(メモ)スタートアップと法律〜ファイナンス編その2〜
前回,「(メモ)スタートアップと法律〜ファイナンス編その1〜」と題して,スタートアップのファイナンスに関するメモを投稿しました。
こちらのメモでは,主に起業直後に良く使われるJ-KISSについてメモしました。
今回のnoteでは,J-KISSのような新株予約権ではなく,株式によるファイナンスに関するメモを残したいと思います。
株式発行によるファイナンスには,普通株式の発行と種類株式の発行とがある
株式発行によるファイナンスには,いわゆる普通の株式の発行による資金調達と,種類株式(優先株)の発行による資金調達とがあります。
端的に言えば,会社にとっては,普通の株式の発行による資金調達の方が都合が良いです。
一度優先株によって資金調達を実行してしまうと,その後の資金調達では,少なくとも同等以上の「優先性」のある優先株の発行が求められます。
できる限り,普通株式の発行による資金調達の可能性を模索する方が良いと思います。
ただ,優先株にすることで,(i)1株あたりの金額を高く設定できる側面があり,また,(ii)普通株式の金額を抑えておくことで税制適格ストックオプションを低い行使価額で発行できる側面もある点には念の為留意する必要があります。
また,出資を受ける金額が多額に及ぶ場合,投資家から種類株式の発行を要請されることも少なくなく,投資家の立場に立てば,それも仕方のないことだと思います。
「投資家にとって,どうして優先株である必要があるの?」
という素朴な疑問を抱くかもしれません。
投資家サイドのメリットを理解するために一番簡単なのは,ダウンラウンド時のM&Aをイメージすることだと思います。
少し例を示します(簡略化しているため,正確性には欠ける部分があると思いますが,ご容赦ください)。
例)α社は,創業者Xが1株あたり1万円として100万円で設立した株式会社である。α社は,設立2年後に,5億円程度の企業価値があるとして,投資家Yから,1株あたり500万円で,5000万円の出資を受けた。その1年後,企業価値を3.3億円と評価するβ社から買収の提案を受けた。
この例で,β社の買収提案に応じた場合,ざっくり言えば,Xは1株あたり299万円の利益を受けられることになりますが,Yは1株あたり200万円の損失を被ることになります。
大雑把に言えば,このような事態による損失を避けるために投資家は優先株による投資を希望するものといえます。
会社にとっては投資契約書はない方が良い
株式発行による資金調達を実行する場合,投資契約書を作成するのが通常です。
しかし,会社にとっては投資契約書は存在しない方が良かったりします。
投資契約書は,一部の例外を除き,会社の経営陣を縛るために存在します。
法的に求められる書類でもないので,可能であれば,投資契約書はないに越したことはないです。
ただ,そうは言っても投資契約書は作成が求められるのが通常です。
投資契約書を作成する場合には「投資契約書は会社の経営陣を縛るもの」という認識を持ちながら,投資契約書の各条項を吟味しましょう。
投資契約書の勘所は抑えておく方が良い
投資契約書は無駄に分量が多いです。
場合によっては,株式引受契約書と株主間契約書と分配合意書という3つの文書に分かれています。
正直,専門家でもない限り,しっかり読もうという気にならないと思います。
ただ,ある程度の勘所を抑えておけば,割と短時間で重要な規定を網羅的に確認できます。
投資契約書が手元に来たら,いきなりそれを読み始めるよりは,先にネット上の投資契約書に関する情報をいくつか読んで勘所を押さえておくのが良いと思います。
(今後,別のnoteでメモとして纏めるかもしれません)
優先株の内容(≒定款変更案)も勘所を抑えておく方が良い
投資契約書の勘所を抑えられたら,合わせて優先株の内容についても勘所を抑えておく方が良いです。
複雑なことが書いてあるようにも見えますが,よく読んだら,割と難しいことは書いてないです。
投資契約書の署名欄は分離できるようにしておいた方が良い
投資契約は,当事者が多くなることが多いです。
当事者が多いので,署名押印の手続が割と面倒です。
分厚い投資契約書を当事者全員に回覧するという流れで署名押印手続を進めてしまうと,この手続にかなりの時間を持っていかれます。
この手続に必要な時間を減らす一つの方法は,各当事者ごとに署名押印ページを作ることです。
各当事者ごとに署名押印ページを作っておけば,分厚い投資契約書を当事者全員に回覧することは不要になります。
各当事者から,当該各当事者用の署名押印ページを,総当事者数の分だけ作ってもらい,それを集めれば,投資契約書を総当事者数分完成させられます。
この方法だと,契印や割印を取得することは困難ですが,契印や割印まで求められないことも多い印象です。
投資契約書の当事者になるのは会社と,その投資契約書に基づいて投資する投資家だけではない
場合によりますが,投資契約書の当事者は,その投資契約書に基づいて投資する投資家と会社だけではないことが多いです。
投資契約書は,上記の通り,大雑把にいえば,会社の経営陣を縛るものです。したがって,会社の経営陣,特に代表取締役は,当事者になることが求められます。
また,投資契約書は,投資家の株主としての権利を保護する契約書という側面も持っています。
したがって,会社の全株主に適用しないと意味のない条項が契約書に入っている場合は,会社の全株主も当事者になることが求められます。
「株式引受契約書と株主間契約書と分配合意書という3つの文書に分かれていることもある」ということを前述しました。
投資契約書が3つの文書に分かれている場合には,当事者は,次のようになることが多いです。
・株式引受契約書...投資家/会社/経営者
・株主間契約書...投資家/会社/経営者/主要な株主
・分配合意書...投資家/会社/経営者/すべての株主
ただ,それぞれの契約書に書いてある規定によって,当事者とすべき対象は変わってくるため,あまり画一的に考えない方が良いかもしれません。