Autodesk University Digital Experience イベントレポート
はじめまして。ANDPAD ZEROの平塚です。
私からはまだ入社して日も浅いため、さまざまな建設DXイベントのレポートをご提供してきます。初回はBIM/CIMについてのAutodesk主催のイベント「Autodesk University Digital Experience」をご紹介します。
自己紹介
まずは自己紹介をさせていただきます。私は大学で建築学を専攻し、新卒で地場のゼネコンに入社しました。そこで5年間ほど設計業務と現場監督に従事しました。
現場監督としては、現場所長も務めていました。
工事現場は「生き物である」と言われるくらい分刻みで目まぐるしく変わっていきます。
「一難去ってまた一難」という言葉も工事現場のためにあるのだと思うほど、毎日早朝から夜中まで、嵐のような日々でした。その分、段々と建物が完成したときの感動はひとしおでした。
建設業の面白さ、大変さを身にしみてわかっているからこそ、建設業のために何かしたい!と思い2022年9月よりアンドパッドにジョインしました。
私の所属しているANDPAD ZEROでは常に最新の技術の情報を収集すべくアンテナを張っています。ジョインしたての私も常に情報収集し、勉強する毎日です。
そういう意味で、今回のnoteは私自身も学びながらレポートを作成していますので、ぜひ最後までお付き合いください。
Autodesk University Digital Experience とは
今回紹介するのは、Autodesk主催の「Autodesk University Digital Experience」というイベントです。
「Autodesk University Digital Experience」は、アメリカ・ニューオーリンズにて開催されたBIM/CIM・ITについての大規模イベントです。
建築、エンジニアリング、設計、メディア等の業界の専門家が行う講義やパネルディスカッションなどのセッションが約500開催されました。今回私はオンラインで参加いたしました。
セッションの中から、私が特に興味があった国際的な建設コンサルタント会社K&AのMicheline Nader氏によるBIM(*)の社内での導入事例のセッション『一企業がDX戦略としてBIMをどう導入できたのか』で、こちらを聴講しました。
*BIM:Building Information Modeling。建物をコンピュータ上で3Dで構築し、設計や、工事などで一元化して活用していく手法のこと。前回のANDPAD ZEROのnote「BIMを分かりやすく整理してみる」もぜひ合わせてお読みください。
さて、前述で触れましたが、私自身も、設計業務に携わっており、その中でBIMを使っていました。
一般的なCADに比べ、BIM対応のCADは操作が難しいため慣れるまでに時間がかかる人も多くいます。当時、社内での水平展開を試みましたが、「自分が覚えるより、できる人にお願いした方がラクだし、時間も掛からない…」と思う人も多く、なかなか社内では浸透しませんでした。
今回のセッションを聴講するにあたり、「国際的な建設コンサルタント会社がいかにして、BIMを導入し、社内に定着することができたか」という点が、個人的にもとても気になりましたので、このあたりもしっかりご紹介できればと思います。
セッションレポート『一企業がDX戦略としてBIMをどう導入できたのか』
BIM導入の経緯
K&A社は、建築家、エンジニア、プランナー、プロジェクトマネージャー、技術者、専門家が揃う国際的なコンサルタント会社です。世界中に支社を持ち、30カ国、7000人もの社員が働いています。
建築・都市計画のみならず、輸送や都市モビリティ、水資源・環境問題、エネルギーなど、幅広い分野に関するコンサルティングを行っている企業です。
K&A社では2011年にBIM導入を開始し、その後、2018年には、BIMをさらに高い水準で活用するためのロードマップが作成され、役員会で承認されることとなったとのこと。
プレゼンターのMicheline氏の言葉を借りれば、2011年に「BIMとの旅」を開始し、2018年に「DXプログラムを開始」したことになります。
現在では、あらゆるタイプの建築プロジェクト全てにBIMを導入することに成功したそうです。
それではK&A社がDX戦略としてBIMをどのように導入したのかについて見ていきましょう。
DX戦略としてのBIM導入にあたってのポイント
企業にDXをもたらすために、どう歩き始めるか、どこへ進むのか。
「その一歩目はBIMから始まる」とMicheline氏は語ります。
企業のDX戦略としてのBIM導入にあたり、彼らは3つの重要な柱を設けました。
1.BIMビジョンの実現に向けたロードマップを確立すること
1つ目の柱は、BIMビジョンの実現に向けたロードマップを確立すること。
BIMの導入開始にあたり、専属のプロジェクトチームを設置し、ロードマップが作成されました。
ロードマップの最初のステップは、社内の現状調査だったそうです。
K&A社員のBIMスキル、モデリングソフト・開発ツールの性能が調査されました。調査の結果は、衝撃的だったとMicheline氏は語っています。
調査の結果、優秀であるものの、自らの能力が十分に発揮できていないプログラマーが一定量存在しました。この調査結果を元に、今後のプロジェクトの核となりうる社員に対して、RevitやCivil3Dなどのモデルソフトウェア、BIM360、Navisoworksへ研修を実施。研修にあたっては、受講内容を「BIMの知識として備えておくもの」ではなく、「実際の作業のプロセスとして使用するもの」であると認識を変えるよう促したそうです。
その後、英国規格協会(BSI)をベースとした、社内のBIM規格が策定されました。これにより、K&A社員の誰もが、いわば「一つの傘」のもとで、共通の理解を得られるようになり、作業の統一化が実現できたそうです。
さらに、すべての専門分野におけるBIM導入を想定したテンプレートの作成、複数のモデリングソフトウェア、Revit、BIM360をはじめとしたシステム間の相互運用性の向上にも注力しました。
これら一連の流れについて詳細にレビューしたのち、実際のBIMの構築へと移行していったとのことです。
2.戦略的にDXを推進すること
2つ目の柱は、戦略的にDXを推進すること。
K&A社では、社内共通の知識としてどの部署も見られるようなBIMのナレッジを用意しました。これによりあらゆる地域の設計センターにおいて、BIMを学習することができるようになりました。
これは、BIMの実装に意欲的であるチームのために、BIMを試験導入できるような準備が整ったことを意味しました。
そしていよいよ、数ある設計チームの中から、BIMの試験導入に意欲的なチームを選定し、彼らと共に導入に向けたプロジェクトを始動していきます。
試験導入にあたっては、チームの作業を難易度別に分割し、それぞれに役割分担を行うこととしました。役割分担によって、チームメンバーがそれぞれのタスクを確実に行えることを目的としています。
チームの作業進捗は、毎週社内全体と会社役員も参加しているBIM運営委員会に報告していたそうです。あわせて、あらゆる段階でのワークフローおよび直面する課題を明確化し、議論を重ねていきます。
このチームでの試験導入プロジェクト終了後、経営陣は社内全体へ、たとえクライアントからの指示が無くとも、全てのプロジェクトへBIMの実装を横展開するよう指示がなされたのだそうです。
3.デジタル技術の基礎を開発すること
3つ目の柱は、デジタル技術の基礎となる部分をしっかりと開発すること。
BIMの実装を可能にするために重要な「人材」「学習プロセス」「イノベーション」という観点を重要視したとのこと。
人材の育成として、BIMの実装に向けた設計チームが参加し相談しあえるコミュニティが組成されます。そこから徐々に参加メンバーが増え、初期のコアメンバーが30人が、現在では500名まで拡大されたとのことです。全員がコミュニティに参加することで、知識やノウハウの共有が設計チーム全体で進んでいます。
人々の働き方をクラウドへ移行させることや、建築家やエンジニアの暗黙のルールも明文化していくことも重要な課題だったようです。慣れ親しんだやり方に変革を起こすことは容易ではなかったそうですが、BIMマネージャーやBIMコーディネータが実用的な学習プロセスを作成することで解決していきました。
コロナ禍により在宅勤務を強いられた際には、クラウド上での作業が必要になりました。この期間中も全てのチームがプロジェクトに影響を与えることなく、迅速にかつ、容易に作業を継続し、納品する必要があります。
当初課題となっていたリモートワークも、結果としてBIM導入の追い風となっていったそうです。
最初は、多くの社員が新たな挑戦に抵抗がありましたが、一貫した完全なサポートとフォローアップを提供することで解決し、実装まで漕ぎ着くことができました。その後もイノベーションに取り組み、独自のアプリケーションの開発など、革新的なBIM自動化ツールを開発し続けています。
BIM導入の成果
ここまでのBIM導入の利点はなんだったのでしょうか。
K&A社は、BIMのクラウドの利用により、世界中どこからでもアクセスすることができ、データのやりとりや、図面の進捗をリアルタイムで確認することができるようになりました。これにより、ドキュメントをすぐに確認し、コメント欄から指示出しが可能なため、設計プロセスにおける共同作業はチームの作業効率を30〜40%向上させると試算されていました。
この効率化は、目下のプロジェクトに役立つだけではなく、余裕のできたエンジニアを別のプロジェクトにアサインできるようになるため、会社全体としての利点もあります。
実際に、26%のコスト削減となり、活用がより進めば、さらに15%のコスト削減が見込まれています。
また、BIMの自動化により、手動プロセスや反復作業を省略すること、ヒューマンエラーを削減することが可能となり、数千時間もの時間を節約しています。特定のタスクに注目すれば、40%の時間節約を達成することができました。
こうした取り組みや成果が評価され、K&A社はドバイで開催された『Construction Technology wards』にて『BIM Organization of the Year』を受賞することとなりました。
BIMはまだまだ可能性を秘めており、今後もその可能性を広げていきたいと、Micheline氏は語りました。
聴講した感想
いかがでしたでしょうか。建設業界で働く方々にとっては示唆に富む内容だったのではないでしょうか?
様々な取組が紹介された中でも、数名の推進チームを作ったことが成功の鍵だと思いました。BIM特有の難しさや大変さを複数名で共有し、その上でBIMの推進にさせていく事が大切だと思います。
また、紹介されていた3本柱は、どの企業でもBIMを導入する場合に取り入れることで効果があり、この柱がしっかり計画されていれば、ぶれることなくBIMの導入と社内への浸透は成功に近づくのではないかと思います。
AUTODESK社の本イベントでは、こうしたオンライン上でのセッションの他にも、対面ならではの様々な催し物があったそうです。ニューオーリンズをマラソンしながら建築物をめぐったり、朝食を取りながらセッションを行ったりしたそうで、とても魅力的に感じました。
毎年行われているようですので、いつか私も現地に行って参加したいなと思っています。
さて、今回は以上になります。
次回は、細田守監督が登壇したメタバースに関するについてのトークイベントのレポートをお届けします!ぜひご期待ください。
参考
1)Autodesk University 2022
https://events-platform.autodesk.com/event/au-2022-digital-experience
2)Autodesk University 2022 セッションアーカイブ
https://events-platform.autodesk.com/event/au-2022-digital-experience/planning/UGxhbm5pbmdfOTg5Mzgx
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