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ミミズの話

夜、仕事の帰りに一匹のミミズを見た。

去年の秋だったか・・・雨が降ってて少し寒くて「はよ帰ろ」と、
足早に帰路についてる途中で、ふと一匹のミミズが目に入った。

まだ小さくてなんだかとても栄養不良に見えたミミズ。
そのミミズが一生懸命にある目的を目指してひたすら進んでいる。
よくよく見るとどうやら土も何もないコンクリートジャングルの中に唯一水がたまる小さなへこみに溜まった砂の中で生活をしていたらしく、同じように栄養不良そうなミミズがほかにも何匹かそのわずかに溜まっている少しの砂から這い出すようにして始めに目撃したミミズと一緒にある一つの目的場所に突き進んでいた。

ミミズたちが突き進む先に目をやるとコンクリートに舗装された街路樹の根っこのわずかに露出された土だった。


ミミズというのは日光と乾燥にとても弱く、雨の降るこの時を狙い意を決して少しばかりの砂しかない所から土のある場所を求めて砂の中から出てきたんだろう・・・・。

そう考えると、なんだかつい目が離せなくなって早く帰りたい気持ちもおざなりになり雨が降る中傘を差して大移動をしているミミズたちの行く末を見守った。

すると、とつぜん猛スピードで走り抜く自転車が通りかかる。


プチッ・・・

(あっ。)一匹が道路で潰されてしまった・・・・・。
こんな小さくて夜だとほぼ見えない生き物たちだ・・・・・。
当然潰した相手も全く気づくこともなく、自転車で走り去ってしまう。

次に車がやって来た。

プチッ・・・

(あっ。)またもう一匹がクルマに轢かれてしまう・・・。
 わずかな土のある街路樹の木の根元までの距離は人間からしたら5歩か6歩かもしれないけれど、ミミズからしたらその距離は人生をかける程の死と隣り合わせの遠い遠い距離だ・・・・・。

そして側溝までやっとたどり着いてまた、何匹かが落ちてしまう。

(あっ。)

生き残っているミミズはもはや何匹もいなかった・・・・
それでも新しい新天地を目指して歩幅(?)を緩めずにひたすら目的地へと必死に向かうミミズ達。
自分が木の根元まで運んでやってもよかったのだけど、木の棒にミミズをひっかけて何往復もしている大人なんて、傍からみたらちょっとアレな人にも見えるのでしゃがんでじっと見つめていた。それにミミズミミズ言ってるが正直ミミズは得意じゃない。むしろキモくて苦手だ・・・・。

なんだかそれをずっとみてたら心の中で「頑張れ!」と応援する気持ちが芽生えるようになる。
心なしか頭の中ではロッキーのあのテーマ曲が流れる。

頑張れ頑張れ!

そして、とうとう最初の一匹がやっと木の根元の土の方まで到達できた。
その後続々と何匹かも木の根元まで到着する。
その時自分の頭の中で勝利のゴングが鳴り渡り、流れていたロッキーのテーマ曲も山場を迎えてようやくその場を立ち去ることが出来た。

(う~~~ん、なんかいいものを見せてもらったような気がするな)

家に帰ると早速ミミズたちの決死の旅の話をした。
その場に立ち会えたことがなんだか少し嬉しいというかなんとゆーか、個人的にはかなり熱く語ってたような気がするけど・・・・

夜、眠りにつく前にあのミミズ達のことを思い出した。
あいつらはあれからちゃんと上手く生きてけるのだろうか・・・・死んでしまったミミズたちも不本意だったろうなあ・・・・そんなことをぼんやり考える。・・・人は皆、何故か社会的に成功した人や絶大に人気のある、ごくわずかの生き物が波瀾万丈で素晴らしい人生を生きていると思いがちだ・・・・

正直それは大きな間違いだと思う。

それは自分の人生が毎日が当たり前すぎて気づいてないだけで、他の生き物から見たら実はそれなりに波瀾万丈なのだ。
表面に現れてないだけで・・・・・そんなことを思いながらいつの間にか寝た。


次の日、昨日家族に話したことを何気なくまた掘り返してみる。
返答は、


「・・・えっ?そんな事話してたっけ??」

話した事をもう忘れていた・・・・・。

靴を履いて玄関の扉を開ける。

少し歩いて空を見上げると、


ーーーー今日も空が青かった。。


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