2024年5月5日 歪みステッチ

 またしばらく放っておいてしまったフェルトたちに、ようやく手を付けた。この間型を描き写した、ピンクのチャコペンの跡のとおりに切る。ひとまず、小さいパーツをブランケットステッチ。ひとつひとつ目が増えてゆくのを見ているのは楽しい。これだけをやる仕事ってこの世に無いでしょうか。無いですか。
 しかし、お裁縫自体は得意ではない。
 縫いながら、小学六年生の頃、学校のクラブ活動で手芸クラブに所属していたことを思い出した。切られたフェルトと糸と綿が入っている、フルーツケーキのマスコットを作れるキットを手芸屋さんで購入し、クラブの時間に製作することにした。
 白いケーキ本体(ホールではなくカットされた形)や、みかん、キウイ、いちご、生クリームなどのパーツがあった。まずは土台!と考え、いちばん立体的なケーキ本体を作ることにした。辺を縫い合わせていくが、八割ほど進んだところで、なんだか歪んでいるような気がしてきた。綿を詰めればなんとかなるだろうと強行突破してみたものの、できあがったそれは、おおよそおいしいケーキとは思えない代物であった。どれだけ押してもつついても、それは頑なに、醜く歪んだ姿を選んだ。私は嫌になった。それ以降、クラブ活動中に何をしていたのか、もう覚えていない。
 それでも中学生になったばかりの頃は、ぷよぷよのマスコットなどを作って楽しんでいた。しかし中学三年生の夏、また悲劇は起きた。夏休みの家庭科の宿題をこなすため、またも手芸店でキットを買った。こんどはポーチだ。細長い布とファスナーが入っていて、それらを縫い合わせると、螺旋状にファスナーを開けられるポーチが完成するという寸法である。母はミシンで作ると思っていたようだが、私は手縫いを選択した。ミシンとは不倶戴天の仲だからだ(理由はここに書くと長くなるので割愛しよう)。
 その決断が、誤りだったのだろうか。またも八割ほど縫ったあたりからなんとなく嫌な予感が生まれ、案の定完成したポーチは歪んでいた。ファスナーを完全に閉じればペタンと平らになる想定だったが、そいつは妙に立体的になってしまった。ただ、私は志の低い生徒だったので、それをそのまま宿題として提出した。家庭科室の机に、そいつは数々の力作たちとともに並べられた。結果、当時好きだった男の子に発見され、はたしてこのポーチは本当にこれで合っているのかと問われてしまった。そういうポーチなんだと言って誤魔化した。
 この二つの失敗に、共通していることは何か。お店に売っていた出来合いのキットを使ったことである。理由はよくわからないが、キットを使って作ると私は歪みを生んでしまうようだ。では、今作っているものはどうか?自分で描いて切った型に合わせて縫っている。じゃあ、きっと大丈夫でしょう。うふふ。あ、ブランケットステッチが久しぶりしすぎて、最後のやり方がわからない。ああ、目が変になってしまった。ええい、ここを通してキュッとしたら、ね!なんとかなってるよ!ね!

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