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34.キッチンの片隅で雪のごちそう


 きょうも雪が舞った。

 雪が風に煽られて西から南へ流れている。煽られて、舞い上がり、跳び、わたしのベランダへ吹き込んできた。今年の雪は、積もっていかない。ふわふわして、飛んでばかり。風に煽られて、地に落ちたら、その痛みでいつのまにか、消えいく。

 台所にいる。踏み台のうえに、おしりを落として、香港の紅茶を飲む。

 ザ・ペニンシュラ香港のザ・ダージリンティー。

 今朝は薄くいれた。朝の頭にタンニンが強すぎると、起き抜けなのに、刺激が強すぎるから。手摘みの茶葉だ。明るい水色はオレンジがかった金色で、口に含むと、フルーティな味わいのなか、タンニンが静かな余韻を残す。おいしい。やっぱりおいしい。繊細でいいお茶だと思った。

 紅茶を、喉からからだへ、お腹へと落ちるのを感じながら。踏み台におしりを据えて、煽られている雪をみる。流れている雪をみて、海上で煽られている波の静寂を思った。気流である。

 いつだったか。風は、「神さまの吐く息のことです」と、わたしは温泉の熱湯に浸かりながら、源泉の効能と、その地質や風土などを書いている銅板のカードを読んだことがあった。

 もし、テレビのお天気キャスター嬢が気流のピクトグラムをペンで差しながら、「きょうの神さまの息吹はこの東から西の方向に流れていくでしょう、○○、○○の山沿いでは強く吹き荒れる模様です」などと解説をしたら、なんて興味深く神秘的な予報になるのだろう……、などと想像を巡らせ、にんまり笑う。

 わたしの座る背中には、わが家の冷蔵庫。冷たい冷蔵庫を背負って、外を眺めるのは、悠々として静かな気持ち。
 畑や海や、そこで収穫されるものを背負って、座っている。ここは、どんな時であっても女の城であるのだ。

 この日来週に提出する予定のものをかきあぐねていて、結局のところ深夜1時に風呂に入って、それからチャイを飲んで寝る。

 翌朝。起きると、リビングからみえる峰々にも屋根にも、積もっていた。空気も凍るほど清白の世界。どんどん舞い、どんどん降る。吹雪いている。山がみえない。ブリザード。

 わたしは午後からのZoomの予定を急遽変更して「出席」とした。頬や肩や掌に、雪が積る。高揚する。雪の花びらの中を歩いて、坂をノンストップで降りて駅へ向かった。





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