創作物語 「死について」
気づいたら
私はクラゲだった。
そして、マンボウに食べられた。
気がついたらマリンスノーになった。
もっともっと小さな粒子になって
海底を漂い忘れ去られた。
わたしは忘れ去られたものになった。
海底に溜まり還元され
ガスになった。
もう一度、水の中に含まれた。
それは、蒸発しそして雨水となり、
野菜の一部分になった。
またしてもあなたに食べられた。
人間の一部になった。
しかし、わたしはその人間の魂ではなかった。
何度もそういうことを繰り返した。
わたしは、その後
人間になることはなかった。
そして人間が滅んだようだった。
わたしは、もう一度
何があったかは覚えていないが
よくわからないまま、誕生した。
いつものように、また食べられた。
わたしは役に立った。
かなり痛くて苦しかった。
再びわたしはあなたに宿ることもあるだろうし
あなたに食べられることもあるだろう。
しかし、あなたはわたしを知らない。
わたしもあなたを知らなかった。
長い年月の中であなたを忘れてしまったから。
あなたは確かにあなただけど、
わたしはあなたに宿ったことを覚えていない。
わたしたちは忘れているんだ。
わたしは、わたしにしかなれない。
わたし以外のわたしを知らない。
でも、それでいいのさ。
わたしは、わたしのままではいられない。
変わり続けるのだから。
永遠に変わってゆくんだ。
あなたが更に良くなりますように。
わたしも更に良くなりますように。
再び、ここに今の今が揃う時まで。
あなたを愛し、愛されるまで。
わたしは祈り続ける。
世界の奪い合いの中で
この幸せの記憶に焼きつける。
あなたもわたしもその一部分になる。
わたしの身をあなたに差し出す。
ひどい痛みと引き換えに。
再び全てが揃うことを夢に見て。
今は役に立ちたいから。