上京した話
上京したそこは、テレビで見たお店が間近にあって、そのお店は訪れる度に変わっていた。
飲み会は知らないチェーン店やおしゃれなお店ばかりで、帰りはみんな電車かタクシーで、代行で帰る人なんて一人もいなかった。
みんなジーパン以外のズボンを履いていて、スカートもワンピースも着ていて、綺麗な赤い口紅を塗っている人もいた。
男の人も丁寧に喋ってて、「そうだね」なんて言われた日には女の子みたいと笑ってしまった。
夏はいつも猛暑で風も少なく、冬の空は青くて除雪機の音で起きることもなかった。
もう上京して10年はとうに過ぎた。
夏の猛暑もおしゃれなお店もあまり慣れることはなかったけど、電車の乗り方や男の人の丁寧な言葉は慣れてきた。
住んでいた場所も仕事も人間関係も上京したあの頃からもうだいぶ変わってしまったけれど、
あの頃に買った洗濯機は、今日も私と私の家族の服を洗ってくれている。