今月のひと駅-2023年12月
馬路(山陰本線)
まじ駅 島根県大田市
大正7年開業
マジで輝く琴ケ浜
見えそうで見えない海岸風景にもどかしさを覚えつつ、ほんの一瞬、築堤の上から集落越しの海が見える。細い路地とともに家並みがせり上がって、また視界がふさがれると馬路駅に着く。ここも五十猛と同様、日除けのない島式ホーム1本だけの駅で、撤去された駅舎に代わって、ホーム上に小さな待合室が設けられている。
ただ、驚くのはこの駅の駅名標。下り線側には「まじ!?」と大きく書かれ、撮影用に顔出しの穴が開けられている。裏の上り線側にはこんな会話文が。
「ここの浜、砂が鳴るんよ、行ってみようや」
「マジ!?」
「マジなんよ、馬路だから」
そう、駅の手前でちらりとのぞいた海岸は、見事なまでに白く輝く鳴り砂の浜、琴ケ浜だ。
馬路駅から坂を下って5分ほど。歩けばキュッキュッと衣擦れのような音と、きめの細かい砂の柔らかさが全身に伝わる。真夏は全面が海水浴場で大いに賑わうというが、それだけに、この音と感触と景観を保つ努力も並大抵のことではないだろう。冗談半分のような駅さえも、百選の渚、百選の音風景に抱かれて、神々しく見えてくる。
【2020(令和2)年取材】
(駅路VISION第30巻・山陰本線Ⅲより抜粋)
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