【イベントレポート】京急アクセラレータープログラム 採択スタートアップに聞く、創業〜現在まで(後編)
昨今のスタートアップブームの中で、起業を志す人々が増えている。そんな中、実際にイノベーションの第一線で活躍するスタートアップは、どのような道を辿り、事業を成長させることができたのか。
オープンイノベーションコミュニティ「AND ON SHINAGAWA」では、「京急アクセラレータープログラム」の採択スタートアップ4社に創業から現在までを語るパネルディスカッションを開催した。
イベントレポート前編では、登壇スタートアップ4社のピッチの様子を紹介した。後編では、創業期から現在にかけての体験をメインテーマとしたパネルディスカッションの様子を紹介する。
繰り広げられた“生の談義”は、起業したい方・起業したての方、さらに大企業の新規事業担当者に、大いに参考となるだろう。
創業期の各社のエピソード
橋本さん(以下、橋本):今回は、事業領域、事業ステージが異なるスタートアップの4社から、それぞれの立場で創業から現在までのエピソードお聞きしたいと思います。
アイカサ「とにかく訴え続けた」
坪田さん(以下、坪田):まず、「創業時に苦労したこと・それをどう乗り越えた?」をお聞きします。一口に起業と言っても、入念に準備してから起業する方もいれば、起業への思い抑えきれずに飛び込むような方もいますね。丸川さんはどうでしょう?
丸川さん(以下、丸川):私はどちらかというと後者で、「傘を安く使えたらいいじゃん」みたいな思いで走り出したので、苦労しました。
アイカサ 丸川さん
橋本:私たちが1度目のアクセラレータープログラムを始めた頃の説明会に、起業前の丸川さんが来てくれたのを覚えています。そこから1年で事業を立ち上げて、2年目で利用者10万人と、凄まじいスピードでのスケールだと思います。でも、最初は傘のシェアリングという構想が投資家などから受け入れられなかったんじゃないですか?
丸川:はい。20社くらいのVCに断られました。そもそも、法人として仕事をするのが初めてだったので、市場規模も正確に出せず、ビジネスモデルも素人レベルでしたから。ボロクソに言われて帰ることもあってメンタル的に辛いときもありましたが、担当者と話して初めて気づくこともありました。
坪田:無料で、事業をブラッシュアップしてもらえる機会と思えばね(笑)。でも、前例のないアイデアを、どのように分かってもらったのでしょう?
丸川:まず担当者と、多くの人がビニール傘を仕方なく買っている現状を共通認識しました。そして、年間の消費本数は8000万〜1億本、額にすると400〜500億円ほどになることを伝え、タクシー市場をUberが変えたように、傘市場が変革してもおかしくない、と思ってもらえました。
京急電鉄 橋本さん
橋本:丸川さんは諦めずに成功されましたが、実はスタートアップが、いきなり大企業に協業を持ちかけるのはあまり効果的ではありません。大企業とスタートアップでは、事業に対する思考も言語も全く異なるので、「良い翻訳者」を見つけるのが効果的です。アクセラレータープログラムの活用やAND ONのようなエコシステムを運用している場合は積極的に活用し、スタートアップに理解がある担当者を巻き込んでいくことが有効になると思います。
JX通信「成功体験がメンバーの目線を合わせてくれる」
坪田:創業期の仲間も重要だと思いますが、JX通信社はいかがでしょう? 細野さんは大企業を内定辞退してJX通信社に入社したとのことですが、印象的なエピソードはありますか?
JX通信 細野さん
細野さん(以下、細野):スタートアップって基本的に、めちゃくちゃ揉めるところから始まると思います。メンバーのほとんどが社会経験のほぼない若者なので、手探りで野心だけが先走って……。さらに、メンバーには理系も文系もいるので知識のギャップがあって、二日に一回ぐらいは喧嘩をしていました(笑)。入社時は、荒れ果てた大地みたいな職場だったので、最初はコミュニケーションが大変でした。
坪田:これから起業しようとする人に向けて、人間関係のアドバイスはありますか?
細野:一番大切なのは、早期に成功体験をマイルストーンとして組み込むことです。暗中模索のときは、目標を設定することすら揉めるので。無駄なディスカッションはやめて、まずサービスなりコンテンツなりを作ってしまうことに尽きると思います。メンバー内の目線が合えば、揉めることが少なくなりますから。
橋本:具体的には、どういうステップがありましたか?
細野:私が入社した 2012年頃は、パーソナライズ型ニュースアプリが流行っていて、弊社はVingowというニュースアプリをローンチしたものの、2〜3年後に戦い敗れました。そんな私たちが初めて成功体験を得られたのは、Vingowをやめて新しい事業の軸を作ったときでした。それまでは、失敗し続けてかなり疲弊していましたね。その中でやっと木の幹が育ってきて、これを育てれば成長できると組織で共有できたのが、2015年頃。その前の3年間は結構しんどかったです。
SEQSENSE「2人のバランスで社内外を巻き込み」
坪田:大変な模索の期間があったのですね。続いて、SEQSENSEの中村さんに伺います。大学との共同創業ならではのエピソードや苦労はありましたか?
SEQSENSE 中村さん
中村さん(以下、中村):私は金融機関で働いていたころに、知り合いだった黒田教授から声を掛けられて手伝い始めたので、巻き込まれ型なんです(笑)。最初は、事業のファイナンスに携わるだけだと思っていたら、全部自分でやらなくてはいけないとわかり唖然としました。他に苦労したことといえば、多分野のエンジニアたちの意志を統一していくことですね。その上、私は理系でも研究者でもないので、組織の意見のまとめ役になることを心がけました。
坪田:理系が専門でないのに、いきなりロボティクスのスタートアップの代表となると、大変でしたね。また、SEQSENSEのようにハード開発まで手がけると資金調達も大事な鍵となりますが、いかがでしたか?
中村:ハード開発は時間がかかるので、3〜4年ではまず黒字化できません。そして、シード期はオフィスもなく、メンバーは私と黒田教授のみでした。そんな状況で、ジャフコさんとTISさんから2億円出資していただけたのは、黒田先生の盛るトーク術があってこそ。あとは、二人とも経験を積んだ“おっさん”だったのが、功を奏したのかもしれません。
サムライインキュベート 坪田さん
坪田:明らかな嘘は良くないですが、将来のビジョンや達成したい像を「盛る」ことはある意味大事だと思います。先日、ある起業家にビジネスグロースの理由を尋ねたら、「分不相応な思いを持つことです」と言われました。「自分1人では達成できない志を掲げることで、人に声を掛けたりお願いしたりできる」とのことで、大きな目標を掲げることは、自分を鼓舞することにもつながるのでしょう。
scheme verge「ビジョンにより、関係者が選びぬかれた」
橋本:scheme vergeさんの目指されるビジョンは交通や街づくりの変革ですが、リアル産業であり、既存産業の壁が高いテーマだと思います。シード期でそこの理解を得て、周囲を巻き込んでいくのは大変ではありませんでしたか?
scheme verge 嶂南さん
嶂南さん:起業当初はVCから「交通やスマートシティ領域は、スタートアップにはできない」と言われて話を聞いてもらえないことが多かったです。また担当者が中年の方の場合、ネット上の記事を最新情報だと思っていることが多く、知識の食い違いから喧嘩になったこともありました。そういうことを経て、現在は社内外ともに選び抜かれた関係性が残った気がします。
坪田:スタートアップの事業には、技術起点と社会課題起点とがありますが、scheme vergeはどちらですか?
嶂南:実はその点はあまり区別していません。歴史を振り返ると、蒸気機関が生まれたから鉄道網が発達しましたし、技術的な発展と社会の変化はセットで起きてきたと思うので。実際、私たちが瀬戸内海で事業を始めるときに真っ先に調べたのも、瀬戸内海の交通発展と技術革新の関係でした。
事業スケールの成功要因
橋本:続いての質問は、「事業をスケールさせるために工夫したこと・苦労したことは?」です。各社さんいかがでしたか?
嶋南:スケールへの取り組みは現在進行系の取り組みでありますが、万博に向けてなど長期プロジェクトが多いため、トラクションが出れば出るほど、短期の資金繰りに難しさが出てきます。そのため、アクセルとブレーキの踏み分けを常に意識していますね。また、メディアの取材などは基本的に断らないようにしており、メディアに取り上げられたという材料が、強い営業材料になっていたりもします。
丸川:昔は法人営業の仕方もよくわからない中もがいていましたが、その中で素敵なご縁ができ、描いていたビジョンへの賛同が得られるようになってきました。京急アクセラレータープログラムでの品川駅への導入も序盤でのその1つと言えます。
中村:弊社は、警備ロボットを発表したところ、予想以上のお声掛けをいただき、改めて警備の人不足の深刻さを実感しました。さらにラッキーパンチだったのが、三菱地所さんが出資・協業してくださったこと。1番最初に大企業に引き上げていただいた効果は大きかったです。
細野:未だに「ネタは足で稼げ」という新聞社はまだあるものの、この4年間ほどでだいぶデジタル化への拒否反応は消えてきた感覚があります。もちろんサービス開始当初は、報道にSNSの情報を使うことに懐疑的でした。しかし、東京のキー局に導入されていくと、その事例を見て、導入してくれる局が増えていきましたね。センターピンを倒すことで、周りも徐々に倒れていく感覚です。
これから起業を目指す方へのアドバイス
では最後に、「これから起業したい人、起業したての人へのアドバイス」を一言ずつお願いします。
細野:完全無欠な人間はいないので、コラボレーションが重要です。例えば、RPGのパーティでも炎タイプだけで固まったら脆弱ですよね。また、どれだけ優秀でも1人では気づけないことがあります。複数人とのやり取りのなかに気づきが生まれるので、多様性が大切なんです。各人の個性がミックスされた、最強のパーティを目指してください。
丸川:私は失敗のなかからも学ぶことが多かったのですが、早い段階から理想の状態を詳細に考えておくことが、実現への近道かな、と思います。自分で可能性を決めつけずに、理想と事業の全体像を描いてください。
嶂南:事業を始めると、遠巻きにマイナスなことを言ってくる人が出てきますが、自分を信じてくれる人や仲間を信じて取り組みましょう。もちろん、合理的に変えなきゃいけないことは変えなきゃいけんですけど、自分が聞くべき声を間違わないように。
中村:私は、ミッションがすごく大事だと思います。起業する本人のミッションが本当じゃないといけない。例えば、よくある「世界を変える」というような内容は嫌いです。本心ではないでしょ、と感じてしまう。本当に思っていることを、組織として大上段に掲げてやっていかなければ、事業の存在自体が危うくなってしまいますから。
坪田:起業家だけでなく、すべてのビジネスマンにとって素晴らしいメッセージをいただけました。一口にスタートアップといっても、起点も、課題解決の仕方も、成長の仕方も多様です。起業を目指している方は、この4社の体験談を参考にしながら、そして、様々なプログラムやエコシステムを活用しながら、自分の事業を育てていってください。
▶︎イベントレポート 前編はこちら
主催
■ AND ON SHINAGAWA
「デジタル時代のモビリティ×ライフスタイル」を生み出すためのオープンイノベーションコミュニティ。「デジタル時代のモビリティ×ライフスタイル」をテーマ領域に、スタートアップ、大企業、VCなどによるイノベーションエコシステムの形成を目指しています。品川駅至近のワークスペースの提供や、ピッチイベントの開催などによるネットワークづくり、起業支援プログラムの提供などを行う。
【「AND ON Startup Garage」のお知らせ】
AND ON SHINAGAWAでは、起業検討中・直後の方を支援する新たなプログラム「AND ON Startup Garage」を始動しました。
常設型なのでいつでも応募でき、VCとして経験豊富なサムライインキュベートがアイデアのブラッシュアップにも協力します。さらに、応募から1ヶ月後にはピッチ審査を経て、出資判断をします(最大1,000万円)。出資後は1年以内の社会実装を目指して、京急グループが中心となった支援を行います。
クイックにプロダクトを開発して、早くサービスを社会実装させたいスタートアップにオススメのプログラムです。
→書類提出はこちらから。
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