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Moment Joon - Passport and garçon 現実と向かう勇気をくれるラッパーとこれから先の10年

君らが日本になると言ってあげたい
そのために、俺は大人になる
俺には居なかった大人になる

・Moment Joon - Passport and garçonの感想 注意!この記事はとても個人的で音楽的な分析などは一切ない「感想」です。曲のリファレンスなどを知りたい方はこちらの方の丁寧な記事をチェック。


1.Moment Joonについて・知ったきっかけ


Moment Joonは1991年生まれ、韓国ソウル出身で留学生として大阪に来日。韓国語・英語・日本語を操り、日本語でラップするラッパー。
私がMoment Joonを知ったきっかけは2014年位に聴いた「I Love 阪大」だったと思う。大学への文句と愛をユーモアを交えてラップしているのが面白くて惹かれた。それから京都少女とSummer Knightのようなラブソングを好きになり繰り返し聴いていた。話がそれますが、Summer Knightは聴いていると冬の寒い部屋でも晩夏のような爽やかな気分にしてくれる名曲。ぜひSoundcloudで聴いてください。トラックの権利の関係で配信にはリリースできないそうです。

赤信号も今日は美しい/守ってあげたい この夏のこのVibe 

この感性〜

彼は恋愛の繊細な感情の揺れ動きを歌った「Hold me tigher」や「Don't fucking Call」、日本・韓国社会への批判を舌鋒鋭く歌う曲「マジ卍」「No one 蘆原」、移民として遭遇する苦難を歌った「終電、梅田」などが書ける、非常に引き出しの広いラッパーだ。挑発的なセルフブースト、自分を強く見せようとしない強さがある繊細な感情を歌った曲が同居する多様なディスコグラフィーを持つ。
鋭いながらもユーモアのある、生活に根差した歌詞、歌いやすいキャッチーなフックが彼の魅力。彼の曲の歌詞を聞けばわかるように、全ての曲は映画のような構成でストーリーテラーとして卓越している。
I-d magazineで彼の自伝的小説が掲載されている。


こちらもものすごく文章がうまい。ライブパフォーマンスも抜群で、私は20分ほどのミニライブしか見たことがないけどすごく盛り上がっていた。歌詞の内容に合わせてパスポートで客をビンタしたりする。

2.「Passport & garçon」

2020年3月発表の「Passport & garçon」(パスポートと少年)は全体を通して卓越している。日本のヒップホップには全然詳しくないけど、自分の中ではKendrick LammarのTo pimp a butterflyと並ぶ名盤。ライブでぶち上げだったIGUCHIDOもやっと音源で聴ける。



このアルバムはMomentが彼女と暮らす家がある日本の空港に着いた時の入国管理官とのやりとりが挟まれた曲、「KIX/Limo」から始まる。ビザが降りなかったら、日本で暮らせなくなったらどうしよう。という不安。俺の失敗を願う奴らと俺を利用する奴らの思い通りにはならないという宣言。人種差別、日本・韓国社会の抱える問題への批判、周縁化された海外ルーツ・少数民族の人々へのシャットアウトの曲からなる。
前作Immigangよりトラックもポップで普段ヒップホップを聞かない人にも聴きやすいアルバムになっている。全体を通して映画のような物語になる曲の並び。

特に好きな曲は「Home/Chon」「Seoul doesn't know you」「garçon in the mirror」「Teno Hira」。

一番すごいと思ったのは「Kimuchi de Binta」の歌詞全て。

ネットで見てた韓国人 それが俺?
犬を食って暴力振って それが俺?
皆が見たいものを演じてる 日本はステージ
YAHOOニュースのコメントで書いて「こいつはのいつも政治」

在日コリアンに向けられる偏見を演じて見せる胆力と観察眼に衝撃を受けた。自分は自分の属性への偏見に向き合う胆力は全くなく、無視してやり過ごすタイプなので、客観的に自分の属性を捉えた上でMomentはMomentだと認知が歪みまくった人間にも伝わるように歌にのせる彼に憧れる。

特に「garçon in the Mirror」の

鏡の中にはいつものMoment Joonの顔
でも見た気がする 俺じゃない誰かを
ライブ後にメロンパンを差し上げでくれた
インドネシアハーフのファン
そして笑顔の在日の少女
ラップ教室で行った福井高校で
出会ったスバスとテジュン
彼らから見えた 10年前のMoment Joon
彼らは10年後も笑えるだろうか
10年後日本はどうなってるだろうか
彼らも言われたそう「日本語上手」
言われちゃったそう「お前らは少数」
いや、違うと言ってあげたい
君らが日本になると言ってあげたい
そのために、俺は大人になる
俺には居なかった大人になる

の歌詞が嬉しかった。自分が半分インドネシア人だから、Momentの口からインドネシアって単語が出ただけてブチ上がった。このメロンパンを差し上げたファンと友達になりたい。
こんな風になれたらという憧れだけで終わらせたくない、自分の生活ひいては社会に向かっていく力をくれる音楽。
個人的に彼の音楽が心の拠り所になっている理由は、彼の音楽の中には自分がいる日本社会が見えるからだ。自分はMomentのように立場が不安定な留学生の移民でも、韓国や中国のように頻繁にレイシストからの攻撃に晒されがちな国の出身者でもない。ただの日本国籍のミックスの人間だが、外にアピールする時、メディアで表象される「ニッポン」に自分のような人間の存在はカウントされていないと感じることがある。日本の中で生活していても一瞬で外側に切り離される。だから「君らが日本になると言ってあげたい/そのために俺にはいなかった大人になる」と彼が言ってくれてすごく嬉しかった。

3.10年前のMoment,これから10年の私たちと日本

10年まえMomentは大阪大学に留学生として来日したばかりの頃だろうか。私と歳は変わらない。私はmoment joonやリズ・アーメッドなどの勇敢で才能あるラッパーたちからレイシストの発言でも揺らぎにくいグッドバイブス、他人に自分を出自やルーツを持って定義させることを拒絶する勇気をもらった。でも今でも生活で接した人から発せられる差別発言に即座に反論できないことがある。次の10年で彼らから貰った以上のものを私と同じような海外ルーツの年下の人に渡せるのかなと自問した。とりあえずもっと勉強して、仕事で出世して差別に黙って笑ってやり過ごさず、拒絶したい。それが、どんなルーツ、出自の人間でも平等に扱われる社会に近づくための私ができる手段だとこのアルバムを聞いてからもう一度考えた。
Momentみたいな大人がいてくれて、音楽を発表して共有してくれて本当に良かった。もうリスナーが乗せたお神輿からおりたいともラップしつつ、同時にgarcon in the mirrorでラップで大人として日本社会を良い方向に変えていくと言う姿を見せてくれてteno hiraで目の前で一緒に変えようと歌ってくれる。「Passport & garçon」は私にとってこれから先の10年でお前はお前みたいな海外ルーツの子供のために何すんの?と聞かれたようなアルバム

行動するときに自分に問いかけているBe who you needed when you were youngerという言葉がこの曲を聴いてからより強い意味を持つようになった。
手のひらを上げるのは意見を言う時のポーズ。開いた手は武器を持っていない証、stopのポーズの時も開いた手を体の前に出す。
日本社会の悪事にstopの意思表示を見せて行動しようという意味かなと思った。

それが君の口癖(What do you say?)確かに疲れそう
でもまずは僕ら自身が変わろうよ
そして日本の常識を変えるとこまで上がろうよ
難しいって知ってるよ だからそれまでは俺が戦う
後で一緒に言われようぜ「お前らホンマバカちゃう?」

この島のどこかで
君が手を上げるまで
寂しくて怖いけどずっと歌うよ
見せて 手のひら(ひら、ひら)
スカイツリーじゃなくて君がいるから日本は美しい

喜びます