2025年の法改正でなにがどう変わるのか4号建築見直し/建築物省エネ法改正(後編)
こんにちは。ANDPAD ZEROの佐々木です。
いつもANDPAD ZEROのnoteを読んでいただきありがとうございます。
前回に引き続きテクノロジーではなく、法改正のお話をさせていただきます。
建築・建設業界にとって、2025年は建築のルールが大きく変わる年になります。今回の記事では、ルールの変更に伴い建築実務にどのような変化があるかをまとめていきたいと思います。
まずは自己紹介です。
私は、大学院で建築学専攻を修了後、アトリエ設計事務所を経て指定確認検査機関に入社し、審査業務においては設計事務所・ビルダー・ゼネコン・不動産の方々と関わる一方、国土交通省・行政庁・消防署の方々と業務を共に行ってきました。その後、指定機関内のDX化や電子申請システム構築などに携わり、国土交通省の建築BIM活用推進委員会などにも参加していました。
指定確認検査機関に勤めていた際の印象的な出来事といえば、2020年の河野太郎デジタル大臣(当時は行政改革担当大臣)の大号令による、行政手続きに必要な押印を99%以上廃止する、いわゆる「押印廃止」でした。コロナ禍という大変な時期でしたが、それが後押しとなり、確認申請関連の押印がなくなり、それを契機にデジタル化が推進されたことが印象に残っています。
現在では、建築確認申請の約40%はオンライン化されています。それまで進まなかった行政手続きのゲームチェンジャーとして、「押印廃止」がトリガーとなり、オンライン化が浸透していったんだな、と感じています。
アンドパッドにジョインしてからは、前職の経験を活かし、指定検査機関連携を担当しております。立場は変わりましたが、今度はプロダクト視点から建設業界のDXに貢献できればと考えていますので、よろしくお願いいたします。
前回記事のおさらい
近年のトレンドとして、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルに向けて建築物省エネ法の改正が予定されております。また、それに伴い建築基準法の4号特例の廃止なども予定されています。法改正の概要については前編の内容も併せてご覧いただければと思います。
法改正による影響
今回の記事では、法改正を踏まえ、工務店の方々やビルダーの皆様にとって、どのような業務変化があるのか見ていきたいと思います。アンドパッドとしても、このような最新の制度改正、それによる実務環境の変化はプロダクト開発において重要な要素となります。
建築物省エネ法の改正による影響
まずはじめに、建築物省エネ法の改正による影響についてお話していきます。
法改正前の現行の制度では、非住宅系の建築物については省エネ基準に適合義務が、住宅系の建築物については省エネ基準に努力義務が課されています。
2025年4月から始まる法改正後の制度では、住宅・非住宅、面積などに関わらず、すべての新築の建築物が省エネ基準に適合義務が必要となり、工務店/ビルダーの皆様の負担の増大が見込まれております。
省エネ基準が適用される部位及び設備機器は次の図のとおりです。
なお、断熱材の熱抵抗値・開口部の熱還流率については、建築する地域区分の基準に適合する必要があり、また、設備機器については省エネ水準を満たした機器を選択する必要があります。
こうした点については、これまで確認申請前に決定する必要のなかった仕様を選定してから確認申請図書に明記する必要が出てきます。フラット35や住宅性能評価などの申請業務をされたことがある方は大きく業務が変わりませんが、そのような対応をされてこなかった工務店さんにとっては追加業務となっていくことが予想されます。
また、非住宅の建築物においては省エネ適合性判定の手続きがあることを知っている方は多くいらっしゃると思いますが、省エネ適合性判定の申請内容に紐づいて建築基準法の完了検査時に省エネに関する検査が行われていることはご存じでしょうか。
省エネ適合性判定では図面審査を行い、完了検査時に省エネ図面に基づいて現場検査が実施されているのです。
2025年の建築物省エネ法の改正に伴い、住宅についても省エネ基準に適合させた住宅であるか否かを確認申請時に提出して確認が必要となりますが、同時に完了検査時に現場検査も実施されることとなります。
そのため、断熱材の仕様変更や、開口部の仕様変更などが発生した場合、指定確認検査機関等に軽微変更手続きなどが必要となります。
したがって、完了検査時に断熱材の仕様が違うことが発覚し省エネ基準に適合できない場合、検査済証の発行ができない、といった事態が考えられます。建築物省エネ法の改正に伴い、断熱材の厚みや窓の仕様についてもこれまで以上に設計監理、施工管理において管理するポイントが増加すると考えてよいでしょう。
「4号特例」の見直し
次に、建築物省エネ法の改正に伴う、建築基準法の4号建築の見直しについてお話していきます。令和3年度の確認申請交付件数は約53万件あり、そのうち4号建築物は約41万件。割合にすると、77%が4号建築物ということになります。
さらに、4号建築物のうち、2025年の法改正によって、分類が変更され、審査省略制度を利用できなくなってしまう件数は、約32万件ほどと推計しております。
該当の設計を行う工務店/ビルダーにとって、2025年4月以降は、以下のような点に留意する必要があると考えています。
構造図等の作成タイミング
それではひとつめ、構造図等の作成タイミングについて。
現状では2つのケースがあると思います。
確認申請手続きと並行して、構造図等を作成するケース
確認済証交付後に構造図等を作成するケース
現在は確認申請時に構造図は必要はありませんが、実際には、着工時や瑕疵担保保険の手続きをする際に構造図が必要となるため、この着工前のタイミングで作成することが今のスタンダードだと認識してます。
しかしながら、建築基準法改正後は、確認申請前に構造図・軸組計算書等を作成し指定確認検査機関等に提出し構造規定の確認が必要な手続きに変更となりました。そのため、これまで通りの業務フローで業務を行うと、確認申請のタイミングに構造図等が完成していないため確認申請の提出が出来ないことになります。
また、確認申請交付後に構造図作成のように、確認済証を取得して法的に意匠図がFIXした段階で構造図を作成といった流れは今後できなくなるため、図面作成における作業工数は増えていきます。
つまり、2025年4月以降の確認申請を円滑にするためには、顧客との打ち合わせやプラン図作成時に構造の検討を行う必要になるため、営業や意匠設計者も構造に関する知識の習得がより一層重要になってきます。
構造図・軸組計算書の作成主体
ふたつめは、構造図・軸組計算書の作成主体。つまり、「誰が構造図・軸組計算書を作成するか」という点です。
構造図等の作成については、現状では以下の3つのケースがあると思います。
自社で軸組計算を行い構造図を作成
社外の設計事務所に業務依頼
プレカット工場に業務依頼
どの場合においても、法改正により審査が必要な件数が増大しますので、構造図等制作にあたっても体制を増強する必要があります。
例えば、自社で行っている場合、社員の作業工数増加や新たに人員を増やすなどの人的コストの増加や社内体制の再構築が必要なこともあるでしょう。
また、社外の設計事務所に業務依頼をしている場合は、業務委託費や依頼によるコミュニケーション時間の確保といったコストが発生します。
同じように、プレカット工場に依頼している場合は、依頼するタイミングが確認申請提出前になること、依頼して見積等の関係や図面の修正など対応してもらうことは現実的に可能なのか、などといった第三者を絡めた調整が必要になってきます。
特定行政庁・指定確認検査機関の審査期間の増加
みっつめは、特定行政庁・指定確認検査機関の審査期間の増加。
設計業務に変化がある一方で、指定確認検査機関側にも変化があることに留意しなければなりません。
現在、木造2階建て住宅の確認審査では、建設地によって差はあるものの、概ね2週間ほどで確認済証の交付に至るのではないかと思います。
しかしながら、法改正によって、指定確認検査機関に対して、構造図、軸組計算書、省エネ図書といった書類の提出が生じるためその図面等の確認が必要になり審査工数は増加します。また、設計者と指定確認検査機関等との質疑応答工数の増加が予想され、これらの要因によって審査期間が長期化することが考えられます。
例えば、確認審査に要する期間が2週間で確認済証交付されていたものが、審査機関が長期化して1か月にかかったといった事が起き、着工日に影響が出てくるケースもでてくると予測されます。
今後に向けて
法改正に伴い、業務変化やスケジュールの変化などを中心にまとめていきました。
2025年は工務店/ビルダーの皆様に、大きな環境変化が起こり、多くの業務変革も必要になってくると予想しています。
ただ、見方を変えれば、あと1年半ほど時間はあるのでこの時間を有効に活用し、2025年に向けて様々なトライアルや取り組みを行いスムーズな業務運用を目指して行くことで、企業価値の向上につながることと思います。
また、業務運用をプロダクトやテクノロジーでサポート・解決していきたいと思いますので引き続き検討を進めていきます。
最後に、ANDPADでは、各指定確認検査機関で保有する建築確認、中間検査、完了検査、設計性能評価、建設性能評価の進捗状況が、ANDPAD上で複数現場を同時に確認できます。双方の日付データをANDPAD上で一元管理することにより、手続きにかかった日数を集計でき、分析に活用することができるような仕組みとなっています。
こちらに詳しい情報が記載されていますので、ぜひご覧いただきお問合せいただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。