デジタル庁の法令ハッカソンに参加してみた
こんにちは。ANDPAD ZERO 研究開発グループの佐々木です。
今回は、「法律×建築×デジタル」という目線で、私が実際にメンバーとして参加した「法令APIハッカソン」というイベントについてお伝えできればと思います。いわゆる『法律』が、建築業界のデジタル化にどう対応していくのか、ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
法令APIハッカソンとは
法令ハッカソンとは、法令等のデータの利活用による産業・技術・政策立案の発達等を目的として、デジタル庁が主催した新規サービスの開発試行イベントで、11月10~17日に開催されました。今回のイベントへの参加者の視点も交えながら、感想と建築業界の将来像についてもお伝えできればと思います。
ここまで読んでいただいて、「法令等のデータ化って、なに?」と思う方も多いはず。
法律や政省令等は、多くの方々にとって非常に難解な文章であり、その難解さはデジタル化への対応を妨げている要因でもあります。
デジタル庁は、法令等を機械判読可能な形でデータを提供する「法令API」の高度化に取り組んでいて、今回は、その一環で、法令APIを用いたサービス開発等の促進のためにサービス開発試行イベント=ハッカソンが開催されました。
どんなチームで、どんな意気込みで参加したのか
まずはじめに、今回のハッカソンには私ひとりで参加したわけではなく、ZEROメンバーを中心にアンドパッドとして参加している団体の一つ、buildingSMART Japanの有志メンバーの一員として参加しました。
buildingSMART Japan(以下、bSJ)とは、BIMの標準データ形式であるIFCの策定・普及活動を行う団体です。建物のライフサイクルを通してデータを共有化し、有効な相互運用を可能にするための活動を行っており、コンピュータを利用した高度情報化に対し、標準化を図り、異なるソフトウェア・アプリケーションでも利用できるデータの共有化とその活用の実現化を目的としています。
法令APIハッカソンに参加した背景は、国土交通省のもとで進行中のBIM活用に関する取り組み、その中でも、建築確認検査のBIMデータ審査を加速化させていきたいという狙いがあったからです。
建築確認検査において、BIMデータやその属性情報を効果的に利用することが求められていますが、その過程でネックとなるポイントのひとつは、「BIMデータやその属性情報に対応する法令の機械可読性」という点です。法令の機械可読性が向上することは、建築確認審査のBIM自動化の実現に必要な要素です。
法令APIハッカソンでbSJチームが提案した内容
上記のような問題意識を踏まえ、今回のハッカソンで、bSJチームとして、法令APIを活用した建築確認申請の自動審査システムを提案しました。
一言で言えば、『法令による審査内容・フローを機械が自動で判別することで、BIMモデルの法適合性を機械が自動審査するシステム』といったところでしょうか。
少し開発寄りの話にはなりますが、法令APIから建築基準法・施行令のデータを取得し、10種類ほどの条文を生成AI(OPEN AI)に対してトレーニングさせます。トレーニングした生成AIにより判定プログラムを自動生成します。
生成された判定プログラムは、再確認・検証するために、保存する仕様としています。
さらに、BIMビューワにアップロードされているBIMデータ(IFC)と連携することで属性情報を読み込み、生成された判定プログラムをかけると自動チェックができ、BIMビューワに結果が表示されます。
このシステムを提案した際のポイントは大きく3つあります。
①建築基準法APIから生成AIで判定プログラムを自動生成していること
現時点で公開されている建築基準法APIは、構造的にはなっているが単に条文のテキストデータ表示のみであり、機械が判断するための要素が抽出しづらいと言えます。今回は、生成AIを用いて、建築基準法本文から、判定プログラムを自動生成することに挑戦しました。
こうした自動生成が可能になれば、法令が改正されても、新たな判定プログラムを即座に生成することも可能です。法令改正前後の審査内容変更に伴うドタバタの回避にも繋がると思います。
②生成された判定プログラムを可視化し・保存していること
判定プログラムを可視化することで、自動判定に任せきりにすることなく、審査機関の方が、機械が行った自動審査プロセスを再確認することができるようになっています。審査フローと判断根拠をログとして残すことが、自動審査への不安感の払拭にも繋がるのではないでしょうか。
③法令を比較できる属性データ(BIM)が必要であること
そもそも、こうしたシステムを作ったり活用できたりする背景には、法令審査の対象となる数字などが蓄積されたBIMがあるからこそとも言えます。
今後BIMがより普及していくことで、こうした便利なサービスも同時に開発されたり広がっていくことを期待しています。
今回のハッカソンで実際に、建築基準法のひとつの条文の自動判定を試みました。
その条文は
「第二十一条 居室の天井の高さは、二・一メートル以上でなければならない。」
というものです。
つまりは、
「床から天井の高さの平均が、2.1mより高くないといけないんだな。まずはリビングの図面を見て、高さの数字をチェックして、2.1m以上になっているか確認。次は寝室、ここもOKだから次は2階の居室…あれ、ここの和室だけすべて2m05㎝しかないから、建築基準法を満たしていない設計だ…直してもらわないといけないな…」
ということなのです。
これをどう機械に判定させるかということに取り組んだハッカソンだったのです。
さきほどの法令を機械が読みやすいように要素に分解してみると
「居室の天井の高さ」は「二・一メートル」「以上でなければならない」
となり、
これらをプログラムとして、
room.height ≧ 2100 であれば OK
room.height < 2100 であれば NG
という判定ができるようになるのです。
ちなみに、BIMから「居室の高さ(ここでは「Room.height」)」を抽出する、という作業もこれから考えなければいけませんが、法令をいかに読み取り、必要な要素を抽出し、プログラムの形に変換できるかということの困難さや重要さがわかったチャレンジだったと思います。
この法令APIハッカソンには、14チームが参加したのですが、私たち以外の作品をみてみると、法令を絵本やクイズ形式にして楽しく学ぶためのアプリや、法曹業界のビジネスツール、私たちと同じ建築設計での利活用ツールなどがありました。
ありがたいことに、私たちのチームは結果として、技術を利活用したサービス・ビジネス創出の観点が評価され、技術利活用賞を受賞させて頂きました。
法令APIハッカソンの作品が社会実装された先には?
今回のハッカソンでは、システムの開発と併せて、デジタル庁及び関連省庁への提言のような内容も盛り込みました。
例えば、「現在の法律は、斜線規制や法文の中にある表などが機械可読しづらいが、それらを機械可読性のある形へ改正してほしい」といったような内容です。また、bSJは国際的な会議に参加しており、「海外の事例をもとに考えると、日本では官民の役割分担はこうなるのではないか?」といった提案もおこないました。
今回の法令APIハッカソンの作品、すなわち、BIMデータを活用した自動審査システムが構築され将来的に実装出来た場合、さまざまなメリットがもたらされる可能性があると考えています。
たとえば、設計BIM、施工BIM、維持管理BIMに対して建築基準法の自動チェックがなされて、建設物の法規情報を瞬時に確認できること。様々なタイミングで建築基準法に対するコンプライアンスチェック結果を可視化することができ、適切な用途変更や改修・修繕などの施設管理計画が出来ると考えられます。
さらに、建築確認申請の自動審査ができるようになることで、「審査期間が短縮できる」「設計段階の正確な情報が建設プロセスで活用できる」といった建設業界の生産性向上への寄与も期待できます。
加えて、将来への広がりとして、スマートビルディングやスマートシティにおける建物OSや都市OSとの連携に対しても、建物のコンプライアンス情報をもったBIMデータの存在は大きく、Society5.0の実現を加速させるといった好影響をもたらすのではないでしょうか。
「法令×建築×デジタル化」という少々ニッチな内容であり、難しいところもあったかもしれませんが、最後までお読みいただきありがとうございました!
引き続きANDPAD ZEROのnoteをよろしくお願いいたします。
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