したり活用したりできるようになります。また、現実空間のビル・建物の情報を仮想空間上に再現(=デジタルツイン)して、この位置情報と先に挙げたデータを連携することで、建物に携わる関係者に新たな価値提供やサービスが展開していける というコンセプトが「ビルOS」の特徴と言えます。

アナロジーとして考えると、20年前は「通話する」機能しかなかった電話が、「スマート化/OS化」してチャット、動画、ゲームなど多彩なアプリを使えるツールとなりました。今後ビルもこのようにスマート化していき、その時にスマホとの一番の違いが「デジタルツイン」という概念になり、VRゲームで自分のキャラと現実の自分を完全に同期させていくように、ビル自体も同期させていくイメージになります。

グローバルには一部のサービス、国内では大手ゼネコンが実証実験的に上記の世界観を実現しており、完全に「未来の話」では無くなってきているところが非常にエキサイティングですよね。

スマートビルのシステム構造図
(出典:スマートビルシステムアーキテクチャガイドライン

「スマートビル」「ビルOS」の普及に向けた課題

「スマートビル」「ビルOS」の普及については、先に挙げたようにすでに一部の大手事業者によって、大規模なビル・施設に対して、ビルOS、データ取得設備等が実装され、「スマートビル」と呼べる建物が少しずつできてきています。今後も、大規模な建物の建築に際しては、ビルOSが搭載された「スマートビル」がますます普及していくのではと考えています。

一方、中小規模の建物に目を向けると、大規模なものと比べて、普及は遅れています。そこには、「スマートビル」と呼ばれるソフトや設備がハイスペックすぎ、ゆえに初期投資・運用コスト等が高額であることなどの課題があると思います。

今後、中小規模の建物や既築の建物が「スマートビル」「ビルOS」を導入していくためには、以下のようなポイントを抑える必要があるのでは?と考えてみました。
①中小規模の建物オーナーや管理者にとって必要最低限の機能が備わっていること
②初期の設備投資・運用にかかるコストがリーズナブルで持続可能であること
③既設の設備やシステム・アプリケーションと連携ができ、業務変革への負荷が少ないこと

スマートシティの構成要素が大規模ビルだけでは、「シティ」にはなりきれません。上記のようなポイントを抑えた、中小規模建物向けの「ビルOS」ができてくると良いですね。

最後に

今回は、国が推進している「スマートビル」「ビルOS」についての解説と、それを踏まえた私なりの見解を整理してみました。
今後、「スマートビル」「ビルOS」が普及していくことが期待されますが、その過程には、なかなか一歩が踏み出しづらい中規模・小規模のビルへの対応、コストやハード面で既築の建物をどのようにスマートビル化するかといった課題等もあります。

一方、ポジティブサイドに目を向けると、新たな技術の発展により、様々なデータが有効活用され、ビルがこれまで以上の価値をもつようになり、さらにそれが都市と連携することで、スマートシティ化していく…。
そんな世界では、自分のスマホでオフィスの空調をコントロールしたり、ロボットが会議室のレイアウトを調整してくれたり、ショッピングモールでリアルタイムに空いているルートを教えてくれたり、近所の駅前のベンチを「ここに」増やして欲しいという要望を投稿できたり、、、映画「レディ・プレイヤー1」、「マトリックス」のような世界がもう目の前にきています。

今後の動向については、また新たなトピックがあればこちらで共有していきたいと思いますので、興味を持っていただいた方は、是非楽しみにしていてください。
以上、ANDPAD ZEROの石川でした。
次回の記事もお楽しみに!


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