ご飯は炊くだけでうまかった。
ひとり暮らしの僕は、ちょっと前まではけっこう自炊をしていた。カレーや肉じゃが、ハンバーグ、豚汁。基礎的な料理なら一通りは作っていた。いちばん凝っていたときには、きゅうりの酢の物やレバーの煮物なども作って冷蔵庫にストックして、いつでも食べられるようにしていたし、ラタトゥイユみたいなそれまで食べたことのないものまでチャレンジしていた。
去年の無職(フリーランス)だった時期は、彼女さんが休みの日には料理をつくってあげたりもした。僕が何もすることがないのだから、当たり前に作っていた。晩御飯にハンバーグと汁物を一品添えて、二人で食べていた。
それが今の会社に勤めだして全く料理をしなくなった。コンビニの弁当と外食ばかりの生活になった。朝ごはんはパンにヨーグルト、昼はローソンの唐揚げ弁当、夜はセブンイレブンのサラダとサラダチキン(ちょっとだけバランスに気をつかっている)、またヨーグルト。たまに近くのお好み焼き屋で買って帰るモダン焼き。電子レンジで温められるご飯ばかりを食べていた。
自分でご飯を炊いて食べたのは2ヶ月ぶりだった。本当に久しぶりだった。休日に惣菜を買ってきて、ご飯を炊いて食べたのだった。これが不思議とすごく美味しかった。電子レンジで温め直した、人工的ではない炊きたての温かさ。押しつぶされていないふっくらとした米粒。噛むと出てくる甘み(コンビニのご飯だと意外と感じない気がする)。理由はいろいろあるだろうけど、自分でお米を研いだというのも理由のひとつなんじゃないかな、と感じた。初めての職場で、疲れて料理する気なんか本当になくしていて、仕事場との行き帰りの間で済ませられるものだけを食べていたわけだけれど、自分で研いだお米は本当に美味しかった。おかずは惣菜だったわけだけれど、なんというか、ご飯だけはしっかりと「自分ちのご飯」て感じがしたのだ。