古民家から"共創型キッチンスタジオ"までの道のり/vol.1 理想と現実
共創型キッチンスタジオ「Brew」は、高知県の中心に位置する高知市はりまや町で、国内でもわずかとなっている木製アーケードが特徴のはりまや橋商店街にあります。
キッチンスタジオとしてオープンして3年目になりようやく認知度も高まってきたところですが、2024年11月末をもってクローズする運びになりました。今後は売買物件として準備されているようです。
物件の出会いからコンセプト含めたブランディングの方向性を見出すまでにはっきり言ってかなり苦労しました。だからこそ、この経験が何か始める方の参考になればと、実際にかかった資金など含め可能な限り公開する事にします。
古民家、地域貢献、コミュニティづくり、地方創生、地方活性、商店街、このあたりのキーワードに関わっている方にヒントになることがあるかもしれません。
物件との出会い
まず、私が "食" により深く関わるきっかけになった「こうち食べる通信」の話を少し。「食べる通信」は、東日本大震災がきっかけで生産者を支援したいと誕生し、食材を付録として同梱し、読み物と合わせて定期的に会員さまにお送りする情報誌。
一時期は全国に30誌以上あったかと思いますが、現在は18誌のようです。各地域で立ち上げたいと思う企業や個人の方がプレゼン〜審査を受け、売上から手数料を支払う形でシステムを利用する形で運営します。高知でも立ち上げたいというご相談があり、2019年より2年間「こうち食べる通信」の編集長を担当させていただき、さまざまな地域に出向き、生産者にお会いしてお話を聞いて制作していました。
創刊の準備を進めていた2019年2月頃、物件の大家さんより「キッチン付きの貸しスペースを持っている者なんですが・・・」と、購読のお申込みについてお問い合わせをいただき、数週間後に内見に伺わせていただいたのがはじまりです。
▼「こうち食べる通信」のプロモーション映像
商店街側からは古民家とは分からない場所でしたが、公園と商店街のアーケードをつなげるように建っていて、アーケード側のシャッターをガラガラっと上げると、実際に車を止めていた駐車スペース(現在のガレージスペース)を通り抜け奥に進んでいくと、古さを活かしつつ水回りなどは清潔でセンスよくリノベーションされた美しいキッチンスペースが広がっていました。こんな素敵なスペースが眠っていたとは!
大家さんは文化的なことやアートにもアンテナが高い方で、食を大切にしていただきつつ一緒に楽しめたり、地域に貢献できるような場として運営して欲しいと人を探していたタイミングだったそう。
理想と現実のギャップに気づけなかった
まずはいろいろ使ってみて欲しいと言ってくださったものの、ほどなくコロナ禍に突入。イベントを企画しては中止ということも何度もあり、物件と出会った2019年から3年間は、コロナ渦で活動は制御されつつも撮影に使わせていただいたり、可能な範囲で小規模なイベントやボランティア活動など、さまざまな使い方を試させていただくトライアル期間でした。
この間はいわゆるバーター契約で、家賃が発生しない代わりに、この立地、環境で出来るのかを体と頭を使って数年間積み重ねてきました。案件に例えるなら同じ条件でお引き受けすることは二度と無いかな(笑)。
こちらの物件は、大家さんが住まう事をイメージしてリノベーションされていました。まず、ここポイント。古民家の改装は、もともと住居に使っていたこともあり、営利目的となると想像以上に改装費用がかかります。
住まう目的と、商いをする目的では作り込みが変わってくるので、プライベートだったら家庭用でOKだけど商売するならこのくらいの機能は必要だよね、という問題が随所に出てきます。
例えばキッチンの換気扇。以前、家庭用のものだと本格的なお料理をした際、キッチン全体がすぐに煙で真っ白になってしまい、業務用に変更した経緯がありました。
結果、商売をしようと考えた際、必要な工事がどんどん見えてきてキッチンスタジオとしてオープンするまでに極力最低限のところ、いろいろ諦めつつを含めて進めてみたものの500万円以上かかってしまいました💦(この詳細はvol.3でお話しします)。
しかもBrewを運営している弊社株式会社and.(株式会社VISIONECTは2023年に新たに起業した会社)はデザイン&建築事務所がベースなので、デザインは自前でできるところもあり、工事や実費のみの金額です。そう考えるとBrewの規模でもそれなりにお店をオープンするのであれば改装費として1,500万円〜2,000万円くらい必要になると思います。
大家さんの理想の利用の形と現実の環境にはかなりギャップがあることに当時は気づけませんでした。逆に言うと最初にこの感覚があれば賃貸してキッチンスタジオを運営する選択肢ではなく、この立地でも来てくれるクオリティが出せる料理で飲食店を運営する形がベストなのかなと。そうでないとかけた初期費用を取り戻せない。
2019年からのお試し期間は、大家さん、私たちにとってはいわゆるマーケットリサーチといいますか、立地条件と建物の設備でできること、できないことが明確になってきてその都度少しずつ設備強化していく訳ですが、あるべき姿に近い光が見えるまでには約3年かかったことになります。
通常、賃貸で店舗を持つには、家賃は売上の約10%だと言われていますが、商売としての顔、地域活動や社会貢献としての顔、どちらも共存させるのはなかなか難しいことがこのBrewで実体験できたことは大きいです(と考えるしかない、前に進むためにそう考えたい)。
目的を間違えるとかえって遠回り
私は20年以上デザインやブランディング領域を専門にして20年になりますが、今回の事を商品開発に例えるなら、どこで誰に売りたいかが明確でないまま作ってしまって売り方が分からず迷子になっている状況に似ています。
地方でのご相談で、補助金が出るからなんか作りたいと安易な考えから着手してしまう事があります。着手してから終了するまでに1年無いものもあり、今まで温めていた企画を活かすならまだしも、ゼロスタートでそのパターンだとリサーチ含め圧倒的に時間が足りず、とにかく形にしないと補助金降りないからと力づくで仕上げてしまうパターン。
形にはなったけど、これって買う人誰なの?が見えづらいから売れない。一応プロのクリエイティブ集団ですから、表層だけなんかいい感じの装いは簡単に出来ます。だけど情報過多、商品過多のご時世、魂が乗ってないと売れ続ける商品として成長する事はありません。
今回はスペースなので、少し違いますが、賃貸なのに売上が無いと、当たり前ですが、家賃、光熱費、人件費はかかるので、赤字を出しながら地域貢献する場になり長く続かないといった構図になりがちなんです。
以下の記事でサンプルとして「Brew」のアイデアシートを共有していますが、トライアル期間はこのシートは埋められなかったと思います。
声を聞き続け、固まったコンセプト
私がこの5年間、苦しくも続けてきたのはこの場所があったことで出会えた人、人生変わった人、動き出せた人、応援してくれる人、いろんな立場や想いの声を聞き続けてきました。
単純に不動産として物件を賃貸するだけでなく、大家さんが相談当初ご希望されていた想いを形にし、楽しく携わっていただけるような場ってどんな形なんだろうと考え抜いて、ようやく4年目になる2023年、ひとつの答えに辿りついたように思います。それが誰もが主役になれるキッチンスタジオ「Brew(ブリュー)」という挑戦される方を応援するコンセプト。
vol.2は、コンセプトにたどり着くまでの数々のトライについて共有していきます。
以下は撮影でキッチンを使っているシーン。撮影は本当にたくさん使ってきました。
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